清掃員だから分かること

水神竜美

清掃員だから分かること

1.捨てる前に全部飲む。


 最近はコンビニなどで簡単に紙コップのコーヒーなどを買えるようになり、店に捨てられるゴミにも紙コップをよく見るようになりました。

 まあ他の店で買ったモノを捨てるなよという気にも少しはなりますが、それくらいの不満はまだどうでもいいレベルです。


 一番の問題は、飲み切らないまま捨てていく方が割と多いという事です。


 いつも店内のゴミをゴミ収集所に持っていく時は、各ゴミ箱に設置してある小さめのゴミ袋を引っ張り出して、中身を大きいゴミ袋に集めて持っていく、という手順を踏むのですが……。


 うっかり中身をよく見ずに袋をひっくり返すと悲惨な結果になる場合があります。

 まだ使えるゴミ袋がグチョグチョやドロドロになってしまうのです。


 なので毎回収集前にゴミ箱の中をチェックして、中身がある紙コップなどがあるとそれらを先に取り出して、他のゴミで挟んで立てた状態にして大きいゴミ袋の中で固定して持っていきます。

 最悪袋から滲みて漏れるので。


 まあ酷い時は食いかけのカップ麺なんて捨てていく方もいるんですが。


 ちゃんと空にしてから捨てていってください皆さん。


2.もうテロリスト認定していいんじゃないかな。


 うちの店のゴミ箱にはちゃんと「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」と書いてあるのですが、燃えるゴミの方に空き缶とかを捨てていく方が結構います。

 なので紙コップだけでなく収集前にゴミをチェックする作業は欠かせなくなっています。

 普通に捨てていくだけならまだ分別も楽なんですが、中には弁当などと一緒に縛ったコンビニ袋に入れていたりと分かりにくくして捨てていく方がいます。

 まあ空き缶とかならまだマシな方ですが。


 酷い方になると、わざわざチラシで包んで何だか分からない状態にして、燃えるゴミ箱にスプレー缶を捨てていきます。

 勿論穴なんて空いてません。

 これもし私が気付かなかったらどうなってたんでしょうか。


 しかし他にも納得いかないのは、ここは家電量販店だというのに、店員さんだけが使う燃えるゴミ箱にたまに乾電池が捨てられている事です。


 皆さんプロですよね?


3.これって労災になりませんか?


 うちの店にはエスカレーターがあるので、たまに業者さんがメンテに来ます。

 しかしその業者さん、メンテで使った布など出たゴミを店のお客様用のゴミ箱に捨てていきます。


 それがある日、人の頭くらいの大きさの砂の詰まった袋を捨てていかれました。


 当然、店内のゴミ箱のゴミは私が全て集めて収集所に持っていきます。


 ほぼ引きずりながらゴミ袋を持ってゴミを集め、収集所の背の高い箱に放り込む為に渾身の力で持ち上げました。


 ズキン!


 その瞬間、左脇辺りに強い痛みが走りました。


 病院に通っていますが、二十二年一月現在未だに治っていません。


 今は左腰の辺りから左脚に痛みが下りてきています。


4.トイレの個室はゴミ箱ではありません。


 これは皆さんも外のトイレで見た覚えがあるんじゃないかと思いますが、汚物入れに使用済みのトイレットペーパーが入っていたり、汚物入れが無い男性トイレだと個室の床に使用済みペーパーが転がっていたり、時には洋式便器の後ろなど探さないと見付けられないような所にあったりするなんて事が結構よくあります。

 最初は誰が何でこんな事をしてるのか全然分からなかったのですが、何でも中国や韓国等は日本程下水道がきちんと整備されておらず、日本と同じように紙を流すとすぐ詰まってしまうので、使用後の紙は個室に設置されているゴミ箱に捨てるのが普通になっているという話を聞いて「ああ……」と思いました。


 ちなみに私が家族と福島から青森まで車で旅行に行った際、道中寄った高速道路のサービスエリアのトイレには、全て「使った紙はトイレに流してください」という貼り紙が外国語併記で貼ってありました。


 観光客の方とかだとまあ分からないんだろうな、とは思いますが、病院で働いていた時も定期的にそういうゴミがあったのは何なんでしょう。

 更に床に転がしていくのは何なんでしょう。


 ちなみに今の店の多目的トイレでは、たまに床中に何かに使ったのか何なのかも分からないトイレットペーパーがばら蒔かれている事があるんですが、これは流石に嫌がらせではないかと思っています。


5.忘れ物なのかゴミなのか。


 私は開店前のトイレ掃除をする前、まず一回りトイレを見て回りますが、時々忘れ物を見付ける事があります。

 そういう時はお店の人に届けますが、悩むのは時々忘れ物なのか捨てていったものなのか判断に困るものが放置されている時です。


 まあ男性トイレにトランクスが落ちている時は(何故か時々あります)、「ああ……間に合わなかったんだな……」と判断してろくに調べもせずゴミ袋に突っ込んでますが。


 一番悩んだのは、男性トイレの個室のドアにもも引きがかけられていた時です。


 裏返してみてもぱっと見目立つ汚れは見付からないし、「履いてると用を足しにくいお年寄りとかが一旦脱いで忘れてった可能性もあるか……?」となかなか結論が出ず、しばらくドアにかけっ放しにしたまま作業を進めていましたが、そろそろ掃除を始めなくては……これ店員さんに届けるべきか……?という段階になってようやく見付けました。


 股の部分に、小さく茶色い汚れが。


 そのままゴミ袋に突っ込みました。


6.誰も好き好んで男性トイレを掃除してるわけじゃないんです。


 時々聞く話で、「何で男のトイレを女の人が掃除してるの」「やりにくいんだけど」というのがありますが、こっちだって出来ればやりたくありません。

 それを何でやっているのかといえば、何て事はない雇い主の意向です。


 基本的に雇い主という人達は、通常三人でやる仕事は二人で、二人でやる仕事は一人で出来ないかと考えているんだと思いますが、そうして人員が削減されると、トイレ掃除は一人で男女両方やらないといけなくなります。そうなるとトイレ掃除を担当するのはおのずと女性が選ばれるわけです。


 そして人員を削減された負担は現場の私達にかかってくるわけです。


 え?その分給料になるんじゃないかって?


 そんなわけないでしょう。


 例えば病院のように一つの清掃会社から何人も派遣される仕事先の場合、最初に清掃会社から派遣先に「一人幾らの給料で何人派遣します」と提示して契約するんじゃないかと思いますが、例えば十人で契約した場合、実際に派遣するのは七、八人なんて清掃会社もあります。

 そうして現場には負担だけが押し付けられ、余った二、三人分の給料はピンハネされるわけです。


 私が病院で働いていた時は、実際いたのは八、九人だったにも関わらず、上司からは「何人で働いてるのか聞かれたら必ず十一人と答えろ」と念入りに言い渡されていました。


 え?余った分は現場の人間の給料に分配されてた可能性があるんじゃないかって?


 あんな部下の話は全く聞く耳持たないセクハラクソ上司がそんな事するわけないでしょう。


 そんな労働環境でしたから、優秀な清掃員=仕事が早い清掃員という扱いになり、「優秀」な皆さんはトイレの雑巾で洗面台等も纏めて拭く事で早い仕事を実現しているという状態でした。


 ちなみにその病院で新型コロナの感染者が出た時は、速攻でクラスターが発生していました。


7.肝心なのは立つか座るかではなく。


 たまに「男性が洋式トイレで小用を足す時は立ってするか座ってするか」「母さんは座ってしろとうるさい」という話を聞きますが、肝心なのはポーズではなく、用を足した際自分で汚してしまった所を自分で綺麗にしてくれれば別に立ってても座ってても逆立ちしててもご自由にどうぞ、という話なんです。


 また男性の場合、特に病院で働いていた頃は立ち小便器でも洋式便器でも周囲に水溜まりが出来ている事が多くあり、「この病院には象でもいるのか!?」「犬猫だって躾られれば決まった場所でトイレ出来るのに犬猫以下か!?」と内心ブチキレていたのは懐かしい思い出です。


 しかし派手にこぼれてる男性トイレを見ると、「トイレの使い方が汚い男性と結婚した女性は苦労するだろうなあ」と誰に向けるでもなく思います。


8.何でそんなに?


 あくまで私の経験上ですが、女性トイレよりも男性トイレの方が汚れが多く頑固な場合が多いのは何故なんでしょう。


 小さい方だけでなく大きい方もです。


 やっぱり男性は体が大きいので肛門も大きいのでしょうか。


 それともやっぱり男性はお尻を拡張させてる方が結構いるんでしょうか。


9.長居はしない方が貴方の為でもありますよ。


 あくまで私の経験上ですが、個室に籠ってなかなか出てこない方というのは女性より男性の方が多いです。

 個室の数は男性トイレの方が少ないので籠られると他の男性が困ると思うんですけどね。

 あとぶっちゃけると掃除する側も非常に困ります。


 何故洗う前の手で平気でスマホに触れるのかも不思議ですが、更に不思議なのが何故かご自分が出したものを流しもせず、更にお尻の汚れを拭きもせずに長居しているという事実です。

 だいぶ時間がたってからトイレットペーパーをガラガラ取る音や水を流す音が聞こえるので分かります。


 しかもネットで「拭かずに放置してて尻がカピカピになるのがよくある」という書き込みを見付けて更に「何故!?」という気持ちが強くなりました。


 足の悪いお年寄り等が来て「すいません今洋式が埋まっちゃってて」と言うと途端にガラガラトイレットペーパーを取る音が聞こえてくる事もあるので、出ようと思えばいつでも出れるみたいなんですが。


 しかしそうやってご自分が出したものと一緒に狭い個室に長い時間籠っていたらどうなるでしょうか。


 結論から言うと、匂いがしっかり染み付きます。


 ご自分では分からないようですが、取り分け臭いものを出す方だったりするとはっきりう○こ臭い人になります。


 しかもその状態で売り場に戻って行く店員さんもいます。


 本当に自分じゃ自分の出したものの匂いって分からないみたいですね。


 でもご自分以外の人は皆分かってるので気を付けた方がいいと思います。


10.簡単に諦めないで下さい。


 トイレ掃除をしていると、たまに「何で流さないの?」という状態を見付ける事があります。


 まあ紙などが残された状態だったりすると、一回水を流してその後を確認しないまま出ていって流し残りに気付いてないのかな、と思う事もありますが、中には明らかに「これ一回も流してないよね?」という状態もあります。


 そういうのは本当に理解不能なんですが、時には「ああ……流れなかったのか……」というものにも遭遇します。


 でもそういうものも、流すレバーを長押ししてちょっと長く水を流し続ければ結構な確率で流れるので、どうかすぐに諦めないで頑張ってみて下さい。

 流すボタンを押すタイプの場合?

 存じません。


 ちなみに以前男性トイレで、立派なものを残したまま個室から飛び出して手も洗わずに出ていった店員さんに出くわした事があります。


 その人も臭かったです。


11.こんなご時世でも変わらない人は変わらない。


 最初に病院で清掃の仕事を始めた時に気付いたんですが、男性は見た限り女性と比べて用を足した後も手を洗わない率が非常に高いです。


 女性は小さいお子様やよっぽどのお年寄りでもない限りほぼ全員手を洗いますが、男性は病院当時の私の体感では半分くらいの方が洗わずに出て行かれてました。

 何故かお店より病院の方が洗う方が少なく感じます。

 ハンドソープもペーパータイルも減り方が倍くらい違いましたし。


 なにせお医者さんでも洗わない方がいましたから。


 それを見た時は流石に驚いて、「いやどうするんだ!?」と気になって思わず行方を見に行ってしまいましたが、向かった部屋の前に設置されていた消毒液をつけただけで入って行かれました。


 いや消毒しても汚れは落ちないでしょう。


 でも今は「消毒すればいい」と思ってる人が増えてそうでちょっと心配ですね。


 病院の時程多くは感じなくなったものの、今の店でもやはり手を洗わない男性は割と多いです。

 売り場まで行かないと消毒液も無いのに。


 このご時世でも洗わない方は、そもそもウイルスを恐れてないか、もうすっかり習慣化して変えられないレベルの方なんでしょうかね。


12.紙は大事に使ってください。


 うちの店では清掃員用の流し台は男性トイレにある掃除道具入れの中にあるので、トイレ掃除が終わった後も雑巾を洗うためなどでよく男性トイレに入っています。


 そんなある日、男性トイレに入ると個室からガラガラガラガラと妙に長くトイレットペーパーを巻き取る音が聞こえてきました。


 何事かと見てみると、個室のドアを閉めもせず、勿論ズボンも下ろさず、ただひたすらガラガラと紙を巻き取っている男性の姿がそこにありました。


 新手の紙泥棒か?と思い、「どうかなさいましたか?」と声をかけてみましたが、「あ……いえ……」と言うばかりで、一旦紙を切ったもののまたガラガラと巻き取り出す有り様。


 何だろうと警戒しつつも掃除道具入れの中に入ると、今度は手洗い場からジャアアアアアと水が流れ続ける音が。


 何事だと掃除道具入れの戸をちょっとだけ開けて隙間から覗いてみると。

 濡らした紙を薄い頭頂部にひたすらピタピタあてていました。


 何をやっていたのかは未だに分かりませんが、とりあえず頭の手入れは家でやってください。


13.冬の床掃除は地獄。


 真夏の暑さもしんどいですが、雪国の場合は雪が降ったり足下に残ってる時の清掃が一番辛いです。


 想像してみて下さい。

 靴底に水や雪の塊や泥をぐっちょり付けた人達がこれから掃除する、あるいは掃除した後の床の上を次から次へと踏みつけていく様を。


 さながらわんこそばの様に拭いても拭いても汚れていきます。


 そんな状況なので流石に一度拭いたらその後汚れるのは放置、としないといつまでたっても終わりません。


 まあ一番汚れ方が酷い一階玄関近くは水モップで拭けるからまだマシな方なんですが。


 問題は二階の売り場です。


 広い二階の掃除には大きさ的にドライモップと雑巾の二つを持ち歩くのが限界なので、床の水汚れ泥汚れは雑巾一枚で対処しないといけません。


 具体的には、雑巾で床を拭いてからその部分をモップ掛け、拭いてからモップ掛け、をひたすらひたすら繰り返します。


 え?二階も水モップで拭けないのかって?

 水モップで拭けるのは水分やこびりついた汚れだけで、砂など主だったゴミは取れないのです。


 ならドライモップで水も拭けないかって?

 そんな事したら汚れが広がるだけです。


 なのでドライモップが水分に触れないように非常に神経質に床を見る必要があるのですが…。


 ある新春安売りの日、玄関近くでお客様に景品を渡す係だった男性店員二人が、勝手にドライモップを持ち出して泥汚れを拭くのに使っていました。


 当然「これは濡れた所には使えないんですよ!」とキレましたが、「雑巾で拭いたら腰が痛いでしょ」とヘラヘラしていたので、「立ったまま水汚れを拭けるなんて便利な掃除道具はうちの店にはありません!」と言ってドロドロにされたモップを取り返しました。


 雑巾掛けも出来ないなんてあの二人は掃除やった事無いんだな、「手伝う」って言って余計な事して奥さんの手間を増やすタイプだな、と思いました。


 まあそれ以来ドライモップが勝手に泥掃除に使われる事は無くなりましたが、泥汚れは相変わらず雪が降る限りやって来ます。


 酷い時だと一歩進む毎に雑巾→モップと掛けないといけなくなります。


 当然肉体的にも精神的にも著しく消耗します。


 自分に低血糖が見付かった(糖尿ではありません)本年度は、本来一時半が終業時間なのに三時過ぎまでかかりました。


 雪国のお客様、どうか入り口のマットで極力靴底を拭いてから入店していただけるともれなく清掃員が喜びます。



 そんなこんなで色々書いてきましたが、時折清掃員を「汚い人達」「不潔」と扱う皆様、掃除をする者がいなければ皆様は汚い所で過ごすしかないという事実をどうか忘れないでください。

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