クリスマス、どう過ごす？

本編

【有名バーチャル配信者、コンビニＡ社のアイスコーヒーをコンビニＢ社と語って炎上】

　このニュースが拡散され、本人によって否定されてからしばらくが経過しただろうか？

【企業バーチャル配信者、炎上か？】

【個人勢バーチャル配信者、またもや炎上？】

　こうしたまとめサイトがある限りは炎上するのは時間の問題なのでは……という部分はある。

【また炎上か。ネガティブニュースばかりだな】

　このような声が出てくるのも当然の話で、アイスコーヒー論争で炎上したバーチャル配信者の一件があってからは、まとめサイトも一部は減っていた。

　それでももぐら叩きをしているような感覚でまとめサイトやフェイクニュースは拡散される。一部のユーザーのストレス解消手段として。

【クリスマスイヴを前にこれでは、先が思いやられる】

【しかし、こうした勢力のつぶやきをミュートすればよいのでは？】

【それでも他経由のリツイートで飛んで来たら、同じ話だろう】

【これでは、一部の炎上系インフルエンサーが莫大な利益を得るだけのクリスマスになってしまうな】

【クリスマス終了のお知らせとは違うかもしれないが、特定の炎上ＳＮＳユーザー以外が不利益となるのは……】

　こうした繰り返しが、いつも続くのか……とバーチャル配信者は思う。

『また、先月の繰り返し。同じようなパターンで品を変えたＳＮＳ炎上は繰り返されるばかり。やはり、別所でいわれていた規制法案が正解なのか？』

　ノートパソコン経由でタイムラインを見ているので、どうしても出かけている際にはニュースをチェックできないが、それに関しては不便ではない。

　あくまでも出かけている際は一般人、彼女の場合はバーチャル配信者だ。下手に素顔が割れてしまっては、それこそ炎上案件になるだろう。

『この時期に有名税というのも違うし、まとめサイトも平常運転。じゃあ、今回の件は誰が犯人なのか？』

　クリスマスの時期に有名税で炎上もあるかもしれないが、それとは空気が若干違う。今回のクリスマスイヴのに起きた炎上案件は、何かが……いつもと異なるのは間違いない。

　それを調べていくうちに、彼女はふと小腹が空いたことに気づく。炎上の原因であるパワーワードの存在もあるが、空腹で思考できずに適当な発言で炎上した方が取り返しのつかないことになるだろう。

　それを踏まえ、彼女は近所のスーパーへ買い物に行く。時間帯の事情で、割引セールなどはないと思うが。

　スーパーに入ってすぐ、私服の彼女は弁当コーナーに足を運ぶ。色々と置かれているのだが、一方でクリスマスチキンも並ぶ。

　チキンはお高いのでスルーをしようとした彼女の目に入ったもの、それは安値の『ある』弁当だった。

『のり鮭弁当ねぇ……』

　手に取ったのは、海苔を敷いたおかかご飯にコロッケ、ちくわの天ぷら、それにおかずが少々……という弁当である。メインは鮭という事もあり、海苔の上にはシャケの切り身がのっているのだが……。

　しかし、何人かの客は割引シールも貼られていないこの弁当を手に取っていた。スーパーのチラシでもこの弁当がお買い得とは書かれていない。

　それなのに、この弁当に手を伸ばすのはどうしてか？　疑問を抱きつつも弁当を購入し、あとは色々と見て回ってから帰宅した。

　帰宅後、いつものノートパソコンを再起動し、配信の準備を始める。せっかくの弁当だが、夕食にでもすることにした。

　それとは別に購入した鮭おにぎりを食べながら、バーチャル配信者専用アプリで配信を始めたのだが……。

【彼女の配信って、今日だったか？】

【唐突な配信自体、個人勢だとよくあるのでは】

　ほかにも様々なコメントはあったようだが、唐突に始まった女騎士のバーチャル配信者の配信は、彼女が鮭おにぎりを食べている場面から始まった。

　この場面、切り取り具合によっては放送事故、もしくは炎上するような案件なのだが、彼女は予想外のリアクションで乗り切ることにする。

『クリスマスにはシャケ……。クリスマスにはシャケを食べるのよ』

　まさかの切り返しだった。実はクリスマスにシャケという習慣自体、日本でも数年前から何故か知られている。

　その為か「当たり前じゃないか」とか「いまさら？」という突っ込みのコメントが飛ぶことも覚悟していた。

　しかし、その反応も確かにあったが……。

【予想外の展開だ】

【クリスマスにシャケというのも初耳ですね】

【いきなり食事配信が始まったと思ったら……】

　炎上を煽るような反応はなく、ある意味でも彼女の考えていたことは杞憂に終わった。

　それでも、どこかのまとめサイトなどが悪意を持って炎上させる行為があれば、炎上はするかもしれない。

『自分も少し前には知っていたけど、こういう風に実行するのは初めてだから』

　反応に関しては様々だが、バーチャル配信者は急に配信を始めたことに関しては謝罪した。

　予告なし配信自体、ゲリラ配信を行うような配信者もいるのでそこまで気にするような話題ではないと思うが、場合によっては炎上するだろう。

　些細なことでクレームをつけるよなクレーマーこそ、ＳＮＳ炎上を引き起こす元凶なのではないか……そう彼女は思い始めた。

　一連の配信に関しては大きなトラブルもなく、冒頭のアレ以外は予定通りに終了する。

　これを「ゲリラ配信」として炎上させようとしたまとめサイトもあったが、あっさりと記事を取り下げる羽目となった。

　記事取り下げには様々な要因もあるだろうが、単純な承認欲求やストレス解消、外部圧力などの勢いだけで炎上させるような行為が『テロ行為』と変わりないと認知され始めたことによることかもしれない。

　こうしてクリスマスを悪用し、ＳＮＳ炎上で莫大な利益を上げようとしたインフルエンサーの野望は潰えた。

　それに加え、彼女以外にも他のバーチャル配信者が『クリスマスにはシャケを食べろ』と宣伝し、食品ロスを防いだことも大きい。

　しかし、彼女は知らなかった。『クリスマスにはシャケを食べろ』が実は特撮番組由来のワードであったことに。