たぬきつねデー
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たぬきつねデー
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スーパーが掲げる5倍デー。
映画館の目玉の一つレディースデー。
高齢者に優しいシニアデー。
老若男女が対象の感謝デー。
多種多様なサービスが繰り広げられている街中で、自分の希望にジャストフットしたスペシャルデーをチョイスする楽しさは格別なことだ。
だけど、ワンランク上の楽しさを味わうためには……。自ら、作り上げるのが手っ取り早いだろう。例えば、俺イチオシの「たぬきつねデー」のように……。
***
「え? お兄、私は食べないよ?」
「案ずるな妹よ。これは一人分だ」
「は??? お兄、赤いきつねと緑のたぬき一人で全部食べるの? てか、一つずつ作ればいいのに……。別に私、取ったりしないのに」
冬の寒さ堪える夜十時。
おもむろに赤いきつねと緑のたぬきを並べてお湯を注いでいる俺の背中に向けて、我が愚妹が何とも的外れな発言を連発し続ける。
確かに兄妹という関係上、赤いきつねと緑のたぬきを一緒に食す機会はダントツで多い間柄だ。しかし、無条件で一緒に作るほど、甘やかした記憶はない。そんなことを思いつつ、我が愚妹の頓珍漢な発言を聞き流しつつ、一足先に出来上がった緑のたぬきを口にする。
「……はあ、うまい」
あっさりとしながらも、しっかり感じるそばの風味。
スタートはやはりたぬきに限る。
そんなことを思いつつ、天ぷらの食感を噛み締めながら、時計と睨めっこする。
……あと、もう少しだ。
お湯を注ぎ、緑のたぬきは完成まで三分。
対して、赤いきつねは完成まで五分。
その僅かな差が、たぬきつねリレーの開催を可能とする。
勿論、もっとじっくりゆっくり味わいたい人がいることも知っている。
だが、たぬきつねリレーをするには丁度いい。
緑のたぬきを全て平らげるまではいかない感じとか。
微妙にきつねとたぬきの間を迷い箸する感じとか。
たぬきときつねにまみれる感じとか。
……というわけで、俺が制定した俺の希望にジャストフットしたスペシャルデー「たぬきつねデー」の正体は「緑のたぬきと、赤いきつねを同時にお湯を注ぎリレー食いする」こと。そして、緑のたぬきと赤いきつねを存分に堪能するスペシャルデーでは、たぬきつねリレーによる満腹感と多幸感は元より、緑のたぬきと赤いきつねのどちらかを諦めることなく味わい尽くせる点で「たぬきつねデー」と呼称するに相応しいと言えると思うわけなのだが……。
「お兄、本当に誰も取らないから……。落ち着いて食べたら?」
どうやら凡人(愚妹)には、なかなか理解してもらえないらしい。
【Fin.】
たぬきつねデー @r_417
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