イブの夜から始まる珍魔王譚〜本当にこれでいいのか?〜

ミケネコ ミイミ♪

サンタな魔王が現れる!?

 __とある世界の、ある若いカップルに起こった、不思議でおかしな物語。__




 しんしんと雪が降り積もる、12月24日の夜。


 とある貴族の別荘で一組の若いカップルが、暖炉にあたりながら話をしていた。


「ねぇ、ライア。サンタクロースって、本当にいるのかな?」


「アイリ。どうなんだろうな。でも、本当にいるなら。こんなに頑張ってる、俺たちのところにもさぁ。来てくれたって、いいと思うんだけどなぁ」


 ライアは思い詰めた表情で、暖炉の火をみつめている。



 アイリとライアは、互いに幼いころ、戦争で親兄弟を亡くした孤児だ。


 この別荘の所有者である、貴族ディオス・ラキドに拾われ使用人として働いている。



「そうだねぇ。でも、私たちにとってのサンタクロースってさぁ。ディオス様だよね」


 満面の笑顔でアイリはそう言った。


「そうだな。あの時ディオス様が、俺たちをみつけて助けてくれなかったら。今ごろ……」


「うん。多分、こうやってライアと話すこともなかったよね」


 アイリは、その時の事を思い出してしまい目に涙を浮かべる。


「もしかして、昔のことを思い出したのか?」


「うん。だけど、今は大丈夫。ここには、私たちと同じような境遇の人たちもいるし。それに、ライアもそばにいてくれるから」


 涙を拭いアイリは無理に笑った。


「無理してないか? つらいなら、俺の胸で泣けばいい」


 心配になりライアは、アイリを抱き寄せる。


 ライアに優しく抱きしめられたアイリは顔を赤らめ、ドキドキと鼓動が激しく脈を打ち始めた。


 アイリは、それを気づかれないようにライアの胸に思いっきり顔を埋める。


 そして、アイリの気持ちが落ち着いたあと二人は、自分たちの部屋に戻った。




 時は過ぎ、12月25日の深夜の誰もが眠っている時刻。


 この別荘の二階にある広間の中央に、まばゆい光が差し込んだ。それと同時に、赤い服を着た一人の男が立っていた。


 そしてその赤い服を着た男は、なんでここにいるのか不思議に思い考え悩む。


 だが、ここに立っていても何も分からないと思い、とりあえず別荘の中を探索する事にし歩き出す。


 すると、この別荘のテラスを見つけると外にでる。そして、ここはどこなのかと思いながら景色を眺めた。




 そのころアイリとライアは、なぜか急に目が覚め眠れなくなり、テラスへと向かっていた。


 途中でアイリとライアは行き合い、一緒にテラスに向かう事にする。


 楽しそうに話しながらテラスまでくると、人影が見え警戒し立ちどまった。


「待って、アイリ! 誰かテラスにいる」


 ライアが小声でそう言い。アイリは、ライアの後ろに身を潜める。


「こんな時間に、誰だろう?」


「赤い服を着ているけど。サンタクロースにしては、すこし派手な気もする」


 そう言いライアは首をかしげた。


「そうだね。それに帽子も被ってないし」


 二人が小声で話をしているとその赤い服を着た男は、ムッとした表情で建物の中へ入ってくる。


 それを見た二人は慌てて隠れようとした。


 だが時すでに遅く、その赤い服を着た男にみつかる。


「待てそこの二人、逃げるな!」


 そう言われ二人は立ち止まり振り返った。


 赤い服を着た男は、それを確認すると二人に近寄る。


「おまえ達に、聞きたい事がある。ここは、いったいどこだ?」


 そう聞かれライアとアイリは、赤い服を着た男の言っている事が分からず首をかしげた。


「言ってる意味が分からない。てか、あんたこそ誰なんだ?」


 ライアはアイリを自分の後ろに隠し身構える。


「うむ。われが何者か、か。そうだな。名乗るのが筋だろう。わが名はサタンクローゼ=ゼルデア。魔王の中でも、最上位クラスの魔王だ!」


 それを聞きアイリとライアは、なぜか目を輝かせた。



 __そう最後の魔王の部分を、ライアとアイリは聞いていなかった。


 そのうえ二人の耳には、サタンがサンタに聞こえ。その下のクローゼも、クロースに聞こえていたのだ。__



「うわぁ〜サンタクロースだぁ! イメージとは、違ってたけど本当にいた」


 そう言いライアは、サタンクローゼの体にしがみついた。


「うん! イメージより、すこし怖い顔をしてるけど。本物なんだよね」


 アイリもまた嬉しさのあまり、サタンクローゼの腕にしがみついた。


「おい! 何を、わけの分からん事を……」


 だがサタンクローゼも、二人に好意を持たれまんざらでもない様子である。


 その後サタンクローゼは、いろいろと知るために自分の能力を使い二人の記憶を探った。


(うむ。記憶をみる限り。やはりここは、異世界のようだな。それにサンタクロースという者。子供にプレゼントだと、なんとも滑稽なことを。

 そもそもわれを、こんな者と一緒にするとはなぁ。まぁ、会ったことがないためなのだろうが。

 そんな事よりもだ! そのこと以前に、この二人は……。いや、この家の者たちもだが。ここの所有者により、なんと惨い仕打ちを受けている!)


 そう思いサタンクローゼは難しい顔をする。



 そうこの別荘で働く者たちは、みな孤児ばかりで不当な扱いを受け働かされていた。もちろん賃金などもらっていない。



 サタンクローゼは、そんな二人のことが気になり様子を見る事にする。


 そして理由を適当に作り、ひとまずライアの部屋に居座った。



 __余談ではあるが。なぜサタンクローゼが、この世界に来てしまったのかというと。


 ここに転移する前、勇者と戦っていた。だが勇者が放った技と、サタンクローゼの技とがぶつかり合い反発し爆発する。


 その爆発にサタンクローゼは巻き込まれた。と同時に次元に亀裂が生じ、この世界に飛ばされたのだ。__



 その後サタンクローゼは、自分の能力を使い二人の様子を伺っていた。


(やはりこの屋敷の者たちは、みなが不当な扱いを受けておる。だが、それに気づかず働いているとは……。うむ。われには、関係ないと言いたいのだが。

 しかし昨晩、なぜか分からぬが。あの二人のことが気になって、どうも落ち着かなかった。

 でもどうする? われの力なら、どうでもできるが。この者たちは、なぜか今の状況を不服と思っておらん。一番、厄介だ!)


 サタンクローゼは、いつになく人のために考えていたせいか、体中にじんましんが出来かきむしり始める。


「クッ。何ゆえわれが、こうまでして人のために考えなければならんのだ!」


 イライラしサタンクローゼは、近くのテーブルをドンッとたたいた。


「フッ、仕方ない。今は、もとの世界に帰る方法が分からん。それを知るためにも、協力者は必要だ」


 そう思いサタンクローゼは、ライアが部屋に戻ってくるのを待つ事にする。


 そして日が沈み暗くなるとライアは、部屋に戻ってきた。


 サタンクローゼは、戻ってきたばかりのライアに話しかける。


「ライア。頼みたい事がある」


「頼みって?」


 そう言われライアは聞き返した。


「われは、もとの世界に帰る方法を探さねばならぬ。だが一人では、それを行えるか不安だ」


「確かにそうですね。どんなに能力がある人でも。知らない土地を歩くのは、大変だとおもいます」


「それでだ。ライアとアイリが、われとともにくるというのであれば。おまえ達の願いをかなえてやってもよい。どうだ? 悪い話ではないと思うが」


 そう言われライアは嬉しくなる。


「いえ願いは何もありません。あるとすれば、ただ一つだけ。アイリとともに幸せにすごせれば、どこでもいいと思っている。それだけです」


「なるほど。そうなると、われとともには行けぬというわけか」


 サタンクローゼは、なぜかガッカリした表情になっていた。


「いえ。お供させてください。恐らく俺が言えば、アイリも一緒に来てくれると思います」


 そう言いライアは、アイリの部屋へと行きわけを話す。すると二人は、ライアの部屋にくる。


「理由はライアから聞きました。私も、一緒にお供させてください」


 アイリはサタンクローゼに頭を下げる。


「うむ。おまえ達がそれで良いというのであれば、われからもお願いしたい」


 ほぼ頭など下げたことのないサタンクローゼだったが、なぜかこの時ばかりは頭を下げた。


 その後三人は話し合い、旅の計画を練る。そしてサタンクローゼの能力により、この別荘から外へでた。


 三人の旅はこの地から始まり、サタンクローゼの能力によりライアとアイリが強くなっていく。


 そして旅を続ける間もライアとアイリは、ずっとサタンクローゼがサンタクロースだと信じ続けるのだった。




 __その後、この三人がどうなったのかは不明である。__おしまい〜【☆完☆】

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