エピローグ。。。
「……………はぁー」
煙草の煙と共に、深いため息を吐き出した。
時刻は昼時、金が無いから飴玉を口に含み空腹を麻痺させた。
原稿用紙は空白のまま、動かないペンを置き、濁った瞳に映る灰色の空をぼんやりと睨み付けた。
今日も変わらない……つまらない日常が待っている。
毎日変わらない仕事、変化しない交友関係、変わり映えしない食事、生まれない女性関係、何も産み出せない空っぽの頭──いや、心の何処かで変わらないことに安堵している、毎日同じルーティーンしかできない中年(おっさん)の俺。
波澄阿修羅、37歳、独身。
童貞、友人なし、安月給、ボロアパート暮らし、家族関係劣悪、勿論……彼女なし。
どうしてこうなった。
社会のせい、世界のせい、差別のせい、不平等のせいに違いない。
産まれた時から不利なスタートラインに立たされて。
自身が無い、元気が無い、覇気が無いことが悪しとされる学校生活を経て。
学歴が無い、手に職が無い、取り柄が無いと生きてすらいけない社会に放り出された。
世の中、不平等すぎる。
「………………ま、そんな劇的な奇跡なんて俺の人生に起こるわけがないな………………くそ、虚しくなってきたから一発抜………」
──『え、あ、ちょっ……ちょっと待ってくださいっ!!』
「うわあああっ!!!!? だ、誰だっ!!?」
ズボンを下ろそうとしたその時、耳元でいきなり声がして恐怖のあまりに跳び上がり……辺りを見回す。
──『ご……ごめんなさいっ。タイムトラベルしていきなりそんな場面のおじさんに乗り移るなんて思わなくって……』
幻聴じゃない! 確かに頭の中に声がする!?
可愛いらしい女の子の声……もしかして遂に脳がイカれたのか!?
──『あ、説明しないとこの世界線のおじさんにとっては何が何だかですよね? 私は違う世界線のおじさん……名前を波澄阿修凪って言います』
世界線ってなんだよ!説明されても何一つわかんねぇよ! シュ○ゲとかy○-noとかのあれか!?
──『………さすがおじさん……どの世界に行っても言う事は同じなんですね』
え? 脳内で会話できるの!?(ファミチキください)みたいな!?
ていうか……もしかして、美少女生活を望んで転生した俺の身体に元々いた人格で……様々な経緯を経て今度は逆に中年の俺に乗り移ってきたみたいなそんな感じ!?
──『察し良すぎですよ!? ほぼ当たってますし!! どうしたらそんな推察力が身に付くんですか!!……だけど、一つだけ。絶対に当てられないサプライズも用意してあるんです…………玄関の扉、開けてもらえますか?』
心の女の子の言っていることはなにもかもが意味不明で理解不能で………だけど、どうしても抗(あらが)えないような魅力を孕んでいることだけは確かだった。
導かれるままに俺は玄関扉を開け、射し込む光の中に立っていたのは───とてつもない、とんでもない、途方もないような美少女だった。
「………あは、実体も持てるようになったんです……神様のチカラって何でもありなんですね。でも。そんなことはどうでも良くて──」
美少女が言い終わるより先に、俺が思考するよりも先に………彼女の柔らかい身体は、俺の不摂生な体と重なった。
超絶いい匂い、サラサラの髪、豊満な胸、柔らかな肌触り………たとえるならば全身高級シルクに包まれた最高級のマシュマロ。
そんな肢体の彼女がいきなり抱き付いてきたのである。
え、何これ? これが噂のTOLOVEるですか?
なろう小説の冒頭?【中年のおっさん、電波美少女に求愛される】とかそんなタイトルの。
困惑している俺に更に追い討ちをかけるように、彼女は無情にも大きくなったマイ息子(son)を、真っ赤になりながら遠慮がちに指で撫でた。
「………触れるの……神様の国以来ですね……………」
なにこの子!? サキュバスの化身なの!?
もしかしたら美人局(びじんきょく)とかいうやつか!? こんな金の無い中年のところに来てなんのつもりだ──などと思考の迷路を彷徨(さまよ)っていると彼女は俺の唇を唇で長く塞いだのちに──目一杯の笑顔で告げた。
「………今度は、私が、おじさんを救う番ですよ」
こうして──おっさんが違う世界の自分に出会って人生がくっそチョロくなっていくのはまた別のお話。
【おっさんだった俺が美少女になって高校生からやり直してみたら人生クッソチョロかった~あの時イジめてきた奴がお近づきになりたいらしいけど気持ち悪いから消えなさい~】 〈おわり〉
おっさんだった俺が美少女になって高校生からやり直してみたら人生クッソチョロかった~あの時イジめてきた奴がお近づきになりたいらしいけど気持ち悪いから消えなさい~ 司真 緋水銀 @kazuto0609
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