番外編 幸せな花嫁
大聖堂の広間を女神のごとき美しい花嫁が父の手にひかれ花婿の待つ祭壇にしずしずと歩む。
祭壇近くには、この国デルアータの国王夫妻や花婿の両親であるラフィリル王家の国王夫妻も二人を祝うために集まっている。
王侯貴族、諸外国の賓客もうち揃う中、その美しき花嫁に視線が集まる。
薄いレースに美しいイリューリアの顔が透けて見える。
そして長いレースは流れるように広がり精霊たちの祝福の光を纏いきらきらと輝いている。
「なんて美しい…」
「夢のような光景ですわ」
「この世のものとは思えぬ美しさだ」
そして花婿に花嫁が手渡されるその瞬間。
「「「「ほうっ」」」」と人々から熱いため息が漏れる。
花嫁の美しさも然ることながら花婿も乙女たちが夢に見そうな甘く美しい顔立ちにすらりとしたその容姿は申し分ない美青年である。
上下白いスーツに金の繻子のついたマントを纏っている。
ルークの周りにも月の石の精霊たちの祝福の光がきらきらと輝く。
優し気なブラウンの髪と瞳が愛おし気にイリューリアを見つめ、その手をとり祭壇に二人立つ。
祭司が二人に誓いの言葉を問う。
「夫たる者よ。汝、健やかなる時も、病める時も、常にこの者を愛し、慈しみ、守り、助け、この世より召されるまで固く貞節を保つ事を誓いますか?」
ルークが厳かに答える。
「はい!誓います!」
「妻たる者よ。汝、健やかなる時も、病める時も、常にこの者に従い、共に歩み、助け、固く貞節を保つ事を誓いますか?」
イリューリアが恥ずかしそうにでも幸せそうに頬を染めはっきりと答える。
「はい!誓います!」
そして祭司が祝福の祝詞を言祝ぐ。
「始まりの国ラフィリルが聖魔導士ルーク、デルアータが公爵令嬢イリューリア・エリュキュラート、汝らの婚姻をここに認める。汝らに数多なる精霊の祝福を!幸多かれ!」
銀の光が二人を取り巻き降り注ぐ。
その現象に招待客たちがわっと歓声をあげる!
「「「精霊の祝福が!」」」
「「こんなの初めて見たわ」」
「なんて神聖な光!」
そしてその煌めく光の中、ルークは、そっとレースを持ち上げイリューリアに口づけを落とした。
イリューリアの透けるような肌がばら色にそまり、まわりからまたため息が漏れる。
騎士達の席からはうらやむ声が飛び交う。
デュロノワル一族撲滅の時に共に戦った騎士たちである。
ルーク聖魔導士を心から慕う者達が心から祝いたくてこの式に駆けつけたのだ。
「くっそ、可愛い~!何だあの綺麗可愛い花嫁は~」
「真っ赤になって!なんて初心なんだ!」
「うぉぉぉ~美男美女すぎだろう~」
「めでたいけど、羨ま死ぬ~!くっそ~おめでとう~っっ!」
と様々な声が漏れる中、拍手喝さいで二人は祝福され。
精霊の光と祝福の花びらにまみれながら二人は広間を歩き大聖堂を出ると、八頭立て白馬の引く白と金の馬車に乗り込む。
そしてパレードである。
花嫁の父カルムは号泣である。
それを従兄でもあるキリアク王やルークの両親であるラフィリル国王夫妻が微笑まし気に励ましと祝いの言葉をかけている。
父カルムはこの日、ルークの両親であるラフィリル王夫妻と初めて会ったが大国の王と王妃だというのに自分や花嫁となるイリューリアを心から気遣い思いやってくれる様子に心から安堵した。
…というか特に姑となる王妃や小姑になる王太子妃も何やらデロデロのメロメロに娘に甘々な様子が見て取れた。
有り難すぎて更に涙が溢れたのは仕方がなかっただろう。
何せ願うのはただただ娘の幸せなのだから!
彼ルークに任せておけば何の心配もいらない。
娘や娘の父である自分を慮り、ひいては馬鹿を晒し罪人となったこの国の阿保王子や将軍の
今後イリューリアが、この国を離れたとしても娘さえ幸せならば!とカルムは止まらない涙を流しながらも心から喜んでいた。
自分の寂しさなどとるに足らない事だと思っている。
そして馬車でパレードに出た二人は街の人々からも祝福を受けていた。
「「きゃーっ!素敵ぃ!」」
「「「姫様ー!可愛い~!」」」
「「きゃーっ!ルーク様~っ!素敵ぃー!」」
「「「お幸せに~っ!」」」
ルークとイリューリアは声援に応えるように笑顔で手をふる。
この国から諸悪の根源であるデュロノワル一派を排除に一役かったルークはこの国の恩人であり英雄だ。
そしてイリューリアはこの国の公爵令嬢である!
そんな二人に人々は熱狂した!
アイドル顔負けの大人気である!
そしてパレードも無事に終え、二人の披露宴は王城で開かれた。
新郎新婦の二人はデルアータとラフィリルの王と王妃に挨拶を済ませると父カルム宰相のところにやってきた。
「二人とも本当におめでとう」カルムがそう言うと二人は幸せそうな笑顔で答えた。
「「ありがとうございます」」
「義父上、ところで二人のこちらでの新居ですが、マルガリータが使っていた離れを改築して住まわして頂くと言うのはどうでしょうか?もちろん改築は僕のほうで手配させていただきます。そうですね僕たちが新婚旅行から帰る頃には改築が整う予定で…」
「は?」カルムは一瞬、何を言われているのか分からなかった。
「な…何を言って…?」
「お父様、よいでしょう?あの離れはもう誰も住んでいないのだし、どうせこちらに住まいを構えるならお父様に毎日でも会える方がいいもの」とイリューリアがおねだりするように父カルムにそう言うと父カルムは益々困惑した。
「え?何を?お前はラフィリルに嫁ぐのだから新居はラフィリルに構えるのではないのか?先ほどラフィリルの国王陛下からも王城近くに屋敷を贈られたと聞いているぞ?」
「ええ、でも週末はこちらで過ごそうと思っているのですよ」
ルークが穏やかにカルムにそう告げた。
「なっ!だがラフィリルとデルアータは早馬でも一か月は…」
「義父上、お忘れですか?僕は聖魔導士ですよ?」
ルークがそう言うとイリューリアが得意げにちっちと人差し指を振りながら言った。
「そうよ、お父様、ルークはそんじょそこいらの魔法使いと違うんですからね」と悪戯っぽくほほ笑む。
そこには以前の自信のなさげな周りの目に怯えるような娘はいなかった。
愛される喜びを知り自信と幸せに満たされた美しく愛らしい理想の娘の姿だった。
「あちらの屋敷とこちらの離れは扉で繋げますので、義父上の部屋もあちらにも用意しておりますから、毎日の食事は一緒にましょう。その方がイリューリアも喜びますし」と全く何でもないことのようにルークが微笑んだ。
「えっ?あ…な…う…」カルムはあまりの事に言葉が出なかった。
『一緒に食事?』『ラフィリルの新居にもわたしの部屋が?』
カルムは頭の中でぐるぐるとその言葉を反復した。
そんな…そんな自分に都合のいい夢のような…いやいや?ないない…。
いや、しかし…と思い、先ほどのルークやイリューリアの言葉を再び頭の中で反復する。
そして理解した。
これからも毎日愛しい娘と会えるのである。
そしてカルムはその日、一生分の涙を流したのではないかと思うほどに喜びの涙を流し、二人はそんな父をそっと抱きしめたのだった。
そんな三人の様子を両国の国王夫妻もほっこりと微笑ましそうに見ていた。
この屋敷でカルムが孫を追いかける日も、そう遠い未来でもないだろう。
番外編----Fin---
はじまりは初恋の終わりから~ 秋吉美寿 @porarapowan
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