不死者殺しの戦い

ヘイ

第1話

 不死殺し。

 とは言うが、別に殺せてしまうなら不死などと謳うのも可笑しいか。

 とは言え形式的には不死だ。

 人狼、吸血鬼、悪鬼、魔女、死霊。

 そんな不死身の怪物を殺害する為の対不死者組織、ギフデッド。

 

「なあ、おい。人魚の肉は違法だぜ」

 

 彼らは其々に殺し方があるのだ。

 

「不老不死の中でも一際面倒だ。何せ、弱点の発見が随分遅れたからな……人魚の肉を食ったやつは鏡に映ったのを攻撃すると良いらしい」

 

 殺害方法が発見されたのは2000年代初頭。

 人魚が絶滅種とされるまで狩り尽くされた後の話だ。

 

「人魚の絶滅が確認されたのは1900年代。最後の人魚は中国で、日本人がその肉を食らった」

 

 戦時の最中だったらしい。

 記録では海を渡り日本の南、鹿児島に辿り着き2043年までの生存を確認。

 韓国の男がこれを殺害した。

 

「韓国の方じゃ不死者殺しは賞金も与えられてる。むしろアジアで賞金が課されないのは日本くらいだろ。日本はギフデッドの支部があるしな。不老不死は人類にとっての不利益だってさ。国際組織ギフデッド。寿命が取っ払われちまえば人間は安寧の為の発展を忘れる……だとよ」

「な、何なんだよ! お前は!」

 

 人差し指を向けながら若々しい姿の男が叫ぶ。

 

「なあ、人魚の肉は美味かったか?」

「ぐっ……!」

 

 なにがなんでも目の前の男は人魚の肉を食ったことにしたい様だ。

 

「認めろよ。俺は騙せないぜ」

 

 何処までも冷たい目が射抜く。

 心臓を鷲掴みにされる様な。目を合わせただけだと言うのに。

 

「なあ、聞いてんだろ。人魚の肉は美味かったかって」

「ま、待て! ほ、本当に何の話だ!」

「そうだな……論より証拠ってのは不死者になら言えるな」

 

 懐から取り出したナイフを男の眼球に向けて無遠慮に突き刺す。飛び出した血液に瞬きすらせずに、一瞬でナイフを引き抜く。

 

「あ、ああ……あ、しょ、正気かぁああああ!!!」

 

 泡の立つ様に眼球は再生する。

 

「ほら、やっぱりな」

「て、テメ、テメェ! そ、それで人間、人間だったらどうする! どうするつもりで!」

「さてなぁ。お前にゃ関係ねぇからなぁ」

 

 どうでも良いと言いたげ、と言うよりも最早どうでも良いと言ってしまっている。

 悪魔だ。

 人魚の肉を食べた自分も大概人外ではあるが、この男は人間としての倫理に欠けている。そう考えてしまう。

 

「なあ、人魚の肉は焼いて食ったのか? 人魚の漁なんて何年前だよ。市場にも出回らないだろ?」

「お、お前は」

「あん?」

「人間、なのか……?」

「こっちの質問に答えろよ」

 

 先程眼球を突き刺したナイフは今度は男の足に突き刺さる。血が溢れるが即座に再生する。しかし引き抜くつもりはないらしい。

 

「人魚は叫んでたんだろ? 泣いてただろ?」

 

 彼が食べたのは1700年頃の話だ。

 それでも衰えぬ脳細胞に確かに刻み込まれている。あの頃の事が。

 

「まあ、俺だったら忘れてるけどな」

「…………え?」

「いや、そんな昔に食べたモンのことなんて忘れるだろ」

 

 まるで人魚の肉などどうでもいいことの様に。

 

「俺は数百年も生きてても、数十年しか生きてなくても人の顔と名前なんて直ぐに忘れると思うけどね」

 

 だから、それと同じだ。

 人魚の呻めきなどどんなものか覚えられるはずもないのだ。

 

「な、何なんだよ! 何なんだよ、お前はぁあ!!」

「ギフデッドのメンバー、アンノウンだなんて呼ばれてんだ。あっれー、会員証何処にやったっけ……」

 

 アンノウン。

 正体不明。

 得体の知れない怪物。

 

「何でアンノウンなのかは、俺には全然覚えがないけどな」

 

 アンノウンと呼ばれる理由に彼は心当たりがない。全員に顔を見せたと言うのに。

 ただし、アンノウンと呼ばれるのは彼の姿が分からないからではない、何を考えているかが掴めないからだ。

 理解不能。

 だからこそのアンノウン。

 

「で、どうする?」

「な、何が……」

「いや、俺もそこまで狂っちゃいなくてな。別に不死者を見つけたら必ず殺すってのもあれだなーって感じもあるんだよ」

 

 仕事は辛いよな。

 愚痴でも吐く様な口ぶりに更に男は困惑する。何もかもが分からない。主張が一貫していない様な気もする。だが、何も彼は主張を明言していない。

 自らの所属を明らかにしていながら、自らの意見の立ち位置を明瞭な物にはしていない。

 

「お前は人魚の肉を食べた。けど、それも時効みたいなモンの気もするんだよなぁ」

「…………」

「だからさぁ、俺としては殺さなくても別にいいかなって……思うワケ」

 

 慈母の様に。

 アンノウンは言うのだ。見逃してやると。気味が悪い。信じていいのかが分からない。

 

「な、なら!」

「でも、それってさ俺はって話で。組織的にはお前を殺すんだよ」

 

 窓ガラスに向けてナイフが投げられる。

 瞬間、男の想像を絶する痛みが身体中を駆け巡る。渇き、ひび割れる様な痛み。

 

「あ、ぎ、ひ、あ」

「ごめんな。心は痛まないけど」

 

 ひび割れた男の死体を見下ろしてアンノウンは電話を掛ける。

 

「もしもし〜、俺だよ俺」

『アンノウンか』

「人魚の肉食った奴の処理終わったぜ」

『……貴様のやってることは賞金稼ぎと変わらん』

「んだぁ? あれか、もっと組織的に動けってか?」

『……分かるならそうしろ』

「了解ですわ。ヤマトくん」

 

 おちゃらけた様な口調に対する答えは電話を切る音。

 

「ありゃ? ん〜と、じゃ。次中国ね。忙してくて困るアルよ」

 

 カレンダーの予定をチェックしてアンノウンはため息を吐いた。理由としては単純に、不死殺しの形式の違いだ。

 中国には独自の法がある。

 だからこそ、ギフデッドが処理した場合に波が立つ可能性もある訳だ。

 

「……えと、上海でワンと合、流」

 

 数少ない中国人のギフデッドメンバーであるワン思齐スーチーとの思い出には苦々しい物がある。アンノウンはワンを毛嫌いしている。

 堅物くさい様なチャイナ服の袖を捲り、鍛え上げられた腕を露出させ、傲岸不遜な態度を取るいけ好かない男なのだ。

 

「まあ叩けば響く鼓の類か」

 

 いけ好かない男ではあるが遊び道具には出来るだろう。嫌いな相手は更におちょくるのがアンノウンの性質だ。

 

「なーにが、彼女の一人はできたのかだ。お前はそのうち背中を刺されてしまえ。それを見て笑ってやる。どうせ死なないと思うけどな」

 

 

 

 

 

 

「よぉ! よく来たな、アンノウン」

 

 傍らには女が一人。

 見た目からしてアラビア系。浅黒い肌の美しい女性。髪を特に隠していないと言うことから宗教としてはイスラムではないのか。

 

「そっちは……お前のガールフレンドか?」

「そう見えるか」

「いや、全く」

 

 一秒の迷いもなくアンノウンがワンの言葉を否定する。女性は置いてけぼりを食らってしまったのか、黒髪の日本人と金髪の中国人に話しかけられずにいる。

 

「それより、おいアンノウン。俺たちの上司はどうなってる。何で中国に派遣なんだ」

「分からないネ」

「お前のが日本支部に居るだろ。いや、日本支部というかアジア支部なんだがな」

 

 アンノウンは何も知らない。

 自由にやり過ぎるせいだ。

 

「……その事なのですが」

「えーと、君誰?」

「サラです。サラ・サッバーグ。アラブ支部から来ました」

「態々アラブ支部から?」

「まあ、ワンさんの指定で」

 

 つまりは選り好みしたと言うわけだ。

 

「それでですね。賞金稼ぎの技術では殺害しかねる不死者が現れてしまったそうで」

「え? 何それ」

 

 アンノウンは訳がわからないと言う様に首を傾げた。

 

僵尸キョンシーです」

「……あー。それ俺対処できないやつじゃん」

 

 アンノウンが不貞腐れた様に呟いた。

 

「タオとかだろ、それって」

 

 アンノウンの目が中国人であるワンに向けられた。お前何とかしろよと言う目だ。

 

「あのなぁ……アンノウンさんよ。中国人皆んなが仙人とかじゃねぇからな?」

「チッ、使えねぇな……」

「お前も大して変わんねーからな!?」

 

 なんとも醜い事だ。

 どんぐりの背比べ。サラは二人の言い合いを見兼ねたのか、単純に話が進まないと思ったからか口を挟む。

 

「まあ、解決する手段は持ってきました。アッ・シャムスの硝子剣です」

 

 光の反射はとてつもない。

 ちょっとした光でも剣身が認識できないほどに輝く。

 

「気をつけてくださいね。布の鞘に収めておきましょう」

 

 周りに配慮してか僅かに覗いていた剣身を革の中に収めて、腹が懐に仕舞い込んだ。

 

「なあ、ワン

「ああ、アンノウン」

 

「「俺たち要らなくね?」」

 

 サラの有能さに不甲斐ない二人は地面に四つん這いになってしまいそうになる。なれるのならなっているだろう。

 

「いえ、お二人とも必要です。探し出すのは結局は人の手ですし、足止めも必要になるかも知れません」

「……俺じゃなくて良いじゃんよぉ! それなら吸血鬼のほうに行ってたのにさ!」

 

 アンノウンが叫ぶ。

 僵尸キョンシーの方が遥かに面倒だ。

 

「それと、お二人にはこれを」

 

 渡されたのは木剣。

 

「何だこれ」

「桃の木です」

「桃の木、だぁ?」

 

 一番驚いていたのはワンだ。

 

「それはB級映画だろ!」

「まあ、嫌がる程度ですね。仙人なんていませんし。硝子剣だけでも用意するの大変なんですよ」

「ああああああああ…………」

 

 頭を抱えるワンを引きずってアンノウンは空港の出口に向かって歩き始める。

 

「アンノウン!」

 

 サラが呼び止めた事で振り返る。

 

「ん?」

「どうするつもりですか!」

「いや、飯でも食べに行こうかと。金持ってないし、こいつに払わせて」

 

 暢気な事だ。

 

「不死者っつうのは、どうも夜行性だし。見つけるの難しいし」

 

 後から考えよう。

 難しいことは後回し。

 不死者と遭遇したのならその時だ。

 

「中国に美味いラーメン屋はあるか? おいワン、答えろ」

「……ラーメンの本場は日本だ」

 

 

 

 

 

「……なあ、このラーメン屋。土臭いな」

「ラーメン屋じゃねぇんだよ。さっき言ったよな。俺は高級料理店に案内したんだよ」

 

 上海は経済的に豊かな街であり、レストランも比較的に良好なものが多い。

 

「お前の知ってる高級料理店は土塊の臭いがすんのね」

 

 これは異常事態だ。

 レストランが放つ臭いではない。粘土を捏ねたような臭いは、例えば陶芸家の家であるのならあり得た話だ。

 しかし、ここは上海という都会の高級飲食店。

 周りの客は気がついた様子がない。

 

「…………」

「アンノウン。薬でもやってんのかよ」

 

 カラン。

 桃の木の剣を床に置いた瞬間、椅子を引き摺る音が響く。

 この事実にサラも気がつく。

 

「この店……」

「結構、本気でマズいかもな」

 

 流石にワンも気がついた。

 この場にいる全ての客が僵尸キョンシーだ。

 

「サラ! さっさとアレ抜け!」

 

 ワンの言葉にサラは硝子剣を引き抜き太陽の光を反射させる。店にいる客は十数人。数え方としては十数体と言った方がいいか。

 光で焼き尽くしたのはそのうちの四体。十体程が残っている。

 

「酷いですねぇ……」

 

 店の奥から中年の男の声が聞こえて三人は同時に振り返る。

 

「陽の光、苦手なんですよ」

「へぇ、それで何だよコレ」

 

 アンノウンは窓を完全に隠したシャッターのような物を叩く。

 

「防犯用のシャッターですよ。最近物騒なんですよ」

「お前の存在のが物騒だと思うんだけどなぁ」

 

 そもそも、どうしてこんな所に一連の僵尸キョンシー事件の関係者と思われる男が居たのか。

 

「まあまあ。私なんて末端も末端で……」

「…………」

 

 簡単に、今回の中国における僵尸キョンシー被害は拡大している。故にこの上海の地には僵尸キョンシーが潜んでいるのだ。

 

「そうか。お前ら不死は面倒だ! 情報も吐かねぇしなぁ! だから死ねえぇ!」

 

 アンノウンの叫びと同時にワンは桃の木の剣を黒スーツを着た男に向けて全力で投げつける。瞬間に顔が歪んだのが見てとれた。

 

「くっぅう……」

「お前ら鼻がいいからなぁ」

「わんちゃんかよ」

「ちゃん付けすんな、殺すぞ」

「お前じゃねぇから、死ね」

 

 アンノウンとワンは険しい目で睨みつけている。

 僵尸キョンシーは桃の木が苦手だ。

 桃は中国に置いては神聖な物であると捉えられる事がしばしばある。西遊記においても桃は仙人の食い物とされる。

 僵尸キョンシーは陰陽において陰にあたり、桃は太陽と同じく陽に当てはめられる。

 その臭いを僵尸キョンシーは感じ取ってしまうのだ。

 

「シャッター壊しました!」

 

 ガッシャァアアアアンッッッ!!!

 

 同時に窓も割ってしまったみたいだ。

 しかし、仕方がない。

 切羽詰まっていたのだから。

 サラが叫びながら硝子を掲げる。

 纏めて残っていたキョンシーは砂の様に崩れていく。理性あるスーツ姿のキョンシーも頭だけが残る形となり、桃の木の側に落ちてしまう。

 

「ほーぉれ、お前の嫌いな桃の香りだよん」

 

 アンノウンは頭だけになった男の鼻にグリグリと桃の木の先端を押し付ける。人間が犬の糞を押し付けられた様な感覚だ。

 鼻がひん曲がるほどの臭い。

 

「お前生み出したの誰だよ。邪仙か?」

 

 邪仙は寿命を克服した化け物だ。

 法力も仙人と変わらない。とは言え、邪仙など神話の時代の話だ。今となっては中々にお目にかかれるものではない。

 

「な訳ないよなー。だってあんなん出てこられたらヤマトくんでも大変だからね」

 

 出てきたのならギフデッドが総力を上げて叩き潰さなければならない。総力戦という物だ。たった一つの敵に対して、そこまでしなければならないほど邪仙は強大なのだ。

 

「だ、だれが!」

 

 なら、構わないか。

 不死身に胡座をかいた彼らが口を割ることはまずない。拷問も無意味だ。殺す他ない。そもそも殺すつもりだったのだから。

 

「僕ですね」

 

 レストランの入り口付近で柔らかな青年の声が響いた。

 太陽の光が差し込む。

 転がっていた男の首にも太陽の光がかかり、段々とひび割れて行く。

 

「あ、あ……」

 

 悲鳴。

 いや、最後の小さな呼吸は誰の気にも留まらない。

 

「僕です。僕ですよ……」

 

 クスリと男は笑った。

 無言でサラが男に向けて硝子の剣を突き刺す。首が刎ねられた。

 見事な血の噴水。

 一息もつかぬ一瞬の出来事。 


「あ、しまったなぁ。女の子を殺す趣味はないんですがね」

「……なあ、コレ不味くないか」

 

 アンノウンの言葉にワンも無言ではあるが感じ取る物があるらしい。

 明らかに目の前の物腰柔らかそうな二十代そこらに見える青年は僵尸キョンシーなどとは格が違う。

 

「仙人と同質な感じだけどな」

 

 冷や汗が漏れる。

 弱点は何なのか、サラが死んでしまった事実だけでも不味い事になっているのはよくわかる。

 

「僕は……リッチですよ」

 

 ゾワリ。

 鳥肌が立つのを感じた。

 話には聞いたことがある。彼の自己紹介を聞いた瞬間にアンノウンはリッチを陽の当たる外に蹴り飛ばした。

 

「お前よぉ! リッチは神聖な物に弱いってのはこっちだって分かってんだぜ!」

「へぇ……。確かに僕は太陽の下では五十分の一しか力を発揮できません。ですが、死ぬわけではない」

 

 それが吸血鬼や僵尸キョンシーとの違い。

 

「貴方、ただの人間ですよね?」

「……どうだろうな?」

 

 彼らの手元にはリッチを殺す術がない。

 確かにリッチを殺害したという例は存在する。限界ギリギリまで弱体化をさせ、心臓を清めた十字架で一突き。

 

「おい、こっち見ろ! クソリッチ!」

 

 ワンは折れた硝子の剣を掲げる。

 収束した光は一直線にリッチに向かって飛んでいく。

 

「くっ……!」

 

 太陽は無効なのではない。

 一点に集めれば有効なのだ。

 

「ですが! 当たらなければ!」

 

 当たらなければ問題はない。

 光の軌道など分かって仕舞えば恐ろしさなどかけらもない。気をつければ良いのはワンの攻撃だけだ。

 

「当たんなきゃ、なぁ?」

 

 居ない。

 アンノウンが見当たらない。どこに消えたのか。

 

「さて、お前の殺し方は分かったぜ、リッチ。要するに単純に耐久性の高い僵尸キョンシーって訳だな」

 

 そんな単純な話のはずがない。

 リッチは奇跡を扱える。

 それこそ、先程サラの首を刎ねたのは風を刃になるまで圧縮させたからだ。断じて僵尸キョンシーと同列ではない。

 

「舐めるなよ……人間風情が! 寿命を克服した! 老いをも克服した! そんな僕が負けるはずが!」

「良いところばっか見るなよな」

 

 ワンは光を反射させる。

 当たるはずがない。

 直線的に向かってくるのならたとえ光の速さであったとしても避けるのは容易い。

 貰った。

 慢心をするからだ。

 殺せると分かっただけだというのに。

 

「何を────」

 

 ────笑っている。

 

「おいおい、まだ分からないのぉ? 背中ガラ空きよ」

 

 背後からの声に振り返る。

 黒髪の男が割れた窓ガラスの破片を持ってそこに立っている。

 

「へーい、ワン。ナイスパス」

 

 光のリレー。

 ゴールはリッチの頭。

 

「ま、ず……」

 

 判断が遅い。

 光は焼き尽くす。脳天を。音よりも早く。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 リッチの断末魔が上海の路上に響いた。

 燃え上がる男の身体を見て二人は嗤っていた。

 

 

 

 

 

「サラ……」

「おいおい、ワン。また良い出会いがあるさ」

 

 どうせ彼女なんていくらでもいるだろ。

 今回の事件によっ人員の損失はギフデッド全体で見れば珍しいものではない。だからといって個人の感情にもたらす物はどこにでもある一般的な物でもない。

 

「可愛かったのになぁ」

「まあ、仕方ないだろ?」

「首だけでも持って帰ろうか……」

 

 趣味が悪い。

 アンノウンは渋い顔をしてワンの元を去って行く。

 今回の被害など、どこにでも転がっている様な話。

 

「あー、電話料金がまた増えるね」

 

 聳え立つビル群を見ながら、アンノウンは愚痴を零した。

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不死者殺しの戦い ヘイ @Hei767

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