第18話 そして『蒼』へ
『ガ#アァH#B####>D##_#ァぁ####?P#ア‼』
地上に
「な…なんだ⁉地下で一体、何が起きてるんだ⁉」
「お嬢‼」
「…待てフェイ!俺も行くぞ!」
「先輩はお嬢の保護を!」
「……頼んだぞ!フェイ‼」
二人が石階段を降りきった先にいたのは、倒れ伏すラニと、異形。
異形と化した、エピーズ。
その姿はまるで……
「なんだよ、アレ……まるで…まるで‼」
「魔物じゃないか⁉」
『QRRRRW……B…RRRRRR……』
エピーズの右腕は腫瘍のように膨れ上がり、黒くぬめった触手へと。
肘であった辺りからは四角い歯が不気味な声を発し。
肩には血走った巨大な眼球たちが、その紫の光で不規則な軌道を描いていた。
「先輩、お嬢を連れて逃げてください…!」
「ボクじゃちょっと……手に余ります」
「逃げろってのか⁉」
「逃げろっつってんだ!バカヤロウ‼」
「一分稼ぐからニーニャ様も連れてどっか行けよ‼」
「…どこに逃げるってんだ…逃げ切れるわけないだろ……こんなバケモノから…」
「逃げ出せるわけないだろ‼『あれ』より弱いヤツ相手に‼」
「俺だってこの屋敷の門番だ!」
「旦那様を止めるぞ‼フェイ‼」
「ったく…骨は拾って欲しいっスね?」
「じゃ、仕事をしますか」
二人は気負うことなく脅威へと立ち向かう。
恐れ、困惑、隠しきれぬ動揺はあれど、それをものともせずに。
激突の陰で、少女は意識を取り戻しつつあった。
明晰夢のような感覚で戦いを眺める。
フェイは異形と化した部分を切り落としていくが、再生力がそれを上回る。
リヒターも眼球を狙い魔法を放つが巨大な歯がそれを噛み砕く。
「何だ⁉何の生物を模したらあんな事が出来るんだよ⁉」
リヒターは異形の反撃を、ぶかぶかの靴を履いているように避ける。
フェイはそれに横槍を入れ、舞うように触手を切り落としてゆく。
「喋ってないで攻撃を続けて!再生中は動きが鈍くなる‼」
「撃って切って、しのぎまくるんスよ‼」
「ジリ貧じゃねーか‼」
フェイは一旦距離を取り、
「じゃあ逃げたらどースか⁉足手まとい‼」
「あ゛ぁ⁉お前の方が逃げたいんじゃないか?20秒なら稼いでやるぜ⁉」
「少ないっスね⁉門番向いてないんじゃないスか⁉」
「黙れよ!サボり魔‼」
『D……DDDDDDDDDDD<‼』
何と楽しそうに戦うのか。
ああ、羨ましい。
父親とあんな風に過ごすのが、自分の望みだったのに。
他の者に先を越されてしまった。
まだ間に合うだろうか?
そうとも、終焉にはまだ早い。
たとえ最悪の終幕で終わってしまったとて、再演を望んでいいのだとも。
その舞台に立ってもよいのだろうか?
そうとも、全員が主演なのだ。
私が少しだけ、背中を押してあげよう。それが私たちのすべきことだから。
誰とも知れぬ声が、少女を立ち上がらせる。
……今なら、あの
「…風よ、どうか、私の願いを聞き届け
「お嬢⁉気が付いたので⁉」
「どうか、私の愛する者を救い
「……っ⁉フェイ!離れろ‼」
「どうか、その栄光を我らに授け
『オ&&K+%Eィイイイイ‼』
「
エピーズの全身を高密度の空気が覆う。
黒い塊はその再生力で耐えようとする。
だが間に合わない。
触手は崩れ、歯は砕かれ、目玉は潰され。
塊だけがじわじわと、崩れてゆく。
高い再生能力が己により永い苦痛をもたらしたまま、消滅した。
「旦那様‼……よかった、まだ脈はある……っ!」
魔物と化した部分は消滅したが、禍々しい傷跡は半身を覆っている。
そこにエピーズの浸食された右腕は、もう無い。
カツン、と黒いアーティファクトが地面に落ち、粒子となって消えてゆく。
それは魔物と同じ現象。
フェイはラニの無事を確認しながら安堵する。
「お嬢……こんなに無茶して……」
「だって、約束したもん……」
「約束?」
「へへ…ナ~イショ」
そう言いながらラニは、制止する使用人を押しのけながらニーニャが地下室にやって来たのを見たところで、気絶した。
それから二年の月日が流れ
再世暦804年の暮れ。ある屋敷にて。
「そう…やっぱり行くのね」
「うん。どうしてとーさまがあんな目に遭わなきゃいけなかったのか知りたいから」
成長したラニは、大きなバッグを背負っている。
家出した時と同じもの。だが、あの時よりも多くのものが変わっていた。
「お嬢~ボクもついていきたいっス~~」
「ダメだ、ラニお嬢様とてもう大人だ。ためにならん」
「先輩だって寂しいくせにィ~~!」
「う、五月蝿い!当たり前だ!そんな事!」
「大丈夫だって、二人とも心配性なんだから」
「…お父様は見送りに来ないのかしら?」
「ええ、ですが代わりにこれを預かってます」
リヒターは丁寧に包まれた、こぶし大の何かを差し出す。
「え……?これって……」
「はい、アーティファクトです。そして言伝が」
「『当主の座の証として渡すのではない、いつか、必ず返しに来い』と」
「素直じゃないお父様ね」
「素直じゃないっスね」
「素直になって欲しいですね」
「らしい、よね、うん!確かに受け取った‼」
「ラニ・
「………ニーニャ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、それと」
「?」
「15歳のお誕生日、おめでとう」
「……ニーニャも!ハッピーバースデイ‼お誕生日、おめでとー‼」
三人は小さくなって行くラニの影を、どこまでも見送っていた
「今頃、ラニは出発した頃か……」
「久しぶり、そして…ごめんよ」
「君の死を受け入れられなくて、ずっと避けてた」
「ラニが家出するまで、子供たちを見ようともせず、虚ろに過ごしてしまった」
「その後も、キミを生き返らせようと血迷って、迷惑をかけてしまった」
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、それは僕のためにじゃない」
「子供たちには、僕なんかよりキミが必要だと思ってしまったんだ」
「おかしいよな、僕だって大切な家族の一人って言ってもらったはずなのに」
「だから、僕は二度も君の遺言を破ってしまった」
「ごめん」
「これ……君の好きだった薄桃色の花。小さい頃、よく蜜を吸ってたヤツさ」
「ラニとキミ、よく似ていたよ。お転婆なところ含めてね」
「……二人を見ると、キミが重なる」
「いつだって、僕はキミを思い続けるだろう」
「だけどもう、キミには
「さようなら」
エピーズは空となった右の袖を風になびかせながら墓石に背を向ける。
そこに刻まれた名は―――
「カサネ」
今はもう、追憶の中にしかいない彼女が自慢げに言っていた。
『エピーズ、アタシとアンタが出会ったのは、運命が重なったから‼』
『アタシはアンタを巻き込んで、どんどん物語を紡いでいくわ!』
『置いてかれないようにちゃんとついて来なさい‼』
「……僕の三倍は足が速いのに、森に置き去りにされそうになったっけ」
「けど、キミはずっと待っててくれた」
「だからいつか、ちゃんと会える日まで、待っててくれるかい?」
ラニが屋敷を出て数日。そろそろリーンバックの森を出るころ。
「白い……?ってことは‼」
温かいセムドの気候ではそれは降りにくい。
久しぶりに見た事で逸る気持ちとともに足も速くなる。
「雪っ!だーーー‼」
白い坂を駆け上り、雪原に飛び込む。
「冷たい!けど、楽しーー‼」
ガラ…ガラガラガラ!
音が近づいてくる。
「ほえ?」
やって来たのは、馬車。
迫ってくるのは、車輪。
「どわぁああああ⁉」
「な、何だ⁉どこから声が⁉」
「おとーさん、ここー。」
手綱を握る男性が辺りを見回していると、荷台の蒼髪の少女が自分の頭部を指す。
指差すのは、岩をくりぬいて作った帽子としか言いようのない、それの上。
大荷物を背負った、紫色の髪をした手のひらサイズの少女が乗っている。
その少女はカンカンに怒っていた。
「危ないなぁ‼前方不注意‼」
「おー、ちっこいのがしゃべってるー。」
「あ、ああ、済まなかった…だが君は一体……」
「ん?知らない?じゃあ自己紹介!」
「アタシはラニ・V・ノイン!」
「
To Be Continued 『水槽の中の蒼き魂』
深緑の森の風 色褪せた書物(イロモノ) @faded-books-unorthodox
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます