その後について

「全く、我ながらなんという複雑な封印だ。まるで無数の絡んだ糸を一本ずつほどいているようではないか! これでは魔界に帰れる日はいつになることやら」

「ベルゼビュート様、紅茶のおかわりはいかがですか?」

「いただこう。――全く、いつまでこんな場所にいれば良いのだ」


「思いっきりくつろいでるくせに、良く言うよね。そういうこと」


 優雅に二杯目の紅茶をすすっているベルゼビュートに、リュミエールは呆れ顔で文句を言った。




 魔界へ繋がる扉に、自ら強力な封印を施してしまった魔王ベルゼビュート。

 二つの国の宰相、今はもう宰相ではないが、その二人を“下僕”と言ってこき使い、日々国境で封印を解く作業に奮闘している。


 そしてその封印が解けるまでの間、リュミエールの国ミネルフィア王国の王宮に居候することとなった。

 


 しかし、王宮をすっかり我が物顔でうろつく態度は、とても居候とは言えない。

 いつの間にか、メイドにも城の住人として対応されている。紅茶のおかわりを勧められる程に。



「これ以上ずうずうしくなるようなら、魔王のお兄さん達みたいに吹き飛ばすぞ」

「ああ、いや……紅茶はもう充分だ」

 ベルゼビュートは慌ててティーカップを卓上に置いた。


 リュミエールは未だベルゼビュートと、一定の距離を空けていないと会話ができない。魔物恐怖症は簡単には克服できないらしい。


 だがこの様な軽口も叩ける様になったのだ。

 恐らく彼とは、普通に関われる様になるのも時間の問題だろう。

 リュミエールはのんびりとそう思っている。



 そこで二人の居る部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「二人とも、ここにいたんだ。探したわよ」

 リュミエールの部屋に少女が一人、ひょっこりと顔を出す。

 フロンライン王国にいるはずのお姫様ジャンヌだった。


 彼女はあの後自分の国へ戻ったが、度々こうして遊びに来ている。

 名目上は国同士の交流を深める公的な訪問だ。

 初めて姫らしい格好のジャンヌを見た時は、二人は思わず目を剥いたものだった。



 しかし今日の彼女は、出会った時と同じ女戦士と称される服装だ。髪も高く一つに結い上げている。


「あ、ジャンヌ。君がその格好ってことは、まさか」

 リュミエールが何かを察して呟いた。

 ベルゼビュートもニヤリと笑う。

「ふん、久々だな。扉の封印を解くのも疲れた。思いっきり暴れてやろう」


 彼女がこの姿で来る時は決まって、トラブルを聞きつけた時。


 つまり、戦闘準備完了だ。




 彼女が意味深にふふっと微笑したその時、タイミング良く城の兵士が部屋にやってきた。


「王子、村の農作物が根こそぎ盗まれたとのことです。おそらく盗賊の仕業ではないかと」

 三人は顔を見合わせた。

 同時に頷き、リュミエールが代表してこう尋ねる。


「それで、村の人たちは?」

「はい。『王子様方、どうか助けて下さい』と」

 三人の返事は最初から決まっていた。



「俺が誰よりも頼りになるということを、思い知らせてくれるわ!」

 ベルゼビュートが勢い良く立ち上がる。


「ところで、お礼はちゃんともらえるのかしら?」

 ジャンヌが瞳を輝かせる。


「さあ、行こうか!」

 リュミエールが、腰に剣を挿す。



 助けを求める人がいる限り。

 三人組は今日も行く。





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