酒の殺害方法

秋水

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酒の殺害手法


酷く嫌悪感を持った夜、喧騒の街をふらついた

信号の赤い光が眩しく、脳の真髄まで刺す様だった

交差点では感情を失った肉体が数え切れないほど存在し、それらの固有性を顕す頭部を見る余裕もなかった

ただ、視界を遮る肉塊が邪魔でしょうがなかった


唐突に私はその肉塊に話しかけたくなった

後から考えると私を阻むものを妨害される前に消してやろうとしたのかもしれない

しかし、そのときはなにせ余裕がなかった


気づくと私は何処かの酒屋に座っていた

横に居る肉塊が話しかけてきたが理解できなかった

いや、できなかったのではなくしなかったのだろうか

自分も同じ血肉であることを拒みたかった


当然会話もなく、適当に頼んだ酒を口に含む

酒の名前も分からなければ、味も不明瞭だった

普段酒は全く飲まない

アルコールが消毒液を連想させる

もしそうであれば自分の汚い部分もそれで綺麗になればいいのにと願うが、アルコールは逆によりそれを肥大化させる

だから嫌いだった

このときも酒が舌に下品にまとわりついたのははっきりと覚えている


そこなかとなく私はカウンターの酒を見て

「酒を殺し屋と見立てたらどれが強いだろうか」

と口にしていた

隣の肉塊は戸惑いの表情を隠しきれていなかったが、氷が溶けたグラス傾けながらウイスキーの瓶を指さした

示された酒のラベルには漢字が書かれており、他の洋酒のような洒落た雰囲気というよりは強固な何かが感じられた

そのウイスキーの殺害方法や性格、残酷性をたどたどしく話し始めた


確かに他の酒よりも存在感が強く、棚の中で目を引くものだった

大きい訳ではないが、緻密な模様が施された瓶やきっちりと絞められた深い赤の蓋はどんな犯罪も完全なものにすると予想できたし、ラベルに書かれた文字の多さは何か狂気的なものを示していた


私はいつもの陰鬱が真っ赤な嘘であると示すようにこのときは饒舌になっていた

アルコールによって血流が良くなり、私の中に確かに息づく肉体を感じたからかもしれない

私の誰にも理解されない独り言に付き合ってくれたことが嬉しかったのかもしれない

私は隣に下品にまとわりついた

話を理解してくれることを自分と共通点を多く持っていると錯覚していた


覚えていないがその後またいつものように独りになった

まだ夜は壊れていなかったが、感情もなく再び街に繰り出した




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酒の殺害方法 秋水 @kakuyoshio77

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