清一色、ドラ4、16000!

alicered

聖夜の祈り

 真っ白な雪が聖夜で賑わう街をいっそう引き立てる。親子は笑顔で買い物を楽しみ暖かい我が家への帰路を急ぐ。カップルはライトアップされた歩道の傍で愛を囁き合っている。その日は人類に闘争という単語を忘れさせる神秘的な雰囲気を十二分に作り出していた。


 今日は愛で満ち溢れた街の中心から少し離れたマンションの一室で行われている、彼らの聖夜の闘いいのりの一部をここに記す。


 カチャ、パシ、カチャ、パシ、カッ、パシ----


 小気味良い音が五感を刺激する。

窓の外では真っ白い粉が歩道を白銀に染めていく。

室内では真っ白な煙が室内をゆっくり満たしていく。


 マンションの一室で行われている神聖な儀式、一つの卓を囲んで男女(4人だろうか?)が2段に積み上げられた小さな牌を一つ一つ無言で手に取っては自分の前にある牌(おそらく13個くらいであろうか)に組み入れそこから1個取ってそれを相手に見せるようにして中央に置く、差し詰めいらないものを流すところ、河とでも読んでおこう。

 

 時刻は深夜2時を回ったところで、儀式も佳境を迎えようとしていた。オーラス、南4局とでも言っておこう。ここで儀式に参加している4名を簡単に紹介しておく。東西南北で座っているので東から反時計回りに紹介していこう。

 

 東、堂島猛、31歳、灰皿にタバコをこれでもかと積み上げ、血走った目で卓を見ている無精髭がきらりと光るナイスガイである。下には23000の表示。

 

 南、轟雄一郎、24歳、携帯を3台サイドテーブルに置きキャバクラ嬢と連絡を取り合っている笑顔が爽やかなイケメンである。下には31000の表示。

 

 西、桃城まみ、28歳、牌を掴むたびに舌打ちをする、清楚な長い黒髪に流し目が魅力的な大和撫子的な存在である。下には32000の表示。

 

 北、柊夏美、27歳、傍にある55度と書かれた小瓶を豪快にラッパ飲みをしている笑顔が光る真夏の太陽のような女性である。下には14000の表示。

 

 聖夜の影響だろうか、皆目が据わり息遣いも少し荒くなっている。儀式に使用する牌の数も徐々に減ってくるにつれ、全員口数が多くなってきた。



「流石にこのメンツで、デカピン、ワンスリーで打つと楽しいな、と」

(親番、最高だ……。連荘させるも良し、満貫なら確実、3翻40符以上でもいい、悪いな、今日は勝たせてもらうぞ、と)

 最年長の堂島が牌を捨てる。



「そうですね。有意義な時間が過ごせました。先輩たちには感謝しかないですよ。」

(なんでも良い。スピードで押し切る。この化け物たちに勝つにはこれしかない!)

 メンバーで一番若い轟はそっと牌を置きながら笑顔を浮かべた。



「ちっ、あぁ〜〜! うぜ〜〜! お前ら粘るな。早く飛べ!」

(こいつら、おそらくほとんど張ってやがる! このまま逃げ切る!)

 学生に保健室の女神と謳われる桃城は、苛立ちを全く隠さず牌を卓に叩きつけた。



「時はきた、グビッ、それだけだ、ゴクッ」

(跳貫でもギリギリ届かん……、倍満以上だ! やってやるよ、クソが!)

 柊は緑で染めた牌から不要なものを河に捨てた。

 

チッチッチッ、時計の音が今日はやけに大きく聞こえる。儀式の参加者たちは互いを牽制しつつ、それぞれの牌に手をのばす。



(このバカどもを叩き潰して勝ったらしばらくは遊んで暮らせるな、と)



(マリエちゃんに財布を買ってあげる約束してたな。待っててね、マリエちゃん!)



(殺す、殺す、殺す、殺す! 飛べ、飛べない豚どもはただの豚だぞ!)



(…………………………………………………………………………ここしかない!)


 それぞれの思惑が交差する中、決着は突然訪れた。


「カン!」薄い唇から発せられた一言が大気を震わせた。

 最下位の柊夏美は親の堂島が捨てた鳥の絵が描かれた牌を取ると同時に、山の牌を1枚めくった。そこには竹の棒が9個並んだ絵が描かれていた。

 ザワッ、場の空気が一瞬にして変わった。


「おいおい、穏やかじゃないね、と」

 震える声で堂島は現物の牌を捨てる。


「先輩、少し酔ってますね。そろそろ帰った方が……」

 轟の捨て牌がカタカタと音を鳴らす。


「ちっ、ブスが調子に乗るなよ」

 隣を睨みつけながら罵声を吐く桃城。

 

 すっと牌に手をかけて感触を確かめる柊。

「柊龍神流、盲牌! これで和了だ! 清一色、ドラ4、倍満!」

 溢れんばかりの笑顔で柊夏美は天を仰いだ。


 その瞬間親の堂島の最下位が確定した。あまりの呆気ない幕切れに堂島猛は少し可笑しくなって吹き出した。周りの仲間も何かが吹っ切れたように大声で笑った。ひとしきり笑ったあと、堂島は窓の外を眺めた。

 

 まだ、深々と降り積もる雪を横目に見ながらこれから来るであろう波乱の日々に想いを馳せた。


 「メリークリスマス」

 

 そういうと彼は財布を広げた。








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