第18話 湯けむりとか好きですか?
山奥らしい場所にあるゴツゴツとした岩場
その一角に温泉が湧いており、数人の影が浸かっている
コチレド「っあーーー……。染みるねぇ……」
ルスキニア「やだわー、年寄りみたか声出さんでな」
コチレド「年寄りが年寄りして何が悪いんだい」
サビア「自分で自分を年寄りとか言っちゃダメよー。若いつもりでいないと!」
アズキ「まあ……一理ありますね」
4人の服は何故だか焦げ茶色の湯着に代わっている
湯の中でだらりと岩に身を預ける3人を、温泉のほとりに座ったアズキが見下ろしている
コチレド「ところで、この温泉は一体何なんだい? あたしゃ小屋にものを取りに来ただけだったんだけどねえ」
サビア「んー、多分、任務の一環?」
コチレド「任務ぅ? そんなん出ろなんて言われたことないけどねぇ。第一、私もアンタも一般人じゃないか」
サビア「そうなんだけどね? なんかこの任務だけは呼ばれるのよ。この間なんてお茶しながらおしゃべりしろって言われたわ」
アズキ「あなたも呼ばれていたのですね。意外です」
ルスキニア「師長は何でそげんとこ座っちょるん? こっち来て入ったらよかやない」
アズキ「水は好きではないので」
サビア「やっだ! お湯よお湯! お入りになりなさいよ気持ちいいから!」
コチレド「湯着のままウロチョロされると見てるほうが寒いんだよ……」
アズキの足を引っ張るルスキニア
ルスキニア「ほーら、入り」
アズキ「やめてもらえます? おっと……」
抵抗するも、ずるずると湯の中に引きずり込まれるアズキ
ルスキニア「なあ? 悪くなかやろ?」
アズキ「……熱いのですが」
コチレド「そこの子も早く入ったらどうだい? そんなとこに座ってたってどうにもならないよ」
温泉に背を向け、同じ湯着姿でわなわなと震えているディオネア
ディオネア「いや……お、おかしいでしょ!」
ルスキニア「あっらぁーん? ディオネアも来ちょったんね。ラッキーじゃねえ、こげん女に囲まれて」
岩にもたれかかり、ニヤリと笑うルスキニア
ディオネア「ふ、ふざけないでください! おかしいです! おかしいですからこんなの!」
サビア「やっだ、なーに慌ててんのよ。思春期でもあるまいし!」
アズキ「思春期のようなものでしょう」
コチレド「若いねぇ」
ディオネア「からかわないでください!」
ディオネア「すみませんが、僕は退場します。いくら任務とはいえ、混浴なんて……」
歩き出そうとするディオネア
コチレド「好きにすりゃあいいさ。ただ一応言っとくけど、アンタを男と思ってるような奴はここにゃいないよ」
ぎくりと立ち止まるディオネア
アズキ「そうですね。尻の青い子供にしか見えません」
ルスキニア「そうね」
サビア「3人とも辛辣よぉ! せめて息子とか弟みたいなもんとか言ってあげなさいよ!」
ルスキニア「どっちかっちゅうと……犬?」
コチレド「あー、分かるかもね。ちっさくて懐かないやつだろ。キャンキャンうるさい」
アズキ「それですそれ」
ディオネア「例えが最悪です!」
ルスキニア「まあ何でもよか。早く入り。風邪引いてしまうでね」
ディオネア「ちょっと……! ああっ!」
ルスキニアに湯着の裾を引かれ、勢い余ってザバーン!と湯に落下するディオネア
ルスキニア「あごめーん」
頭を振ってかかった湯を払うアズキ
アズキ「飛沫をかけないでください。不快です」
コチレド「全くアンタは何でいつもそんなに加減が出来ないんだい……」
サビア「大丈夫!?」
ディオネア「何っなんですか!?」
湯から顔を出すディオネア
癖の強い髪が顔にべったりと貼りつき、別人のようになっている
ベルの音
岩の表面に【フリートークしてください】の文字が浮かび上がる
ルスキニア「フリートークじゃて。何話す?」
アズキ「このメンバーで話すような話題は持っていませんね」
コチレド「何だっていいんじゃないかい? そういえば今夜は霜が降りるそうだよ」
サビア「やだー、毛布1枚増やした方がいいかしら」
アズキ「あなたの場合冷えは大敵ですからね。毛布と言わず掛け布団から増やすべきです」
ルスキニア「てか、そもそもお湯に入んのは大丈夫なん?」
ディオネア「大丈夫だから入っているのでは? 許可も降りているのですよね?」
サビア「そりゃもう。うちでもバンバンお風呂入りまくってるし」
コチレド「大分、動けるようになったんじゃないかい?」
サビア「おかげさまでね。日常生活には支障ないくらいにはなったわ」
ディオネア「……痛みは、ありますよね。」
サビア「まあね。でも、これはもう付き合っていくしかないからさぁ」
アズキ「……ですね」
アズキ「むしろ、よくここまで回復したものだと感心しますね」
サビア「あら? 師長が直々に褒めてくださるなんて。今夜は霰でも降るのかしら」
アズキ「撤回します」
アズキの背をバシバシ叩くサビア
サビア「もー! 照れなくていいのに! 可愛いんだから!」
ルスキニア「タハッ! 可愛いて師長!」
コチレド「これのどこが可愛いんだい……」
アズキ「本当に、どこを見て言っているのやら」
ルスキニア「話ちょっと変わるんじゃけどさ、何で師長はコチレドさんにそげんビッタリくっついちょるん?」
ハッとしたようにコチレドから身を離すアズキ
アズキ「失礼。無意識でした」
アズキ「老年期の人間は無駄な動きが少ないので、つい近寄りすぎてしまいます」
サビア「猫ねぇ」
ディオネア「猫ですね」
ルスキニア「猫やん」
アズキ「『又』を忘れないでいただきたいです」
耳をピンと動かすアズキ
コチレド「年寄りが好きなら総帥にでも擦り寄ればいいさ。私なんかよりよっぽど年寄りだよ」
アズキ「あの方はそういう枠ではないでしょう」
サビア「総帥ねえ……あたしは好きよ。優しいし、ウィザードと一般人を差別しないしね!」
ルスキニア「そうね。一回くらい一緒に酒でも飲んでみたいわ」
ディオネア「無理でしょう……まして『あなた方』とは……」
ルスキニア「ん? どーゆー意味?」
ルスキニアの目が細められる
アズキ「ディオネア、そろそろ仲直りは出来ましたか?」
サビア「あ、そうそうそれ気になってた」
コチレド「何だい、痴話喧嘩でもしたのかい? 」
ディオネア「嫌な言い方をしないでください!」
ディオネア「別に……喧嘩などでは……」
ルスキニア「なにぃ? 地雷でも踏んだ?」
湯の中で足を組むルスキニア
ディオネア「関係ないでしょう?」
コチレド「その言い方は何だい。紛いなりにも恩師だろう?」
ルスキニア「んま、言うてもたった数ヶ月じゃ。『私ら』がそいで恩師っちゅうんはおこがましかよ。な? ディオネア」
ディオネア「……そう、ですね」
ルスキニア「地雷っちゅうんもさ、そのことと違うん?」
ルスキニア「知っとるよ? あん子に何回も忠告しとるんじゃろ?」
言葉に詰まるディオネア
アズキ「本人はかなり嫌がっていましたよ。人が嫌がることはしないのが人間のマナーというものでは?」
サビア「ああ、だからこの間のおしゃべり任務の時も……」
ディオネア「……ほっといてください」
ルスキニア「もちろんほっといちゃるよ。でも、あん子がこれ以上傷付くんなら、そうもいかんくなるね」
しんとする空気に、ふいにくしゃみの音が響く
コチレド「ん? 誰かいるのかい?」
アズキ「くしゃみ……でしたね」
ルスキニア「私らだけじゃなかったんね?」
サビア「誰ー? 一緒におしゃべりしましょうよ!」
チャイムの音
岩肌に【たくさん話してくれてありがとう。また来てね】の文字が浮かび上がる
サビア「えー! あたしたちしか話してないわよ!?」
コチレド「何がしたいんだい。人を勝手に風呂に入れて」
アズキ「まあ……悪くはなかったです」
全員が湯から上がった瞬間、湯着がいつもの服に変わる
ルスキニア「おー! よかね、この魔法! 便利!」
コチレド「湯冷めしなくて済みそうだ」
ディオネア「誰の魔法なんでしょうか……」
サビア「気にしたら負けよ! 行きましょ!」
アズキ「ディオネア、戻ったら打ち合わせの続きをしましょうか」
ディオネア「は、はい! よろしくお願いします!」
4人が去った岩場
大きな岩の影に、もう一つ温泉が湧いている
湯につかっている誰かと、ほとりで三角座りしている誰かの影
???「行ったね」
ミルヴァス「……ですね」
温泉に背を向け、鼻をすするミルヴァス
???「よかったの? 混ざらなくて」
ミルヴァス「声をかけるタイミングを……見失ってしまって……」
薄い湯着を掻き合わせ、寒そうに二の腕をさするミルヴァス
???「ははっ、確かに」
???「でも、久しぶりに2人で話せて楽しかったよ。機会があれば、またね」
ミルヴァス「そうですね」
ザバッと湯から立ち上がる誰か
???「私らも行こうか」
ミルヴァス「ええ」
くしゃみをするミルヴァス
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