きつね男とたぬき女

空本 青大

赤VS緑

俺は暗がりの中自転車を走らせていた。

腕時計をちらっと見ると20時に差し掛かろうとしている。

目の前に丘が現れ、上に見える公園へと急いだ。

俺が住む陽水町にある、ここの住人であればよく知る場所だ。

東陽水山(ひがしようすいさん)公園という名前で、

昼は子供たちや家族連れで賑わうところだ。

俺は緩やかな坂を立ちこぎで急いだ。

そこにいる人物に合うために。

息を切らせながら公園手前に着いた俺は、

自転車を入口手前にある駐輪場へと向かう。

そこには緑色の自転車が一台止まっていた。

すぐ横に止めた俺は、気持ちを落ち着かせながら公園内にある街を見下ろせる展望台へと急いだ。

ちょうど時間が20時になったとき、目的地へと着いた。

そこに見えたのは小柄な少女の後ろ姿。

見慣れた背中だった。

「おう、来たぞ」

「うむ、時間通りだな。よろしい」

少女は振り向き満面の笑みを向ける。

こいつは10年来の幼馴染・田沼京子(たぬまきょうこ)。

俺の家・菊池家の隣に住み、家族共々交流がある。

昔から京子とは兄弟のような男友達のようなノリで過ごしてきた。

最近は、俺が好きな赤いきつねと、京子が好きな緑のたぬきのどっちが美味いか対決に夢中になっている。

最初はなんてことのない争いだったが、徐々にエスカレートしていき最近は、互いにアレンジレシピやちょい足しを披露し競ってきた。

俺は赤いきつねに砂糖を加えたり、トマトジュースを加えたり、焼うどん風にしたりと様々な珠玉の味を見せつけた。

それに対し京子は、緑のたぬきにとろろ昆布を加えたり、牛乳を加えたり、油そば風にアレンジしたりと至極の味をぶつけてきた。

勝敗は今のところ五分五分で、勝負回数はかれこれ40回目。

次の勝負をしようと話をしていたとき、

「私最っ高の食べ方編み出しちゃったんだよね!」

と京子が得意げな顔で俺に言葉を投げかけてきた。

「え?」

突然の言葉にうまく返せずにいると、

「明日夜20時に東陽水山公園に集合ね!」

そんな無理やりな約束を押し付けられ、その日は解散となり、

今日にいたるというわけだ。

「ほい、座った座った」

「はいはい」

俺たち二人は展望台に設置してあるベンチへ並んで腰かけた。

「ちょっと待ってね~。よっと」

背負っていったリュックから大きめの水筒、赤いきつね、緑のたぬきを取り出し、

赤いきつねを俺のほうに差し出した。

「じゃあ作るよー♪」

「ここでか⁉」

驚く俺にかまうことなく京子は緑のたぬきの包装をはがし、

粉末スープをカップ内に入れた。

状況に追いつけていない俺もまあいいかと考えるのをやめ、同じ行動を取った。

「じゃあ入れまーす」

水筒に入れていたお湯をまず赤いきつねに、そして次に緑のたぬきへと注ぐ。

入れ終わった二つの容器をお互いの横に置き、完成を待つことにした。

「綺麗だねー」

「そうだなー」

眼前に広がる街の明かりが、空に輝く星々に負けないくらいに輝いていた。

「そういえば京子、最高に美味しい食べ方がどうこう言ってたけど、まさかここで食べることがそうなのか?」

「まあ、それもあるかな・・」

いつも快活な京子の様子が急に変わっていた。

今まで見たことのない雰囲気に戸惑っていると、

「ふん!いくぞ!」

パンパンと顔を両手で叩いてから立ち上がり、俺の目の前に移動してきた。

「はい立って!」

「お、おう」

勢いに押され立ち上がると、そこには顔が赤く意を決した表情の顔をした京子の顔があった。

「わたしね・・経義のことが好き!」

「え・・」

思考と体が動かなくなった俺の姿に不安そうな顔を見せる京子。

「・・なんか言ってよ」

「わ、わりぃ・・」

京子の一言で我に返った俺は、急速に心臓が高鳴っていくのがわかった。

全身の血液が沸騰しているような感覚だ。

「経義は私のことどう思ってる?」

泣き出しそうな京子の顔を見て俺は、

二人の過ごしてきた思い出を頭の中に蘇らせていた。

最初は友達だった。

でもここのところは女らしくなってきた京子を意識していた。

認めるのが気恥ずかしくて、ぶっきらぼうな態度を取っていた。

でも今は・・。

「・・好きだよ」

「え?」

「俺は京子のこと好きだよ」

しっかりと相手の目を見据え、俺は隠していた気持ちを京子へと差し出した。

「うれしい・・。ありがと」

幸せそうな様子に自然と二人はお互いに笑顔をむけていた。

「あ!そうだ!もうできてるよ!」

急にいつもの様子に戻った京子は俺の手を引っ張り椅子へと着席させる。

割り箸を差し出し俺が受け取ると、

「それじゃあいただきま~す♪」

「いただきまーす」

調子が狂いながらも二人並んで食べることにした。

「ん~美味しい~♪」

「ああ、なんだかいつもよりおいしく感じるなぁ」

「でしょ!これが最高に美味しい食べ方だよ!」

食べる俺にウィンクを飛ばして最高にいい笑顔を見せる京子に、

「はは、本当に最高だな」

と京子に負けないくらいの笑顔をむけた。

きっとこの日食べた赤いきつねと緑のたぬきは、

二人にとって一生忘れられないだろう。














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きつね男とたぬき女 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

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