~円卓の騎士団のその後~

 前書き

このお話は3章の36話の間に起きていた円卓の騎士団3人の追加話になります。

本編にあまり繋がらないので、読み飛ばしても特に問題はありません。





「い、石だと……?」


 手に持っていたテスターの石についてルーヴェルは尋ねる、ネリスの言うことが確かならこの石はゼイゴンの悪事が暴かれる会話が記録されており、これを国王に提示すればまた団として活動を再開出来るという話をテスターはしたのだが……。


「けっ、信じられねェな!!」


 当然、ルーヴェルとヘランダは一度テスターに騙された身、強く否定したルーヴェルと同じようにヘランダも受け取る事を拒否する。


「本当にその石にゼイゴンを失脚させる内容が入ってるのか?」


 長い付き合いからか、ルーヴェルは一応石が本物かの確認を取る。


「ええ」

「じゃあ、この場で再生してもらおうか」

「それは……」


 テスターは録音石を再生させる詠唱を教えられておらず、しまったと内心抱きながら一瞬ネリスの名前を出そうとしたがまずいと口を噤む。


(……ネリスは生きているというのを周りに知られたくなさそうでしたね)


 英雄の話を聞き、同情したテスターは自身が目指していた憧れのゴールド冒険者とは違う現実に少し驚きを隠せなかった、ここに本人がいない以上、いくらテスターが必死に説明したところで信じる者がどれだけいるか怪しいものである。


「確かに私は貴方達を裏切り、ゴールド冒険者への踏み台にしました!! だからこそ! 私は団長として責任を果たしたいんです!!」


 ゼイゴンの手下になりかけている円卓の騎士団の方を助けたいという一心で動くテスター。


「今更なにを信じろって言うのよ!! 団長は……団長はまたそうやって――」

「やめろヘランダ!!」


 杖を構え、テスターを攻撃しようとしたヘランダにバッと手を広げて静止させるルーヴェル。


「……話だけだ」

「ルーヴェル!」


 納得がいかないと抗議するヘランダに、団員達も口を揃えようとしたが、次のルーヴェルの一言に全員が黙り込んだ。


「団長は俺達を裏切る事はしたが、嘘はつかなかっただろ!!」


 裏切った罪悪感が今更押し寄せたのか、少し目を開いたテスターは地面を見てルーヴェルから目を逸らす、それからルーヴェルは。


「話すなら3人で……だろ」


 と語気を和らげながら言うと、団員達のいる広場から少し離れた森の中で話を聞く事にした。



 ――。

 ――――。



 昔から魔物を遠ざけるのは火と冒険者の間で決まっていた、パチ……パチと枝が折れた音が複数回鳴り続けるたき火の炎は、ルーヴェルとヘランダとテスターの3人に真剣な話が出来るよう、絶妙な空気を生み出しながら魔物を遠ざける役割を果たしていた。


 虫と野生動物の声も聞こえ、辺りもすっかり暗くなった夜の森……大量の木々に囲まれた小さい広場の中で、若干の座り心地の悪い岩に腰をかけていたテスターは自身の事情とある男から受けた使命、そして団から抜けた後の心境の変化を2人にじっくり時間をかけて伝えると、しばらく全員が言葉を失った。


「……」


 重いとも言えず、それでいて軽すぎるとも言えない絶妙な空気の中で先に喋り出したのはルーヴェルだった。


「団長俺は……個人の考えだが……」


 テスターは目線を合わせる。


「アンタに……アンタに戻ってきてもらいたいと思っている、確かにまだ恨んでいる者も中にはいるかもしれないが、本気で憎んでいる奴はみんな団を離れていった……」

「……少なかったですもんね。999人もいたあの有名なパーティが、今では100人いくかいかないかぐらいですか」


 そんな事、よく平気で言えるわねとヘランダは毒づいて黙ると、またほんの少しの無言が生まれ、テスターは謝罪の言葉を再度送ってから、先ほどよりも長い沈黙が訪れヘランダは口を開いた。


「そういえば2人とも、団を結成した最初の頃を覚えてる?」

「あァ? 急になんだよババア」


 当たり前のようにヘランダが噛みつきそうな言葉を癖で言ってしまったルーヴェル、いつもならヘランダも挑発に乗って言い返すのだが今日だけは違っていた。


「私達で、英雄ネリスみたいに知らない人達がいないような、そんな有名なパーティを作りたいって話したじゃない」

「あ、ああ……。そうだったな」


 ヘランダは至って真面目な顔で燃え続ける火を見て言う、その姿勢を受け真面目に返すルーヴェル。


「……」


 空気を大きく吸い、これが3人で話せる最後の機会かもしれないと思ったテスターは優しく渡されたボールを返すように話を繋げた。





「もう何年前になりますか……。あの時は少し恥ずかしかったですね」


 恥ずかしかったのかルーヴェルは置いてあった大剣を持つと、ブンッと何もない場所へ1回振る。


「お、俺ァよお……冒険者ギルドにあった訓練場で、偶然見た団長の剣技に憧れて……魔物と戦っている時も、寝てる時もいつか絶対、この人といつかサシで戦いてェと思ってたよ」

「それからだったわよね、同じように見ていた私がルーヴェルに声をかけ、2人でパーティを組んで団長について話し合ったのは」


 この場にいるのが耐えられないのか少し離れたルーヴェルはブンブンッと剣を振り続け、それを見たヘランダは少し笑みを零して団長に向けて話す。


「雑用とも言える依頼から始まって……。一緒に組んだ別のパーティから1人で戦う団長の伝説とも言える話を何度も聞いて、私達も早く強い冒険者になろうって誓ったの」

「そうだったんですか……」


 ヘランダはそれから今までの思い出を綴った、いつか憧れの団長が作るパーティに入りたいとルーヴェルと誓い、ある日ギルドで難しい魔物の討伐依頼を受けようとしたが、既に前任者がいるらしくその者が何日経っても帰ってこないという内容をギルドから聞き、それがテスター本人だとわかるとすぐに飛び出すように依頼場所へと向かう。


「古いボッロボロの城で、ドラゴンに燃やされそうになった団長を咄嗟にルーヴェルが大剣を盾にして庇ってね、私に向かって地面に氷の柱を詠唱してくれって、団長言ったじゃなあい?」

「……そうでした、懐かしいですね。あの時は助かりましたよ」


 テスターは昔、一度だけヘランダとルーヴェルに命を救われた事がある、テスターに憧れ、強い冒険者になりたいと思っていた事、そして仲間の大切さ、重要さ、信頼を伝えると、テスターは2人をパーティに誘ったのだが……。


「この中央国に来る前には既にパーティメンバーはひゃくにんほど、知名度は更に広がって……いつしか私が冒険に求めていた物が変わっていたのかもしれません」


 知名度があればネリスに近づける。

 有名になれば、伝説の冒険者になれる。


 決定的な間違いに気付いたのはアプロと殴られた時だった。

 その話をすると、コクリと頷いて同意するヘランダとルーヴェル。


「アイツ……。昔の私達みたいに仲間を大切にしてたわね」


 いつかまた、ああいうパーティを作りたい。

 一番楽しかったあの頃へ。


 ……そんな事は誰も言えなかった、ルーヴェルとヘランダは立場が変わり、これから新生円卓の騎士団を作る為に残った仲間と共に名誉を取り戻していかないといけない、テスターも英雄ネリスの手助けを借りず、自身が選んだ選択に向かって走り出す。


 この3人が再びパーティとして活動する事はない、それでもテスターはこれだけは伝えたかった。


「いつかまた、ここで集まりましょう」


 テスターはそう言って立ち上がり、夜の森へと消えようとする、その背中を見つめながら何か言うことはないかと探りつつ、名前を呼んで引き留めるヘランダ。


「団長、ゼイゴンってゴールドの冒険者なんでしょう? 戦ったら死んでもおかしく――」


 2人の名前を呼んでピタリと足を止めるテスター。


「円卓の騎士団は貴方達に任せました、責任を投げ出すような形になって申し訳ありませんが……」


 またこうやって3人で話すのがいつ来るのか……それは誰もわからないが。


「常に、仲間と過ごす時間と絆を忘れないでください」


 テスターは団を離れる最後まで気にかけようと思っていた。


「ま、待てよ団長!! 俺は……どんな奴にも! 誰にも負けないぐらい強くなる! 団員全てを守れる凄い力を持ってみせる!!」


 ルーヴェル達のお別れの言葉に軽く手を振っただけで済まし、テスターの姿は真夜中の森へと消えていった。


(……やはり、話せてよかった)


 テスターは心からそう思っていた。


 自分で考え、自分で決める。

 英雄が出した質問の答えを……。


「さて、東ですか……。英雄さんは船に乗った頃ですかね」



 英雄に伝える為に、テスターは新しい道を歩き出す。





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999人で組む有名なパーティの最後尾、その俺がパーティから抜けたら急に覚醒して……組んだ人数によって弱くなっていく。 ~今更戻ってきてくれと言われても、みんなで作ったパーティが気に入っているから断る~ 杏里アル @anriaru

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