第19話 ギスギスはご法度です。
いつもの談話結界。
ソファに腰掛ける2人の影。
ミルヴァス「この間回ってきた報告書、よくまとまっていたと思う。君は昔から文章を書くのが得意だな」
ディオネア「すみませんね、それくらいしか取り柄がなくて」
ミルヴァス「褒めているつもりなのだがな……」
沈黙。
腕組みしてミルヴァスと逆の方向を見るディオネア。
下を向いて手いじりするミルヴァス。
ミルヴァス「……最近、変わりはないか?」
ディオネア「お陰様で」
ミルヴァス「そうか……。何よりだ」
沈黙。
不意に、扉が開く。
フロース「ラルス先生、師長が探してましたよ。また何か……」
ディオネア「フ、フロース!?」
フロース「あれ、教官。」
ミルヴァス「フロース、君も来たのか」
フロース「わー、ここに呼ばれると何だか嬉しいです!」
ディオネア「この間も一緒になったね。僕も嬉……」
ツカツカと室内に歩み入り、ミルヴァスの隣に腰掛けるフロース。
フロース「教官、お昼はもう済ませたんですか?」
ミルヴァス「……これから行くところだったのだが、呼ばれてしまってな」
視線を泳がせるミルヴァス。
ミルヴァス「君たちはこの間もここで一緒になったのか。よかったな」
フロース「この間はサビアさんと一緒だったんですよ! もう楽しくて楽しくて!」
ミルヴァス「副師長は話好きだからな、ディオネア」
ディオネア「え、ええ……」
テーブルの上に大皿に乗った大量の豆菓子と3人分の小皿、氷の入ったハーブティーが現れる。
フロース「あら、今日はしょっぱい系なんですね。嬉しい!」
ミルヴァス「2人から取るといい」
ナッツに刺さった食品用スコップをディオネアに手渡すミルヴァス。
ディオネア「僕は結構です。フロースから……」
フロース「教官、お先にどうぞ!」
ミルヴァス「……ありがとう」
ナッツを小皿にすくいとるミルヴァス。
ミルヴァス「3人で閉じ込められた時は……どんなことを話したんだ?」
ディオネア「別に大したことは……」
フロース「好きな飲み物とか、夕飯何食べたとか、そんな感じでしたよ」
ミルヴァス「そうだったか。ディオネアはリンゴジュースやソーダ水が好きだったな」
ディオネア「ち、違いますよ! 子供の時の感覚で話をしないでもらえますか」
ミルヴァス「ああ……すまない」
ナッツをすくいとるフロース。
フロース「何も変わってないくせに……」
ディオネア「えっ……」
フロース「教官は甘くない飲み物がお好きですよね?」
ミルヴァス「まあ……そうだな」
豆菓子を口に入れるミルヴァス。
ミルヴァス「君は……なんだ、酒か?」
フロース「もう! どうして私の顔見て真っ先にお酒が出てくるんですか!」
ミルヴァス「事実そうだろ」
ディオネア「で、でも、酒好きって言ってたよね?」
ディオネアの方を見ずスコップだけ差し出すフロース。
フロース「そんなこと、言いましたっけ」
ディオネア「え……」
フロース「教官は誰と閉じ込められてるんですか?」
ミルヴァス「私は、気付いたら山奥の……ああいや、ニアとセダムさんと3人だったな」
フロース「楽しそう! 私も久しぶりにセダムさんとゆっくりお話したいです」
豆菓子を嬉しそうに味わうフロース。
ミルヴァス「いずれ呼ばれるんじゃないか?」
豆菓子を次々口に入れるミルヴァス。
ミルヴァス「君はどんなメンバーで閉じ込められたんだ?」
ディオネア「僕は……その……温泉で……」
スコップで豆菓子をすくうディオネア。
ミルヴァス「ニアや師長たちとか?」
ディオネア「え、何で知って……」
ミルヴァス「ああ……聞いたんだ。副師長から」
豆菓子にむせるミルヴァス。ハーブティーを口に含む。
そっぽを向いたまま豆菓子を食べるディオネア。
ミルヴァス「コチレドさんもいて楽しかったと、話していたな」
フロース「コチレドさんも! いいですね〜。久しぶりに温泉行きたいです!」
ミルヴァス「2人で行ってきてはどうだ?」
ハーブティーを吹き出しそうになるディオネア。
ディオネア「えっ……そ……」
グラスをテーブルに強めに置くフロース。
フロース「そういう冗談やめてくださいって、この間言いましたよね?」
フロース「いくら教官でもさすがに怒りますよ?」
視線を泳がせるミルヴァス。
ミルヴァス「……すまん」
おどおどとフロースの方を見るディオネア。
ディオネア「そ、そこまで……言わ……なくても……」
フロース「どうせ行くならミリカさんやルスキニア教官も誘って4人で行きましょ! 絶対楽しいです!」
豆菓子を味わうフロース。
ミルヴァス「私は遠慮しておく」
ハーブティーを飲むミルヴァス。
ミルヴァス「ところで、ルクスの懲罰訓練が無事終わった。医療部のサポートのお陰だ。ありがとう」
ディオネア「同じことがまた起きないよう気をつけていただきたいところですね。回復薬があるとはいえ、あの子の体には負担が大きかったはずですから」
フロース「でも、訓練のお陰であの子は体をしっかり使えるようになったし、それが自信になってかなり前向きになれたみたいです。そこは結果オーライと思いますけど」
ディオネア「いや、本来ならもっと経過を見ながら慎重に取り組むべきだったと僕は思うよ。いきなりが懲罰訓練というのは荒療治が過ぎるよ」
フロース「慎重も大事ですけど、慎重なばかりだと前に進むのが難しくなる時だってあるんじゃないですか? 革新的な何かが治療にプラスに働くのであれば、全然取り入れてもいいと思います」
ディオネア「それは軽率だよ。医療は慎重であるべきだ」
フロース「軽率って……経過観察ばかりでずっと現状維持みたいな状態の方がよっぽどおかしいと思いますけど」
ミルヴァス「待て、2人とも一旦落ち着くんだ」
ミルヴァス「ここでまで喧嘩をするんじゃない」
『喧嘩なんてしてませんから!』と異口同音。
気まずげに頭を搔くミルヴァス。
ミルヴァス「……紛いなりにも、同じクラスだっただろう。普通に接することは出来ないのか?」
フロース「私は普通ですよ。何かおかしいところがありますか?」
ミルヴァス「ある。彼への態度が良くない」
フロース「それ言ったらディオネア先生の教官に対する態度もどうなんですか? 明らかに不自然なのはそっちだと思いますけど?」
ディオネア「ぼ、僕は別に……」
バチンッと電流の流れる音。
椅子から飛び上がる3人。
フロース「キャアッ!」
ディオネア「いっっっっっ!」
ミルヴァス「っ……!!」
【この部屋で喧嘩はご法度です。全員ペナルティです】
ミルヴァス「ペナル……ティ……。初めてだ……」
フロース「いったー……酷いです!」
ディオネア「っててて……何なんですか!」
【今日は終わりです。帰ってください】
足元がパカッと開き、落とされる3人。
フロース「え? え? 嘘! いやぁーーー!」
ディオネア「ちょっ! あああああ!」
ミルヴァス(こういうパターンもあるのか……)
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毎週 火曜日 21:00 予定は変更される可能性があります
Lumina Linea~木漏れ日の日常譚~ 彩華じゅん @jun_ayaka
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