第3話かれこれ23年経つのか

僕の居酒屋デビューは大学の時、村さ来であった。金が無いので、熱燗二合と付きだし。

居酒屋に一人で行くなんて、ドキドキしたもんだ。それから、飲み会ばかりのサークルへ入り、仲間とガヤガヤ飲んだ。

しかし、飲むには金がかかる。

僕はアルバイトを掛け持ちした。

学習塾講師と韓国焼肉屋。時給は講師は1コマ1000円、焼肉屋は630円だった。

塾講師は最も力を入れた。将来、高校教諭の免許を取りたかったからだ。

教え子はどんどん学力を上げて、家族から丁寧な挨拶を受けたもんだ。


そんな時だった。隣に住む、同じ大学の先輩が飲みに誘ってくれた。

「ありがたいけど、今、お金ないんだ」

「金の心配は要らないよ!さっ、行こう」

と、焼き鳥屋へ連れて行ってくれた。

結構、酒を飲んだと記憶しているが、あの時の先輩の言葉が忘れられない。

「先輩が後輩に酒をおごるのは当たり前の事。羽弦ちゃんも後輩が出来たら、金の余裕があったら、誘うんだよ!」と。

先輩は夏休み河口湖の傍の旅館で働き金を作り、僕を飲みに誘ってくれたのだ。


その晩の事は鮮明に記憶している。会社で後輩が出来た。結構、飲みに誘って飲んだもんだ。しかし、今は先輩の飲みの誘いは若者にとっては、迷惑らしい。

誘いに乗るのは全体の4割だそうだ。

だから、若い連中はあまり誘わないで、中年同士で酒を飲む機会が多い。

先輩の、

「酒は先輩が後輩に奢るもの」と言う言葉は化石化してしまった。

先輩!今、どこの学校で英語教師しているのか分かりませんが、23年経ってもあの時の言葉は忘れません。

ごちそうさまでした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

居酒屋でコペルニクス的転回が起こる 羽弦トリス @September-0919

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ