聖夜の夜に
土蛇 尚
特別な夜
「お姉ちゃん、彼氏さんとクリスマスは良かったの?」
「いいの。ふったから。11月に付き合い始めたばかりなのに、なんか距離の縮め方がキモかったし。やっぱりこうやって家族で過ごすのが1番よ」
クリスマスディナーを振る舞う少し良いレストラン。私はお姉ちゃんとママとパパの4人で来ていた。テーブルにはキャンドルが置かれていて、ゆらゆらと揺れる灯火がとても綺麗。
「美希、向こうのテーブルに座ってる子、同じ中学の男子じゃない?制服で来てるあの男の子」
「え…?」
お姉ちゃんに言われて1番近いテーブルを見ると知ってる男の子がいた。向こうも家族でこのレストランに来てるみたいだ。こんな偶然なんてあるんだ。私は自分が着てるドレスが少し恥ずかしくなる。あの子は制服なのに。
せめて黒じゃなくて赤にすれば良かった…
「今日は好きな物頼んでいいぞ。美希はパフェだよな?」
「パパ…お父さんうるさい。パフェとかいいから…お姉ちゃんニヤニヤしないで」
「え?お父さん?好きだっただろパフェ…パパ変な事言ったか?」
___________________
パフェ好きなんだ…
さっきからずっと聞こえてんだよ。香月さんの方も気付いたみたいだ。お姉さん綺麗な人だな。なんで制服で来ちゃったんだろう。今日の香月さん可愛いと言うか綺麗だな。
クリスマスに高いレストランに家族ときてクラスの女子と会うなんてどんな偶然だよ。
「春、お前具合でも悪いのか?店に入ってからずっと静かだが」
「いや、別に…」
「そうか、今日は好きな物を注文していいからな。お前、ここのウィンナーコーヒー好きだっただろ。あのクリームがこんもりした奴」
「あんな甘ったるいの無理だから。俺ブラックにする」
「いやお前ブラックは飲めないだろ。まぁいいが」
あぁもう聞こえるじゃん!こっちが聞こえてるだから!
____________________
「へぇ春君って言うんだぁ〜ウィンナーコーヒーって可愛いね」
もうお姉ちゃんうるさい!私は上のクリームだけ先にスプーンで取って食べちゃうから、後に残る普通のコーヒー飲めない…
「話したりするの春君とは?」
「はるく…夕宮くんとはクラスメイトってだけ。調理実習で一緒になった事あるけど」
その時は確か同じ班の人が風邪で休んで二人で調理実習をしたんだった。
「へぇ〜二人で〜」
___________________
歳上の女の人に名前呼ばれるとなんかドキドキするな。
そう言えば調理実習を二人でしたな。あの時は確か…
「今日の調理実習では、炊き込みご飯と豚汁とほうれん草のお浸しを作ります。班ごとに話し合って作業して下さい」
「先生、この班二人だけなんですけど。風邪で佐藤さんが休みで」
「香月さんと夕宮さんは申し訳ないですが二人で頑張って下さい」
そんな無茶な…でも仕方ない。
「じゃあ香月さんよろしく」
「あ、うん」
そうして二人で一品づつ作っていく。僕が豚汁を作る間に香月さんに炊き込みご飯を任せる。
「ちょっと待って香月さん。それ無洗米だよ。研がなくて良い」
「え?」
顔を真っ赤にする香月さん…可愛い。
なんか隣の班から視線を感じる…(イチャイチャしてんじゃねぇぞ)
一瞬聞き取れない呪詛が聞こえた様な。
「二人で大丈夫ですか?…あなた達、阿吽の呼吸ね。どの班よりも手際が良い…」
先生がよくわからない講評をして去っていった。
「出来たね。じゃあ食べようか」
炊き込みご飯と豚汁とほうれん草を並べて行く。
「あ、僕の家もご飯とおかずと汁物をその三角形で置くんだよ」
「え?ああそうなんだ」
香月さんも僕と同じ順番で一品づつ並べていたから、テンション上がって変な事言ってしまった。その後は二人で黙々と食べて一緒に洗い物した。
家に帰って自分の意味のわからない発言を思い出して、枕に頭埋めて悶絶した。
____________________
「美希なんでそんなに顔をりんごにみたいに真っ赤にしてんの?」
お姉ちゃんのせいで思い出してしまった。いや悪いのは先生と夕宮くんだ。変な事言うから。
隣の席の事をずーっと意識していたから余り料理の味分からなかった。
「美希デザートはどうする?本当にパフェいいのか?」
「食べる…パフェ…」
_____________________
結局食べるんだパフェ
「春、今日はずっと静かだったけどこの後のクリスマスコンサート大丈夫か?」
「大丈夫、やっぱりウィンナーコーヒー頼むよ」
そうやって家族でクリスマスの夜を過ごした。隣の席の女の子を意識しながら。でもこんな心臓に悪い時間も終わりだ。クリスマスキャロルを聴きに行こう。
「もう出るか?」
「うん」
___________________
「そろそろ出ようか。美希あまり話さなかったが具合が悪いわけじゃないよな」
「うん大丈夫」
そうして席を立つ。それと同時に隣の席も椅子を引いた音がした。
「あ、」
春君じゃんってお姉ちゃんが小突いてくる。
___________________
「あ、」
もうなんで今日はこんなのばかりなんだ?
「春、お友達?」
「あっうん。クラスメイト」
「綺麗な子ね。では失礼します」
「春も挨拶して」
お母さん…
「…メリークリスマス。良い夜を…」
____________________
「行っちゃったね春君」
「メリークリスマス…」
____________________
開演前のコンサートホールはガヤガヤと騒がしい。僕は自分の席について今日のプログラムを見る。ぼーっと見てると隣に黒いドレスを着た綺麗な女の子が座って着た。……香月さんじゃん!?
____________________
緊張しながら自分の席に着いた。隣の席の男の子は静かにプログラムを見てるなと思ったら夕宮くんだった!パフェに夢中でコンサートに行く話は聞き逃したみたい。
二人のイブはもう少し続くみたいです。終わり。
聖夜の夜に 土蛇 尚 @tutihebi_nao
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます