3-3

 久しぶりに帰った街は少しも変わらず今日も夜に溶けている。私はなんだか可笑しくなって笑って、その勢いで部屋に入って灯りをつける。出ていったあの日と同じ部屋が広がっていた。汚い。私はそう思い、掃除を始めた。

 彼との思い出が埃にかぶって見えなくならないように、隅々まで掃除をした。間違っても彼との思い出を捨てないように。私は慎重に手を動かす。彼が、ここにいた証を捨てないように。忘れないように。



 真冬の真夜中。寒い寒いという私の手をぎゅっと繋いでくれる彼。鼻を真っ赤に染め上げながら、首を曲げて真上を見あげる彼。

「そんなに星が好き?」

「うん、大好きだ」

そういってキラキラと星と同じように瞳を輝かせる彼。

「私とどっちが好き?」

「決まってるでしょ」

そういって大好きな星から目線を外して私を見つめてくる彼。

 真冬の真夜中。たったふたりが真冬の星空に照らされる。


 今日も彼の夢をみた。掃除を終えた部屋で朝を迎えた。胸の中がじんわりと熱くなる。胸の中にぽっかり空いていたはずの穴がほんの少し埋まったように思う。私に残るのは単なる思い出だけ。けれどそれは何にも代えられない素敵な思い出だと気づかされた。思い出を閉じ込めてしまうのは、ずっとずっと悲しいことだ。涙が溢れる。彼を好きな気持ちで溢れる。彼のいない今、それはとてつもなく寂しいけれど捨てたくないと思った。

 スマホがいつも通り鳴る。母からだ。〝大丈夫〟。それは嘘だ。大丈夫なんかではない。〝心配してくれてありがとう〟。それでいい。

 彼との思い出を巡っていこう。例えばこれからは夜空の星を見上げることもしたい。彼が思い出の中で永遠に生き続けられるように。私たちは、永遠を誓ったのだから。

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孤独と思い出たち とがわ @togawa_sora

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