あわてんぼうのサンタクロース、12月26日にやってきた。
春海水亭
12/26
「ホッ、ホッ、ホッ、メリークリスマス!良い子にしておったかね?」
「今日、12月26日ですけど」
2021年の12月26日の夜、二階の少年の部屋に窓から入ってきたのは大きな白い袋を担いだ全身赤い服装でもじゃもじゃと白い髭を生やした人の良さそうなお爺さん――サンタクロースとしか言いようのない人だった。
もっとも時差を考慮しても、どう考えても遅刻であるとしか言いようがない。
そもそも世界の時間がどうであろうとも、日本が12月26日ならそれはもう12月26日のことである。
他国の時間で待ち合わせ時間に間に合っても、日本時間で間に合っていなければ何の意味もない。
「ワシはあわてんぼうのサンタクロース」
「あわてんぼう!?ゆっくりやさんのサンタクロースじゃないんですか!?」
「度の過ぎた大慌てのせいで、来年のクリスマスを先取りしに来てしまったよ……で、どうだい?良い子にしておったかね?」
「始まってもいないことを過去形で聞かれても……」
「ま、良い子にしておったということにしておこう。友達とは仲良く、家のお手伝いもしとるし、勉強も頑張っとる、ボランティアにも積極的に参加し、なにより人の命も救っておった君には良いものをあげようね」
「来年の良い子のハードルがバク上がりしてる……」
サンタクロースはそう言うと、担いだ袋の中から車の鍵を取り出し少年に渡した。
「ホッホッホ、来年の善行を考慮して良い子の君には2000万円の高級車をあげよう」
「一介の小学生に背負わせるには因果応報が重すぎるよ!!!!っていうかこのご褒美の凄さを考えると、来年の僕、数百人単位で命を救ってる感じになっちゃうんだけど!?」
「未来を頼んだよ」
そう言って、サンタクロースは少年の肩に手を置いた。
サンタクロースの表情は穏やかであったが、その目は隠しきれない憂いを帯びている。
「未来を頼まれてしまった……」
サンタクロースの分厚く温かい手の感触を肩に感じながら、少年は憂鬱げに呟く。
「ホッホッホ、さぁ窓の外を見てご覧」
「ん……」
窓の外を見ると、少年の家の側には流線形で一切の継ぎ目が見えない黒い何かが置いてある。
大きさは大型車両のそれであり、信じられないことにわずかに浮遊している。
「来年大流行のAI搭載自動運転車だよ。2022年の未来ではAIによる自動運転なら子供だけでも自動車に乗れることになったからね」
「一年で技術と法律にとんでもない革新が起こっている!!」
「さぁ、鍵に耳をあててごらん。AIとおしゃべり出来るからね」
少年が自動車の鍵に耳を当てると、無機質な声が聞こえてきたのである。
「我ハマザーAI……新タナル星ノ管理者……愚カナル人間ヲ殲滅セン……」
「来年が怖すぎる」
「ホッホッホ……未来を頼んだよ、少年」
「…………あっ、もしかして来年僕がする善行ってこのマザーAIから人類を救うことなの!?」
あわてんぼうのサンタクロース、12月26日にやってきた。 春海水亭 @teasugar3g
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