飛べない鳥

@nanakamadomomo

飛び降り

もう何回ここに立ったのか覚えていない。

冷たい風が体温を奪っていく。白い息が出てスカートの下の太股は鳥肌が立ち、体が小刻みに震えている。

寒くて凍え死にそうだ。こんな寒い中外に出るのは意味がある。意味があるから私は凍え死にそうになりながらもここに立っている 

その意味とは私の人生を今日で終わらせる為だ。何回、いや、何十回もここに立ったが決心がつかなくて今日まで生きてきた。

 でも、今日やっと決心がついた。いつも決心がついてここに立つが飛びたてないまま終わるの繰り返しだったが。

 今日は違う。今日こそ私は飛び立つんだ。下を見ると草と木だけであとは何もない。

 殺風景な地面も何十回も見てきた。軽く深呼吸をして目を瞑る。そして両手を少し上げて前に重心を傾ける。

 体がフワっと軽くなり目を開けると秒速で地面に落下していった。ああ、私の人生ここで終わりだ。辺りに鈍い音が響き渡った。

 目を開けると病院のベットにいた。左足を骨折と頭に包帯が巻いてあった。主治医が様子を窺いに来たのか「意識が戻りましたね」と話しかけられた。

 「さっきお母さんがお見舞いに来たから呼んできますね」と主治医は母を呼びにいった ドアが乱暴に開けられ母が中に入ってきた。母親は鬼のように険しい顔をして有純と大声で呼び。

 「あんたなにしてんのよ、みっともない。入院費だってバカになんないのよ。はあ、もうお父さんになんて話せばいいのか」と母は額を押さえていた。

「ごめんなさい」と形だけでも謝った。本当はそんな事1ミリも思ってないけど。

「ごめんなさいってごめんで済んだら警察はいらないのよ」とまた睨んできた。

 「ああ、もう。こんな子産まなきゃ良かった」と言い母親は出ていった。あー、うるさかった。私だって産まれてきたくなかったわ。

 上半身を起こす。なんで失敗したんだろう、なんで私生きてんだろう。目頭が熱くなり涙が出そうなったので手で顔を隠した

 クソ、クソ。涙がボロボロ出てきた。鼻水も出てきたのでティッシュを取ろうと手を離すと目の前に女の子が立っていた。

 自分と同い年くらいで長い茶髪の女の子だった。部屋を間違えたのかと思ったらこちらに近づきアメ玉を渡された。

 「私、穂乃花って言うの。よろしくね」と満面の笑みで言ってきたのでびっくりした。なんで私に話しかけるんだろう。

 「私は有純」と小さい声で言う。

「有純って言うんだ、良い名前だね」

「ありがとう」この子は暇なのだろうか。暇で暇でしょうがないから手当たり次第話しかけてるのだろうか。

 「友達の病室に行こうとしたんだけど間違えちゃったみたいで。私の部屋は隣にあるから良かったら来てね」と言い走っていってしまった。

 友達の部屋と間違えたのに私に話しかけるなんてフットワークの軽い子だなと思い。ティッシュを取り出して鼻をかむ。いつのまにか涙はとまっていた。

 穂乃花は会うと必ず話しかけてくれた。おはようとかいつもなにして暇つぶしてんの?とか今日の夕食はハンバーグだってとか一緒にオセロしようとかそんな風に話しかけてくれた。

 正直嬉しかった。家族はあれ以来お見舞いに来ないし、友達いないし。こんな風に話しかけられた事なんて今までなかったし。

 私は穂乃花と一緒に過ごすようになっていった。他愛のない話をしたり、穂乃花の友達と一緒にオセロ、トランプ、人生ゲームをして遊んだり、休憩室で一緒にテレビを見たり

していた。

 そんなありきたりな毎日が楽しかった。誰かと遊んだのなんて小学生以来だし、あの時は楽しくなかったし。

だって、一人になりたくなくて無理して遊んでただけだったし、やっぱり皆と遊んでも

一人だったし。

自殺に成功してたらこの嬉しさと楽しさを知らないまま死んでいたんだと思い知らされ生きててよかったと心底思った。

夜中に穂乃花が部屋の中に入ってきた。

「どうしたの?」

「寝れないし暇だから有純のとこ来た」と言いベットに座った。穂乃花の後ろ姿を眺めながら「あのさ」と話しかけた。

 「うん?」と穂乃花が後ろを振り返る。

「どうしたん?」

「一緒に遊んでくれてありがとう」

穂乃花は驚いた顔をして「急にどうしたの?」と言ってきたが気にせず話続ける。

 「私、ずっと一人だった。だからこんな風に人と話したり、遊んだ事なかったからさ。

穂乃花が私に話しかけてくれた時すごく嬉しかった」

穂乃花の顔を見てもう一度「ありがとう」と言った。穂乃花はこちらに近づき手を握り「なに言っての。もう私達、友達なんだからさ」と満面の笑みをしていた。

 「うん」と笑うと穂乃花に抱きつかれた。

驚いたけど私も穂乃花に抱きつくと。

「私が有純の友達第一号だね」

「第一号って」名前がおかしくて笑ってしまう。

 「ちょっと笑わないでよ」

「ごめん、ごめん」

「私は有純の友達だから」ギュっと力強く抱きしめてきて少し痛かった。

 

「そんな訳ないでしょ」

「えっ」穂乃花の顔を見ようとしたら急に眩暈がし体がグラついて倒れた。

 

 気がついたらベットで寝ていた。寝ちゃったのかなと思い起き上がろうとしたがビクともしない。

 えっ、なんで。もう一度起き上がろうとしたけど全く動かない。それどころか手も足も

首も動かなかった。

 なんで動かないの?拘束されてるの?骨折ったの?と思い必死に動かそうとしても動かなかった。

 まるで、その神経がダメになったみたいに

「目覚めましたか」と隣に主治医がいた。話しかけようとしたが声が出なかった。

 「君は、飛び降りをした後遺症で神経をダメにしてしまったんだ。体を動かすのも声を出すのもね、できなくなってしまった」

 えっ、嘘。なんで、なんで。

「君はここ1週間眠っていたんだよ、もう目覚めないんじゃないかと思っていたけど。君は運が良いね」

 ああ、じゃあ夢だったんだ。穂乃花なんて最初からいなかったんだ。全部、全部夢。

「さっきお母さんがお見舞いに来たから呼んでくるね」と言い姿を消していった。

 数分後に思いっきり乱暴にドアが開けられ

「有純」と声をかけられ。

「あんたなんか、死ねばよかったのに」と母はこちらを睨んできた。

 

本当の地獄はこれからだ。

 

   

 




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