聖夜の出来事(短編)

モグラ研二

クリスマスは温かく、幸せに溢れて。

(《君と出会えたのは奇跡。永遠の愛を誓うよ。》……引用=ジョン・ロバート・ダンソン著『ボブ&レベッカ純愛物語』1756年より)


タカオとミカは20歳のカップル。


クリスマスの街、華麗なイルミネーションで満ち溢れる街を、手を繋いで歩く。


同じような若いカップルで、街は賑わっている。明るい幸せムードで、包まれている。


微笑み。温かな手が触れて。


みんなが、幸せで、良かった。

心からそう思える光景。


タカオは身長179センチ。爽やかなスポーツ刈り、筋肉質な体格。大学ではラグビーをやっている。


ミカは身長170センチ。小顔、脚が長く、黒髪ロング、最近、雑誌モデルを始めた。


若い2人はケーキ屋さんに行くところ。


話題のケーキで、店主さんが直接イギリスのイチゴ農家に侵入して盗んできたイチゴを、ふんだんに使っているんだって。


ケーキ屋さんまで後は曲がり角を曲がるだけだった。


「タカオ、イケメンね、好きよ、タカオ好き」


「ミカ、可愛い可愛い。マジ女神ミカ。好き、好きだよ」


手を繋いで見つめ合い、微笑みながら、歩いていた。


幸せが、全身から、迸る。

そんな2人。

いい。


幸せいい。

不幸はだめ。


曲がり角を曲がると、そこには、

倒れている老人。


ガリガリに痩せていて、

頭はボサボサ、

髭も生え放題、

ほとんど全裸で、汚らしい、

陰毛もじゃもじゃ、小さな黒いチンポコ、

圧倒的な生ゴミの臭い、

老人は、

「あー、ああ、あー、ああ」と奇声を出しながら、タカオとミカの方に、這って来ようとしていた。


すみやかに、無言で、タカオは、老人の顔面を、容赦なく蹴る。


全力の蹴りだ。


老人の眼球、鼻が潰れて血がドババと出た。

血だけではなく赤黒い、どろどろしたものも、出ていた。

老人は動かなくなる。


十数秒間、タカオとミカは、無言で、動かない老人を凝視していた。


「ミカ、行こう」


「うん。タカオ、好き、タカオ一番イケメン」


真っ直ぐ行けばケーキ屋さん。華麗なイルミネーションに囲まれて、2人の幸せムードは確固たるもので、壊しようがないものだと思われた。


幸せいい。

不幸はだめ。


小鳥が外で鳴いている。ベッドの上。俺は朝からアンソニー吉田の毛深いケツ穴に鼻を押し付けて嗅いでいた。「くせえ!死にそうだ!」起き上がろうとすると、後ろに控えている複数人の黒服に頭、体を押さえつけられる。「嗅げ!クリスマスだろうが!」黒服たちは怒鳴る。俺は泣きそうになりながら、アンソニー吉田の毛深いケツ穴、ひくひくしていて、少しウンチが付いているケツ穴の臭いを嗅ぎ続ける。「くせえよ!もう止めてくれ!死んじまう!吐く!吐きそうなんだよ!」俺は鼻をスンスンいわせながら叫ぶ。無駄だ。黒服たちは許してくれない。アンソニー吉田が、優しい声で「ダンさん、吐きそうならアンソニーのケツ穴のとこで吐いていいよ。ケツ穴嗅ぐのは続けて、ダンさん、クリスマスなんだからね」と言った。アンソニー吉田は身長195センチ体重120キロの大男で胸板が分厚く屈強な男。国立大学を首席で卒業し外務省に勤務していたがトイレに間に合わずオフィスのデスクの上で大便をしてそのことが原因で退職、以後はフリーランスの小説家として生きているらしい(代表作は『現実の世界が糞だからさっさと死刑になって異世界転生するために俺は白昼の路上で大量殺人をするけどなんか文句あるの?』である)。あらゆる場所の毛が濃く、そして雄臭い。風呂に入っても、その雄の臭気が取れることはない。「ヴォエエエエ!」俺はケダモノみたいな声を発してゲロを吐いた。アンソニー吉田のケツ穴周辺が、俺の黄土色のゲロで汚れた。「もう止めてくれよ!死ぬ!死ぬ!」俺は叫んだ。離れようとする。許されない。複数人の黒服に押さえ込まれてしまう。「死ぬなら死ねばいい。死んだらあらゆる苦悩から解放されるわけだし、べつに、本当の本当に悩んでいて、死なないと、死なない限りそれが解決されないと、本当の本当に言うのなら、それを止める権限や責任は俺たちにはない」


1時間ほどでケツ穴を嗅ぐ行為から解放された。黒服たちは衣服を脱ぎだし、その場所(都内某ホテル一室)でセックスを開始した。ケダモノのように、お互いのチンポコやケツ穴を舐めたり、穴に入れたり出したり、していた。「恥ずかしくないのか?こんな品性の欠片もない……」俺が言うと、黒服たちは「クリスマスなんだから、セックスしないほうが異常だ」と言った。「ダンさん、これいる?」アンソニー吉田が注射器を渡してきた。なかにはコバルトブルーの薬剤が入っている。「気持ちよくなるよ。嬉しい気持ち、楽しい気持ちになるには、薬使う。これ、みんなやっていることだからね、ダンさん?」「よこせ」俺は腕に注射を打った。コバルトブルーの薬剤が体内に入っていく。清々しい感じ、穏やかな気分になり、楽しいことや嬉しいことが実感できるようになる。「セックスしながらチキンが食いてえんだ。買ってこい。フライドチキンじゃねえぞ、ローストチキンだ、間違ったら殺す」黒服(今は全裸だが)が金を寄越してきた。奴のチンポコは完全に勃起していて、ベつの黒服(こいつも全裸)のケツ穴にずっぽりハマっていた。ケツ穴にチンポコを突っ込まれている男は丸刈りで痩せていて、白目を剥き、涎を垂らして叫んでいた。「ダンさん、俺も行くよ。一緒に、クリスマスのお買い物、いこ?」上目遣いでアンソニー吉田が言って、俺の腕をとらえた。


「ねえ、このケーキ凄くキレイだし美味しそうだよお!」

小学校3年生くらいの男の子が、ガラスの向こうのケーキを指さして言う。


鮮やかな赤いゼリー、その上に熟した大粒の瑞々しいイチゴが乗っているケーキ。スポンジとスポンジの間には薄いピンク色のクリーム。


そこは近隣では有名なケーキ屋さんだ。


男の子が指さしたのは話題のケーキで、店主さんが直接イギリスのイチゴ農家に侵入して盗んできたイチゴを、ふんだんに使っているんだって。


気品のある香り、最高に甘酸っぱい味わい、イギリスの農家から盗んできた、自慢のイチゴなんだよ、と店主は雑誌のインタビューなどで誇らしげに語っていた。


「あら、ほんとに美味しそうね。クリスマスだし、買いましょうね」

やたらとふわふわした襟巻を付けた中年女性が言う。


店主の男性マイケル富吉57歳がでてきて笑顔で男の子の頭を撫で、サービスだよ、と言って手作りキャンディーをあげる。大きな棒付きキャンディーだ。


「わあ!うれしいなあ!」

男の子は嬉しそうに何度もジャンプする。その様子を見て微笑む中年女性こと小山真美子。


小山真美子47歳はネット上の小説投稿サイトで、

『旦那と息子を殺害して自由になった姫がイケメン王子に一目ぼれされて幸せになる物語』を連載している(来年書籍化とアニメ化が決定していると、小山真美子は証言している)。


小山真美子と男の子はケーキを購入、予約していたチキンも受け取って、帰宅しようとしていた。


華麗なイルミネーションのちりばめられた路上を、幸せそうな笑顔で歩く人々。


小山真美子と男の子は歩いて行く。


曲がり角を曲がり、真っ直ぐ言ってまた右に曲がれば2人の自宅だった。


曲がり角を曲がる……。


そこには、

倒れている老人。


ガリガリに痩せていて、

頭はボサボサ、

髭も生え放題、

ほとんど全裸で、汚らしい、

陰毛もじゃもじゃ、小さな黒いチンポコ、

圧倒的な生ゴミの臭い、

顔面が潰れていて、どろどろとした赤黒いものが、流れ続けていた。

まったく動かない。


「気色悪いわね」

小山真美子は気色悪いものが嫌いだった。それは昔からそうで、気色悪い物は社会から排除されるべきだという思想は強固なものだった(そのことは彼女がネット上で連載している小説やツイッターなどで表明している言説からも明らかである。そして、それはある程度の支持を受けていた。)。


彼女の代表作、

『旦那と息子を殺害して自由になった姫がイケメン王子に一目ぼれされて幸せになる物語』においても、

姫と王子が、国で一番貧しく汚い村に迷い込むエピソードがある。

そこでは迷い込んだ二人を非常に親切に助けてくれるお爺さんとお婆さんが登場する。

だが、そのお爺さんとお婆さんは非常に身なりが汚らしく、顔などの造形も異様なほどブサイクで……。

姫と王子は

「こんなにブサイクで汚くて貧しい人たちは生きていることがかなり不幸で可哀想なことだから今ここで殺してあげたほうがいいんだ」という結論に達し、世話になった翌日の朝、協力してお爺さんとお婆さんを殺害、死体をバラバラにして沼に遺棄する……。殺害行為、死体解体行為、血みどろ状態に興奮した二人は、森の中で濃厚なセックスをして……。

「私たちのなかの野性が目覚める」

「俺の股間がこんなにも野生になった。すげえ……」

これはそのシーンにおける姫と王子の名セリフである。

そうしたエピソードは、彼女の作品中、かなりの頻度で登場する。

「気持ち悪い物は存在が可哀想だから殺してあげたほうがいいんだ」……その価値観は、彼女のなかでは揺らがない、精神的支柱の一つであった。


「さっさと回収して焼却すべきでしょ、こんな汚物は……」


「ママ、この人、死んでるの?」

男の子が老人に近づこうとするのを、腕を掴んで止める。


「ダメよ、こんなゴミに近づいては……それに、こんなの人間じゃないんだから……」


「うん。わかった。こいつは人間じゃなくて、ゴミ、なんだね?ママ?」


「そうよ。一つお勉強できたわね?こいつは、ゴミ。一回蹴ってあげなさい」


「うん。ママ」

男の子は駆けて行き「死ね!ボケ!」と叫びながら、老人のもじゃもじゃ頭の後頭部を蹴り上げた。老人は動かない。


「死んでるのかな」

「どっちでもいいことだけど、できれば死んでいる方がいいわね。世の中的にはね。さ、行くわよ。パパがお腹空かせて待っているんだから」


親子は良い気分で、ケーキとチキンを持参して、帰宅していく。

華麗なイルミネーションが、路上を染めている。


《私たちは自由を満喫している。何物にも縛られない。自由に生きて。あなたはありのままでいい。だから、私たちは自由に生きていく。》


そんな歌詞のポップソングが流れている。


幸せいい。

不幸はだめ。


歌は、流れているのではなく、実際にその場で歌われていた。

広場には高さ5メートルを超える特大クリスマスツリーが設置されていて、その下で、女性シンガー清川マナティ32歳が熱唱しているのだ。


清川マナティは20年前に12歳で自身が作詞・作曲を手掛けた『あたしの心の中には暗殺者がいて夜中にあんたを自動的に殺すようになってるから気を付けて』で衝撃的なデビューを果たして以来、ずっと音楽シーンの第一線で活躍するアーティスト。今回のこの曲はそのまま「フリーダムライフ」というシンプルな名前の楽曲で、人類みんな自由に、ありのままで良いんだよ、という極めてポジティブなメッセージ性を持った名曲。暗い気持ちになりがちな現代において、この曲は何よりの励ましになっている。特に若者からの支持が熱狂的だ。若いファンからは「アネキ」と呼ばれ、彼女は親しまれている。


《私たちは自由を満喫している。何物にも縛られない。自由に生きて。あなたはありのままでいい。だから、私たちは自由に生きていく。》


とにかく、このフレーズの連呼だ。執拗に、5分間の曲のなかで120回以上、連呼されるのだ。


「ありのままでいいのか。すげえ励ましてくれるんだな……よしっやるか!」

座り込んで歌を聴いていたマスカワマスオは立ち上がり、駆け出した。自宅のマンションに戻り、台所から包丁を持ち出し、再び部屋からでていく。隣の部屋の扉をノックする、どちらさま?と聞かれたので、水道業者です水漏れがあると報告がありまして確認させてください、とマスカワマスオは言った。でてきた若い女の腹部を深々と包丁で刺し失血死させた。マスカワマスオは、お前に用はない、と言って若い女の死体を放置、部屋に上がり込んでリビングまで行くと5歳くらいの女の子が積み木で遊んでいる。やあおじさんとも遊んでくれよなあ、と言ってマスカワマスオは5歳くらいの女の子の腹部を包丁で深々と刺し失血死させた。ドババ血飛沫。可愛い死体、可愛いねえ、可愛い死体は僕のクリスマスプレゼントだよなあ神様ありがとうなあ神様愛してるよねえ、と言いながら、鼻歌をしながら、幼い女の子の衣服をすべて脱がせて幼いピンク色のマンコに指をいれたりにおいを嗅いだり舐めたりした、興奮してきた、やべえやべえ、と言いながらマスカワマスオはズボンとパンツを脱いで勃起したチンポコに涎をたっぷりつけて死んだ幼い女の子のピンク色のマンコに突っ込んだ、アーイグー、すぐになかで射精した。しかしそれで終わることはなく何回も何回も、イグッ!イグイグイグ!と連呼しながら、5歳くらいの女の子の死体のなかに射精し、きもちい、きもちい、と連呼した。気持ちいいことは正義だから、これはいいし、さっきの歌手も、自由に、ありのままに生きるべきだと歌っていたんだから全く問題はない。これが自由、これが俺のありのままの姿なんだ。マスカワマスオは清川マナティに感謝していた。あの歌がなければ決心がつかなかった。感謝しかない。今、こんなに充実しているのは清川マナティのおかげなのである。包丁で幼い女の子の精液まみれのマンコ部分を切り取ってビニール袋に入れて懐に仕舞った。マスカワマスオは小説投稿サイトに『異世界転生したら5歳の異種族美少女たちに求められまくってマジ困るけど頑張って毎日種付けしてるよ!』を連載中。執筆時のお守りとして、このマンコが欲しかった。持ち帰り瓶に入れてホルマリン漬けにする。作品は来年、書籍化とアニメ化、コミカライズが決定していると、本人は主張していた。5歳くらいの女の子は苦痛に表情を歪めていて白目を剥き口を大きく開けて舌をだらりと垂らしていた。マスカワマスオは女の子の腹を縦一文字に裂いて臓物を取り出して床にばら撒いた。びちょっ、ぬちょっ、という音。リビングルームのテーブルに置いてある母親のスマートフォンを女の子の腹の中に入れてやった。これであの世でもアプリゲームとかできるし退屈しないよね、元気でいてね、あの世でも幸せに暮らしていてね、おじさんは可愛い小さな女の子が大好きだからいつも君の幸せを願っているんだからね。幼女の血を舐めた。血が甘い、甘いよお、幼女の血だから甘くて美味いんだよなあ、と言うマスカワマスオは勃起していた。チンポコいてえよ、勃起したら抜かないとなあ、と言いその場でシコシコとチンポコを扱いてすぐに射精した、その精液は死んでいる幼女の顔にぶっかけた。可愛い、可愛い、精液まみれの死んだ幼女可愛いなあ、死体可愛い、死体好きだなあ、とマスカワマスオは言い、にやにやした。だが瞬時に冷静な顔に変わる。マスカワマスオはさっさと現場を後にし、また、広場に戻った。広場ではまだ清川マナティが熱唱していた。良い歌だなー、とマスカワマスオは呟きながら広場の最前列の席に座り、目を細めていた。


《私たちは自由を満喫している。何物にも縛られない。自由に生きて。あなたはありのままでいい。だから、私たちは自由に生きていく。》


「清川マナティ、お好きなんですね?」

隣に座っている中年女性こと小山真美子47歳が、声を掛けた。異様にふわふわした襟巻きを着けている。


声を掛けられたマスカワマスオは少し驚いた様子だったが、すぐに落ち着いて「ええ、昔から凄く好きで……」と言った。


マスカワマスオは少し瘦せているが知的に見える見た目だ。彫りの深い顔立ち、目はパッチリとしていて、髪形は爽やかなスポーツ刈りにしている。彼はまだ27歳だった。


小山真美子は微笑んだ。

「この楽曲は自由の精神を歌っていて、凄く、素敵って感じがしますよね?」


「はい。今までの清川マナティの楽曲よりもストレートにテーマを歌っていて、何ていうか、励まされます」


「そうよね。清川マナティは普通の人々を励ます歌を、いつも歌ってる」


「俺もそう思います。俺みたいな普通の、平凡な人間でも、ありのままで自由に生きていけばいいんだって……」


「素晴らしいわ。完璧に清川マナティを解釈できてる」


「ありがとうございます。あの、ちょっと恥ずかしいですけど……」


照れて頬を赤らめるマスカワマスオの様子を見て、小山真美子は微笑む。この人、初心な感じがして、可愛いわ。まだ、男の子って感じが十分に残っている。

「よろしかったら、この後、お茶でもしませんか?」


「え?クリスマスですよ?ご家族とか……」


「いいの。旦那も息子も、もう寝てるから……」


「そうなんですか?」


「そうよ……」

言いながら、小山真美子は細く白い手を、マスカワマスオの股間に移動させていく。軽いタッチをする。

「いいでしょ?」


「あの、だ、ダメですよ……こんなこと……ぼく、恥ずかしい……」

耳の付け根まで、マスカワマスオは真っ赤にしていた。


「恥ずかしくないのよ……気持ちいいだけ……いいのよ……感じれば、いいの……」

小山真美子は、マスカワマスオのズボンのなか、パンツのなかに、その白く細い手を突っ込んでいく。


「あっ、あっ、あん!タマ、きもちいです、タマの裏っかわのとこ、タマ、ああ、あっ、あっ、きもちい……」


「そうよ……感じなさい。気持ちいいの好きでしょ?どうなの?」


「あっ、はい。好きです。あっ、あんっ、気持ちいいのだけ、好きです……ああ、タマ……」


「良い子ね……」


その間、広場の、クリスマスツリーの下では、延々と、清川マナティが熱唱し続けていたのだった。


《私たちは自由を満喫している。何物にも縛られない。自由に生きて。あなたはありのままでいい。だから、私たちは自由に生きていく。》


予約しておいたフレンチレストラン。

美しいシャンデリア、シックなデザインの店内。

気品溢れる弦楽四重奏曲の生演奏。

クリスマスに愛し合うカップルのために、気の利いたことをしたいというレストランならではの気遣い。

「タカオ好き、好きだよタカオ、一番イケメン、好き」

ミカは言って微笑む。

テーブルの向こうのタカオも、微笑んでいる。

2人の前にはグラスがあり、赤ワインが、注がれている。

「ミカ、俺もミカ好きだよ。可愛い可愛いミカ。一番愛してる」

「ああ、タカオ」

「ああ、ミカ、ミカ」


タカオとミカは「好きだよ」とか「愛してる」とか「一番好き」とか言い合いながら微笑み合い、


焦がし玉ねぎのスックでアセゾネした経産牛ローストビーフ、ズワイ蟹のロワイヤル 、泳ぐホタテ貝のサルピコンとカボチャのニョッキ、鴨フォアグラのポワレ、ラングスティーヌのボルドレーズ、サフランの香る貝のブイヨン、瞬間燻製したリム―ザン産子羊のロースト、オッソー・イラティ、根野菜のキャラメリゼとパセリオイル、蕪のジュレとマンゴー、オシェトラ、キャビアを添えて、真牡蛎のコンフィー等々を、ゆっくりと食べた。


デザートにはケーキがでた。

店主がイギリスの農園に侵入し盗んできたという自慢のイチゴをふんだんに使用したケーキである。


ケーキにはカードが添えられていた。

店主・マイケル富吉からの言葉「クリスマスの恋人たちに甘い思い出を」。意外にも可愛らしい丸い字で書かれていた。


華麗なイルミネーションで満ち溢れる、幸福感溢れるクリスマスの、路上を、タカオとミカは手を繋いで、歩いていく。


「美味しかったね、ミカ」

「うん。凄く、良かった。幸せな気分だよ、タカオ」

「ホテル行こうか」

「うん。タカオ好き。一番好きだから、タカオとセックスしたいな」

「そうだね。俺も、ミカのマンコに入れたいよ。中で発射していい?」

「うん。中出しして?いっぱい出してほしいな……」


ラブホテルが立ち並ぶ街路。

ホテルの前には多くの若いカップル。


みんな、エッチな顔をしている。


セックスが好き。

クリスマスはセックスをする日だから好き。

クリスマスは人間の発情期。


セックスはいい。

エロいの好き。

好きなものはいい。

嫌いなものはだめ。


キリストとか知らない。どうでもいい。セックスあればいい。磔にされて死んだユダヤ人の誕生日だとか、それは、どうでもいい。考えたこともない。セックス。セックスがいいんだよ。キリストとはセックスできないから、どうでもいいのだ。


タカオとミカの指と指は絡み合い、目標のラブホテルまで、あと十数メートルである。お互いの体温を、感じながら……。


幸せいい。

不幸はだめ。


その時だった……曲がり角を、物凄いスピードで複数の、黒服の男たちが走ってきて、タカオとミカを囲んだ。黒服の男たちは坊主頭、サングラスを掛けていて、みんな身長が180センチ以上あり、屈強だった。「なんなの?」ミカが顔を顰める。タカオも「なんだよ。どけよ」と怒った口調。黒服たちは懐からサバイバルナイフを取り出した。「なによ!それ!なにするつもりなの!」ミカが絶叫する。「幸せの邪魔をするなよ!自分が幸せになれないからって、他人の幸せを破壊して、楽しいのかよ!」タカオが股間を押さえながら絶叫する。「それを仕舞えよ、そんなふうだからお前らはゴミなんだ!他人の幸福を妬んで、勝ち組を殺すとか、そんなことばかり言って、クリスマスに恋人とセックスする奴らは死ねば良いとか、そんなことばかり言って、それで現実は変わるのか?何もしてないだろ、お前たちゴミは!他人に攻撃的なだけで、それで何か変わるのか、何も変わらない、それどころか、お前たちゴミはますますゴミ臭くなるだけだ、そんなこと止めろ!お前たちがやるべきことは家に帰ってガス管くわえて死ぬことだけだろ!!」タカオが顔を真っ赤にして、捲し立てた。黒服たちは無言で、何の反応も示さず、サバイバルナイフを持って、棒立ち状態だったが、突然スイッチが入ったかのように動き出した。「アギャー!」ミカが叫んだ。ミカの頸動脈がすみやかに切断された。ドババ血飛沫。血飛沫に、華麗なイルミネーションが反射する。ミカは後ろに倒れた。仰向け。血だまりができる。「ミカ!死ぬな!ミカ!好きなのに!セックスこれからするんじゃねえのかよお!」タカオの悲痛な叫び声が、クリスマスの路上に響く。「チンポコ!俺のチンポコは今日マンコに入れないのかよお!そんなん酷すぎるやろ!!中出ししたかった!中出しが全てやろうが!!やろがいや!!!」タカオは股間を押さえながら言う。黒服たちはまた棒立ち状態で、タカオを観察していた。タカオが落ち着きを取り戻し逃げ出そうとしたところ、黒服たちはすみやかに動いた。「アギャー」タカオの絶叫。頸動脈が切断され、ドババ血飛沫。ミカと同じように、後ろに倒れ、仰向けになる。白目を剥いて、口を大きく開き、舌が、だらりと垂れている。血だまりができる。黒服たちは、倒れてすでに失血死しているカップルの衣服を器用に、肌を傷つけぬようにサバイバルナイフで切り裂いていく。全裸に剥かれたタカオの死体、ミカの死体。黒服たちはタカオとミカの死体の腹を切り裂いて臓物を取り出し路上にばら撒いた。血だまりに臓物がびちゃびちゃと音を立てて落下した。黒服たちは、タカオのチンポコを切断、ミカのマンコをくり抜いた。それはばら撒かないでビニール袋に入れた。黒服の1人が懐に仕舞った。華麗なイルミネーションが、赤黒い臓物を照らし出していた。


《私たちは自由を満喫している。何物にも縛られない。自由に生きて。あなたはありのままでいい。だから、私たちは自由に生きていく。》


路上にはそのような歌詞のポップソングが流れていた。黒服たちはサバイバルナイフを懐に仕舞い、無言で、揃って歩き出した。足音を全く立てない歩き方だった。


《よろこびの世界、恋人たちは手をつないで、白い風景のなかキスをして》そんな歌詞の、極めてポップで明るい感じのクリスマスソングが、繁華街には流れていた。


華麗なイルミネーションのなかを、多くの、着飾った若いカップルが、微笑ましい様子で、手を繋いで、歩いていた。


みんなエッチな顔をしている。

クリスマスは人間の発情期。


幸せいい。

不幸はだめ。


マイケル富吉がやっているケーキ屋さんのケーキは、全て売り切れた。

今、話題のケーキで、店主さんが直接イギリスのイチゴ農家に侵入して盗んできたイチゴを、ふんだんに使っているんだって。


表面を鮮やかな赤いゼリーで覆い、上に、大粒のイチゴが乗っている。


ケーキ屋さんの前は路上で、沢山のカップルが、微笑み合いながら歩いていた。

幸せなムード。


そこに、幸せになりたくて仕方ない人が現れても、不思議はない。

現に、現れたのだ。


男だった。


頭髪が真ん中部分だけ禿げていて、太っていて、目は細く濁っていて鼻は大きく、鼻の穴が丸見えで鼻毛が飛び出ていて鼻の下が長く、唇は下唇が分厚い。歯は歯並びが極端に悪く、黄ばんでいる。口臭はウンチ以上に臭い。顎は肉で埋没。ピチピチのティーシャツを着ている。ティーシャツには「世界平和。国民の生活が一番大事」と書かれている。乳首が浮き出ている。脇の下だけシミができている。ズボンは破れた半ズボンでチンポコが僅かに見えている。そのチンポコは真性包茎で大きさは4センチにも満たない……。


「なんだあいつ……」

マイケル富吉は興味なさそうに言うと、店の中に引っ込んだ。


マイケル富吉は小説投稿サイトに『媚薬入りケーキ食わせて女を500人以上レイプして幸せになる物語』を連載している。その続きを書かなくてはならなかった。


内容は、ほとんど欲望的な妄想を書き流しただけのもので、ひたすら、美味しそうなケーキを美女、美少女に食わせる、そのケーキには実は高濃度の媚薬が入っている、結果その女性とセックスしまくる、というものだ。


それをすでに5年以上書いている。


ケーキ屋の前の路上の真ん中に現れた男、頭髪の真ん中だけ禿げているその男は、自分のことを汚物扱いするかのように避けていくカップルたちを眺めていた。


ぼーっと、しばらく彼は佇んでいたが、いきなり、鋭い目つきになると、

「クリスマスなんだから俺だってクリトリス舐めてえんだよ!」

と、凄絶な叫び声を発した。


だが、それで通行人に襲い掛かるようなことはなかった。


叫び終わると、また、ぼーっとした様子で、道の真ん中に佇んでいた。


カップルたちは自然な動きで彼を避けた。


彼は、社会の汚物だった。


公共の場で、クリトリスを舐めたいとか、叫ぶべきではない。


あまりにも下劣。


クリトリスが下劣なのか?


それを否定したい勢力もあるだろうが、現実問題として公共の場でクリトリスを舐めたいと叫ぶことは、極めて下劣な行為だと、認定されてしまうだろう。


誰にも、何も言われているわけではないが、彼は何かを察したように、

「そんなこと、わかってんだよ……」

と寂しそうに呟くと背を丸めて、ケーキ屋の前から立ち去った。


駅前のコンビニに入店し「あの、チキン一本ください」と店員に声を掛けたが無視された。


何回も声を掛けた。だが、無駄だった。


こんなことで声を荒げ、醜いクレーマーみたいなことはしたくなかった。

せっかくのクリスマスを、怒りのクレーマーとして過ごすのは、嫌だった。

心穏やかなクリスマスにしたかった。


「クリスマスなんだから、できれば可愛い女の子のクリトリスを舐めたかった……」彼は、残念そうに言っていた。涙が溢れそうだった。

多くのカップルが、コンビニ前の路上を通り過ぎて行く。

「俺だけが、クリスマスにクリトリスを舐められないのか……」

込み上げてくるものがあった。

泣きそうだった。

誰かに抱きしめて欲しかった。


結局、何店かコンビニを巡ったが、チキンは手に入らなかった。みんな、彼のことを無視した。彼は、大人しく、店をでていくしかなかったのだ。


……ケーキ屋のショーウインドウは空っぽだった。

そのガラスの表面に、華麗なイルミネーションが乱反射していた。

色が混ざり合う。そして分離する。


ケーキ屋の二階はマイケル富吉の自宅になっていて、灯りが点いていた。何をしているのか。


マイケル富吉はノートパソコンのモニターに映る全裸の女性の乳房とマンコを凝視していたのだ。


右手で、ねちょねちょと音を立てて、自身のチンポコをしごきながら。


そうしながら、マイケル富吉は、小説投稿サイトに連載している『媚薬入りケーキ食わせて女を500人以上レイプして幸せになる物語』のエピソードを練っていた。プロットが組み上がりつつあった。


「サンタさん!サンタさん!」

クリスマスの夜の路上。華麗なイルミネーションが乱反射している。

「サンタさん!サンタさん!」

トナカイの着ぐるみを着た人物(声から男性だろうと思われる)が叫んでいた。

トナカイの着ぐるみの人物は、路上に倒れている老人、

ガリガリに痩せていて、

頭はボサボサ、

髭も生え放題、

ほとんど全裸で、汚らしい、

陰毛もじゃもじゃ、小さな黒いチンポコ、

圧倒的な生ゴミの臭い、

顔面が潰れて血まみれの、

そんな老人を抱き起し、叫んでいた。

「サンタさん!サンタさん!」

老人は全く動かない。潰された顔面から、どろどろと、赤黒いものを出し続けているだけだった。臭いだけの存在。

「サンタさん!死んだらダメだ!サンタさん!うわああああああ!!!」


「ダンさん、サンタさん、死んじゃったの?」

「ああ。残念だが。手遅れだ」

俺はトナカイの着ぐるみの頭部分を外す。

顔の皮膚が外気に触れて寒い。

寒さが染み込んでくる。

アンソニー吉田が俺の頬にキスしてくる。

「くせえんだよ!」俺は奴の顎を殴りつける。

「ダンさん、今日、アンソニーのケツ穴嗅いだでしょ?そこと同じ臭いするだけよ?アンソニーの口は、アンソニーのケツ穴と同じ臭いだよ。だから、いいでしょ?」


俺とアンソニー吉田は、住宅街の裏手にある雑木林に入る。


夜中の雑木林は静かだ。風がそよいで、かさかさ、木の枝同士が擦る音しか、ほとんどしない。


そうして、深く掘った穴に、殺害されたサンタの死体を放り込んだ。

アンソニー吉田は、一輪の、小さな薄いピンク色の花を、穴の中に、投げ入れた。

「サンタさん、安らかにね、アンソニーはサンタさん好きだったよ。ダンさんは?ダンさんはサンタさん、好きだった?」

「奴のケツは締りが良かった」


黒服たちが戻って来た。

俺とアンソニー吉田は、深く掘った穴、まだ埋めていない穴の前に揃って立っていた。

「爺さんへの手向けだ」

黒服の1人がそう言って、ビニール袋を懐から取り出して、穴の中に放り投げた。

びちょっ、という音がした。


「帰る?」

俺が言った。


「いや……アンソニー準備しろ」

黒服が言った。

アンソニーは頷いて、その場で、ズボンとパンツを脱いで四つん這いになり、ケツを、こちらに突き出した。毛深いケツ穴……ウンチが、少し、こびりついているケツ穴だ。


クリスマスの夜。雑木林にて。


「なんだよ、もういいだろ。終わったんだろ?」

俺は呼吸が荒くなる。嫌だった。


黒服たちが俺を押さえつける。無言で、無表情で。

「やめろ!やめろお!!」

俺は叫んだ。誰もやめてくれることはないとわかっていたが、とにかく叫ぶことが大切だと認識していた。


「クリスマスは終わっただろうが!もういいだろうが!!」


俺は黒服たちに押さえつけられ、鼻を、アンソニー吉田のケツ穴にくっ付けられた。臭いが入って来る。凄絶な悪臭。


「やめてくれ!もう無理だ!死ぬ!!死ぬ!!吐く!!でる!!吐く!!!」


アンソニー吉田のケツ穴はクパクパ、開いたり、閉じたりしていた。開くたびに、凄絶なウンチの臭いが直撃してきた。


「いいよ。ダンさん、吐いてもいいよ。アンソニーのケツ穴に吐いていいよ。臭い嗅ぎながら吐いて。気分の悪いときは、遠慮なく、そうした方がいいよ。ダンさん……」


〈了〉

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聖夜の出来事(短編) モグラ研二 @murokimegumii

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