第2話 突然の来訪者
先日の一件以降、科特局にはしばしの平穏が訪れていた。
しかし、巨大怪獣の襲来と巨人の戦闘は俗に霞ヶ浦事件と呼ばれ、科特局内に言い知れぬ危惧を残していた。
「もし、次にあのような巨大怪獣が現れた時、また巨人が来てくれるとは限らないし、まずあの巨人が我々の味方と決まった訳では無い」
その危惧を一番に感じていたのは、当然キャップを務めるムラノであった。
拭えない不安を流すようにコーヒーをあおるが、一方でイデミツは少年、否、恋する乙女のように興奮冷めやらぬという感じであった。
「キャップ、巨人じゃなくてアルティメットマンなのです、アルティメットマン。そして、あれはどう考えたって正義の超人なのです!」
「いやねイデミツちゃん?キャップの言うことには一理あるんじゃないかい。立派な科学者がそんな夢見がちでええんか?」
アラタの言葉を聞き、イデミツは相も変わらず無い胸をむんと張って宣言するように言った。
「いいですか、アラタさん。科学者は夢を現実にするために存在するのです。夢を否定するのは大人の悪しき癖なのです」
もうジェットハイパー乗せてあげないのですふん!、ごめんごめん、と二人がわちゃわちゃしている横で、ヒロセは黙って会話を聞いていた。
するとユリサキが、ぱんぱんと手を叩き話をまとめた。
「まぁ、なんにしても対策を練るに越したことはないでしょ、キャップ。事実おっきい怪獣が出ちゃったわけだし。仮に宇宙人が正義の味方だとしても、いつも来てくれるわけじゃないんだからね」
「そうだな、何かいい案はないか」
いざ具体的な話になると、すぐに手を上げる猛者はなかなかいないのが話し合いである。
みんなでぬんぬん唸りながらあーでもないこーでもないと頑張っていると、あっと何か閃いたようにアラタが手を挙げた。
「そう言えばよ、前に事案の時に捕獲したちっちゃい怪獣がいたじゃん。あれとか使えないんかね」
「アラタさん、人の心をなくしましたか。いくら小型怪獣とはいえ、もはや彼らは我々の家族同然なのです。ファミリーなのです。それなのに戦いに出すなんて」
「あの子たち、ここに来て信じられないくらい人に懐いちゃったわよね。ジョンスンとタタラーとリュウガちゃん」
「いいじゃないか。エサ代で結構予算食ってるからな、ひと仕事頼んでもバチは当たらないはずだ」
「確かにあの子たち最近太り気味よね。あんな狭いところに入れられてたらちょっと可哀想な気もするし」
頼みの綱のユリサキがそういうので反論しづらくなったイデミツ。
「だな。解放させるためにもなんかいい案はないもんかね」
半ば八つ当たり気味にイデミツは何か言ってやってくださいよとヒロセに話を振った。
「そう言われても。じゃあ彼らを巨大化させられないですか?巨大化だけじゃなく縮小も出来れば、狭いスペースでストレスなく過ごせるようになるのでは?エサ代も浮くし」
あまりにも突拍子もない案に科特局員たちはぽかんと口を開け放ってしまった。
「いや、巨大化縮小化ってあんたSFじゃないんだから。ねぇ、イデミツさn......」
とアラタがイデミツを見ると「巨大化か、前に作りかけで放置した細胞増縮理論にアルファ光子線とj-782システムを応用すれば云々」とブツブツ呟いていた。
「おい、イデミツ。まさか、もしかして、いけるのか」
「いや、正直できる、かも、なのです」
「本当に!?実用レベルなの!?」
「ジェットハイパーには及びませんがそれでも割とデータを取ってあるのです......」
それを聞いたイデミツ以外の全員が目をガっと見開いたあと、全身全霊の期待を込めた目線をイデミツに刺した。
「や、やめてください!そんな目で見ないで欲しいのです!」
しかし彼らの輝く視線はますます爛々とするばかりである。
そしてついに人類守護の大義と同僚たちの圧に屈したイデミツは、「わかったのです、わたしの負けなのです!」と首を縦に振った。
ここは科学特捜局本部地下50階秘匿管理室。
科特局がこれまで収拾してきた証拠品や資料、遺留物などを非公開で管理している、国家最大の遺産とこ言える重要施設である。
そしてその保管物の中には、なんと駆除せずに管理下に置いた大型生物もいるのだ。
大型とは言ってもせいぜい象やサイ程度なのだが、未確認かつ放置するには強力もしくは凶暴すぎる生物達で、現在三体ほど科特局の管理下に置かれている。
イデミツはIDカードと網膜による認証を通過し、今この地下空間にいる。
三つある飼育室の内、一番手前にあるルームの重厚なドアがゴゴゴと音を鳴らし開いた。。
イデミツ始め科特局員達は暇ができると、よくここに遊びに来ていて、三体の面倒を見ている。
そういうわけで、ここに来てから三体ともかなり人懐っこくなっていた。
「ジョンスン!おいで!」
呼びかけると、サイに似た茶色の四脚獣がのそのそやってきた。
背中には火山のような器官があり、ぷしゅぷしゅと火をたまに吹くのだ。
火炎獣ジョンスンは浅間山付近で岩石に擬態して生活していた大型生物である。
登山客の岩が動いているという通報を受け、存在がわかったのだが、特に目立った被害はなく、科特局が保護することになった。
ジョンスンはイデミツに配慮して火力を弱めると、頭を差し出した。
甘えているのである。
当然イデミツは愛を込めて全力でなでなでなでなでした。
ジョンスンはなんだか気持ちよさそうに少し笑っているように見える。
「じょんすーん。ちょっとお願いがあるのです」
イデミツはちゃんとジョンスンの目を見て言い始めた。
ジョンスンが如何に屈強な生き物とはいえ、大切な友人に戦場へ出ろというのは、やはり気が進まない。
しかし炎の獣は無論情にも厚く、科特局の要請を快く受け入れてくれた。
こうなればイデミツはジョンスンが全力を発揮できる環境を整えるのに余念を持ち込む意味は無い。
「ありがとう、じょんすん」
彼女はすぐに自分の研究室に戻り、自らの仕事を始めた。
それから数日、事件はユリサキの報告から始まった。
「キャップ、未確認飛行物体を監視衛星が補足。巨大な何かが地球に向かっているっぽいわ」
「映像を出せ」
作戦司令室の大型モニターにリアルタイムの宇宙空間が映し出された。
「なんじゃこりゃ、大きさがデタラメじゃねぇかよ」
それはまるで空母と戦艦を足して割ったような近未来的デザインの宇宙船が地球に向かってゆっくりと進んでいる様子を映していた。
音もなく衛星の目の前を通過するそれは、圧倒的な威圧感を放ち、嫌な予感を否応がなしにさせられてしまう。
「ん、これは、通信です。例の船からコンタクトがあるわ」
「どういうんだ」
「我々は第四太陽系地球からはるばるやってきた第四人類である。第九太陽系地球の人類である君たちにぜひ挨拶をしたい。これこのままわたしたちの言語で来たんだけど」
それは我々の情報が既に徹底的に調べあげられているということであり、ムラノはさすがに恐怖を覚えた。
「警戒を怠るな。しかし彼らの友好性を無下にしてもいかん。とりあえず第二種警戒態勢で、歓迎ムードを出していこう。茨城空港を明日封鎖してもらえるか聞いてみてくれ。そこに一時的に着陸してもらう。諸々の手はずを整えるために第四人類さんたちにはしばし時間をくれるよう返事できるか」
「了解よ」
「了解よ、で毎回全部できちゃうユリサキさんマジですごいよな」
「あら、アラタくんにだってできるわ。一度お留守番してみる?」
アラタはひぃと声をあげた。
「でもさ、なんかすごい淡々と事が進んでいくけどよ、これってめちゃくちゃすごいことなんじゃね。地球外の知的生命体との初コンタクトだったわけだろ」
あぁ確かにと一同は淡白な納得をした。
「普段担当する事件も割と非日常的ですし、先日宇宙生物とゴリゴリに遭遇しちゃいましたし、こうもなりますよ」
と一応ヒロセが空気を読んで言ってみたものの、案の定「だよね〜」という無味無臭な感じであった。
結婚して数年の倦怠期夫婦のそれを感じざるを得ない。
そして明くる日、茨城空港に着陸した第四人類と科特局の接触が実現した。
当然多くのマスコミが押し寄せ、世界中の視線がそこに注がれることとなった。
ネゴシエーションを担当することになったムラノ、アラタ、ヒロセの三名は相変わらず緊張の素振りも見せず、超弩級航宙戦艦目指してだだっ広い滑走路を行った。
戦艦の真下まで来た時、その巨大な金属塊から音声が発せられた。
その声は空気を伝わって来るというより、直接脳内に話しかけるような、なんとも不快な感覚であった。
「第九人類の代表者諸君、ようこそわが戦艦トルネイダーへ。これより艦内へテレポートするので、くれぐれも注意するように」
「注意するようにってどう注意す」
アラタが言い終わらないうちに、彼らは謎の光を浴びた直後、一瞬のうちに消え去ってしまった。
気が付くと、三人はいかにも未来的デザインの空間に立っていた。
真っ白の空間がパネル状に金属で仕切られていて、二十畳程の空間を形成している。
無機質、無色。
そしてそこには同じく三人の第四人類が立っていた。
外見はさほど人類と変わらないが、軍服のようなものにマントを羽織っている。
「トルネイダーへようこそ。広大な銀河の中に同族を見つける事ができる喜びを分かち合あおう」
「こちらこそ、ようこそ我々の地球へ。君たちの言うところの我々第九人類は初めて他惑星の人類と接触したので、大変喜んでいるところです」
ムラノと第四人類のリーダーは笑顔で固く握手をした。
「私の名はグリンデル。011宇宙植民部隊の隊長を務めている」
「申し遅れました、防衛省直轄科学特捜局の局長であるムラノです」まで言ってしまった後に、ムラノはグリンデルの肩書きの異常を気付き、口角が上がっていた口を真一文字に結んだ。
「すみません、宇宙植民部隊とおっしゃいましたか?」
「そうだが」
「今回地球へいらっしゃった目的は」
「もちろん植民だ。我々の地球は人口爆発で土地が逼迫している。もちろんタダでとは言わんから」
ムラノはアラタ、ヒロセと顔を合わせた。
難しい顔をしたアラタが地球の事情をグリンデルに説明し始めた。
「実は俺らの地球も人口が急激に増えていて、土地はあるんだけどちょっと過酷な環境なところしかないんだわ」
すると第四人類の面々は大きく笑い、そしてこう言った。
「問題ない。我々が君たちの人口を減らしてあげよう」
ムラノが感じていた不吉な予感は的中した。
「ご覧になればわかると思うが、君たちと我々では発展の仕方が圧倒的に違う。どう考えても我々の方が強い。弱肉強食という自然の摂理に従うとするならば、君たちは我々の食い物に過ぎん。しかしまぁせっかくの同族を滅ぼすのは忍びないので、我々は一つの譲歩をすることにした」
満面の笑みでゆっくりこちらに来るグリンデルは、ムラノ目の前まで来て囁くように言った。
「優秀な人材は我々の奴隷として生きることを認めよう」
ヒロセがベルトの銃へ手を伸ばそうとした瞬間、グリンデルはヒロセを強く睨んだ。
心で負けてはいけない、心だけは。
ヒロセはまっすぐグリンデルを見て問うた。
「なぜ共存の道がないんですか、主従関係出なくても、対等に友好な世界を目指しませんか」
するとグリンデルはヒロセの目の奥を、細胞に刻み込まれた人類の歴史を覗き見るようにして言い始めた。
「まるで我々が悪者のような言いぶりだが、君たちだってそういう歴史の繰り返しじゃないか、同族同士で!しかも君たちはそれを表面上ではいけないことだとは言いながら、行動ではそれを示しきれていない」
憐れむような表情のグリンデルはヒロセに近づいた。
「苦しくないか?心の底に自分を押し込めて、平和を取り繕うのは。我々の支配下に入れば苦しむ必要はない。全てが自由だ。自然の摂理に従い、強いものに弱いものが従う。ただそれだけの話」
アラタは怒りの感情が心を激しく掻き乱したが、同時にグリンデルの言い分に少し納得しかけて、爪が皮膚に食い込むほど強く拳を握った。
アラタが右腕を振りかぶろうとしたのを察したヒロセは、人が変わったように強かな口調で、グリンデルに言葉を返した。
「貴様らと彼らでは平和の重要性が違う。いかに発展しようと血の匂いを忘れられない蛮族と、純粋な笑顔を守りたいと願う我々では文明の差はあれど、志で負けているとは思えん。我々は断固として貴様の要求を拒否する!」
威風堂々、第九人類の誇りを凛と見せつけたヒロセに、ムラノは強く頷き、アラタは怒りを忘れ若干ビビっていた。
「お、おいヒロセくん、なんかキャラ違くないか。きみもっとこうビビりキャラだったろ」
「こないだの墜落で頭打ちました」
毅然と言い放つヒロセにアラタは「えぇぇ......」と声を漏らした。
グリンデルは特に反応を見せず、やれやれと言ったふうに元の位置へ戻った。
「交渉決裂のようだ。まぁ手を引くつもりは無いので、このまま植民を開始する。まずはこの島国からだ。トルネイロイド起動!!!」
ゴゴゴッという胸に響く轟音とともに船が大きく揺れ始めた。
「まずい!イデミツ、ユリサキ聞こえるか、直ちにジェットハイパー出撃!!戦艦を沈めろ!」
「「了解!!!」」
霞ヶ浦の湖底カタパルトからスクランブル発進したジェットハイパーが新装備遠隔操作型貫通ミサイルTPC500を携えてやって来たのだが、
イデミツとユリサキが捉えたのは戦艦ではなく、巨大な人型ロボットであった。
「キャップ、わたしたちが戦うのはもしかしてあの大きいロボットなの!?」
「すごい技術力なのです!欲しいのです!」
「冗談言ってる場合か!侵略だ!我々は艦の中で状況を把握できていないが、とにかくそのロボを行動不能にしろ。あと防衛軍に協力要請だ!」
どうやら友好な来訪者ではなかったらしいことを察した二人は、防衛軍に救援要請を出し、TPC500での攻撃を開始した。
遠隔操作型貫通ミサイルTPC500とは、言うなれば遠隔操作で何度も攻撃可能な非爆発性刺突兵器である。
先端に付いているドリルで攻撃目標の表面に穴を開けまくるというとんでも発想の物理パワー全開サディスティックなシロモノだ。
かくして、第四人類と第九人類の戦争は突然に始まった。
大きさの割に俊敏なトルネイロイドは防衛軍の通常兵器は通用せずかなり押され気味であり、
また縦横無尽に飛び回るTPC500を避けることはできなかったが、表面に多少の傷がつく程度で致命的な攻撃には至らない。
「大きいものは強いなんて、どこのゲッター世界の話なのよ!」
「あんな巨大なものどうやって動かしてるんでしょうか、超気になるのです」
「もう、そんなこと言ってないで対策練ってよ!」
そんなこと言われても、と思いつつイデミツは現状できる限りのことはしようと、必死にトルネイロイドを観察した。
「多分装甲は対して強くないのです、思っているよりですが。なのでTPC500でついた傷を集中攻撃しましょう」
「了解よ」
防衛軍にもそのことを伝達し、まずは右足の破壊を共通主目的に設定した。
「君たちの仲間は大変優秀だ。ぜひうちの奴隷として欲しい。これは嘘じゃないぞ、喜んでくれ」
グリンデルの不気味なまでに真っ直ぐな言い方に、ムラノはゾッとした。
嫌な汗が背中を伝い、濡れたシャツがびっとりとへばりつく。
「さぁ、君たちはこっちだ」
気が付くと、三人の周りには第四人類兵士が大勢集まって取り囲んでいた。
その手には見たことのない武器がギリギリと握られている。
「何をするつもりだってんだ!」
アラタの叫びに一笑を付して、まだ分からないのかさすがは第九人類だな、と答えた。
「少なくとも君たちは優秀な部類だと判断したので、これから切り刻んで、君たちをベースにしたクローンを量産するだけだ」
彼らのようにね、と取り囲む兵士達を顎で指す。
「やはり倫理観が壊れている、キサマらはヒトの成りをしているだけで人類ではない!」
ムラノは威勢よく反発したものの、完全に万事休すといった具合の状況に冷や汗が止まらない。
ジリジリとにじり寄る兵士ら。
背中を合わせ徐々に身を寄せ合うようにして兵士を睨みつけるムラノ、アラタ、ヒロセ。
その時、ヒロセの眼が眩く煌めく。
一瞬で場を真っ白に照らした閃光に、グリンデルはじめ第四人類たちは目をしかめる。
フラッシュが収まり、気が付くと科特局員たちは跡形もなくその姿を消していた。
「なんだ!何が起きた!」
辺りを見回しながら、グリンデルは咆哮した。
科特局と防衛軍の猛攻が始まった。
TPC500の傷はさほど深くはないが、少しずつ傷は深まっていき、防衛軍の右脚集中攻撃も実際のダメージ以上の人類の気迫を乗せて想定以上の効果を見せていた。
しかし致命的な損傷もなく、少しずつ増えるダメージに少ない希望を見出して攻撃は続けるものの、出口の見えない攻防は既に10分が経過した。
「現状これしか手段がないけれど、さすがに焦れったくなるわね」
「臥薪嘗胆なのですっ。諦めることだけはしないのです!」
トルネイロイドのビームや踏みつけで防衛軍は多くの犠牲を出し、科特局も疲労の色を見ている。
それゆえである。
ユリサキの巧みな操縦にも関わらず、トルネイロイドのビーム攻撃が右翼に直撃してしまう。
火を噴きながら急激にバランスを崩す機体。
コックピットは警報が鳴り響き、機内に煙が入り始める。
「脱出不能!胴体着陸しかないわ!どこでもいいからしっかり掴まって」
「神様仏様ジョンスン様ぁ!!!お助けをなのです!!!」
危機のジェットハイパーなど意に介さないかのように向きを市街地へ向けるトルネイロイド。
人類奴隷化のための大きい一歩が確実に踏み締められる。
防衛軍の面々も、テレビで見ていた民間人も絶望の表情のになる中、一筋の光がトルネイロイドから飛び出した。
その光は真っ直ぐにジェットハイパーへ向かって飛翔し、たちまちに包み込んでしまう。
滑走路の離れたところにジェットハイパーとムラノ、アラタを無事に届けた赤い光は急激にその輝きを増す。
多くの人々がその光景を唖然と見ている中、またもやそれは起こった。
大きく膨れ上がった光が人の形を成したのだ。
再び人類の前に姿を現した巨人、アルティメットマン。
「あぁあ!アルティメットマンなのです!!!」
「また来たんかあいつ!ナイスタイミングじゃん!!!」
「あれが、アルティメットマンなの......」
ムラノは一瞬アルティメットマンの出現に喜んだ自分に気づき、すぐ局長の顔に戻した。
依然爆進を続けるトルネイロイドへクイッと目を向けた巨人は、勢いよく敵に向かってかけ始めた。
太陽光の反射か、内より湧き出るものか、光り輝く巨人が地響き立てながら走る。
民衆は最早誰一人状況を理解できていない。
テレビの中継に齧り付く者、スマホの画面に釘付けになる者、空港の近くで腰を抜かす傍観者達。
アルティメットマンはそんなものなど視界にない。
目指すは市民を狙う虐殺兵器である。
まだ距離があるもののアルティメットマンは空高く飛び上がり、全身全霊のきりもみキックをトルネイロイドに叩き込んだ。
背後から急襲された虐殺ロボは思い切り吹き飛ばされるも、ジェット噴射ですぐさま体勢を整える。
グリンデルは目前に現れた巨人を目にして、驚愕した。
「あれは......まさか!?」
しかしグリンデルの思考の整理もつかぬまま、アルティメットマンの熾烈な攻撃が始まった。
アルティメットマンが拳を握りしめると、連動して腕にも筋肉のスジが恐ろしいほど浮き上がる。
アルティメットマンが足を踏ん張ると、地が割れ抉れる。
その打撃による衝撃は、遠くで見ている科特局員達にも響く。
トルネイロイドの右肘から先がもげ、膝が叩き折られる。
「緊急離脱だ!撤退して作戦を練り直す!聞いていないぞこんな!」
グリンデルの指令により、全力のジェット噴射で空へ飛び立つトルネイロイド。
しかしアルティメットマンがそれを見逃すわけがなく、ひとっ飛びでかなりの高度へ達したトルネイロイドへ追いつく。
モニター越しにアルティメットマンと対面したグリンデルは、全てが間違っていたことを悟った。
宗教を捨て科学技術と歪な自然の摂理に執着した結果なのか、ただ第四人類の運が悪かったのか、それともグリンデル自身の問題だったのか。
この神々しい存在の前にそんな逡巡は意味をなさなかった。
空を蹴り、少し距離を取った光の巨人はアルティメットバスターのエネルギーを右腕に溜める。
そのまま急スピードで無限にも思える加速をつけたままトルネイロイドに突進し、光り輝く右腕で鋼鉄の巨体を貫いた。
トルネイロイドはそのまま反応を失い、重力のままに地へ堕ちていった。
帰りのジェットハイパーの中は、安堵と悲しみの雰囲気に包まれていた。
「アルティメットマンってすごいのね。わたしたちじゃ歯が立たなかったあのでっかいロボットをあんなに簡単に倒しちゃうんだから」
「わたしの発明も少しは役に立ててたのです」
そうね、と微笑むユリサキ。
アラタはいつになく神妙な面持ちだった。
「せっかくの人類同士、なんで仲良くできないのかね。こんな機会そうそうねぇだろ」
ムラノはちらっとアラタの様子を見て、言葉を紡いだ。
「どうやっても分かり合えない人はこの地球にだってゴマンといる。住む星が違うならなおさらだ。こういうのは運の問題だ。いづれまた機会が回ってくる。我々にできるのは、門を開けておくことだけだ。受け入れる準備、迎え撃つ準備を整えてな」
アラタは黙って頷いた。
「でもキャップ、あいつらに『倫理観が壊れてる!』って全否定だったじゃん」
「お前そういうことは胸にしまっておくもんだばかちん」
暗いものを吹き飛ばすように二人は笑い合い、なになに何話してるの、わたしも入れろです、とユリサキイデミツが割り込む。
ヒロセは後ろの席で、それらのやり取りを眺めていた。
窓の外を眺めると、昼過ぎの太陽が霞ヶ浦の水面に反射してキラキラと輝いていた。
その湖面を潜り、さらにその湖底を見ると、ジェットハイパーの射出口の巨大な入口が上手く岩陰に隠れている。
しかし僅かにある微細な隙間を通って、誰にも気づかれず青い粒子が中に侵入していく。
アルティメットマン 赤坂大納言 @amuro78axis
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