第7話 故に兵は詐を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり。

二 故に兵は詐を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり。故に其の疾きことは風の如く、其の徐なることは林の如く、侵掠することは火の如く、知り難きことは陰の如く、動かざることは山の如く、動くことは雷の震うが如くにして~相手の予期せぬ動きで翻弄する~


 さて、僕が退社して暫くした頃、健康のお世話(株)から離職票が送られて来た。それは良いのだが、退職理由の欄は「一身上の都合」となっていた。僕は納得できなかったので、管轄の公共職業安定所に電話して事情を説明すると、退職理由の本人申告欄があるので、そこに申し立てたい退職理由を書いて返送すれば良い、と教えてくれた。僕はそこに「連日に渡る上司のパワハラと、不当な制裁人事の為」と記入し、健康のお世話(株)に返送した。それから何日か経った頃、スマホに1度だけトシマ課長からの着信履歴があったが、僕は放っておいた。が、2度と掛かって来ることは無かった。僕はピンときた、きっと健康のお世話(株)にK弁護士からの内容証明郵便が届いたに違いない。


それから1カ月程経った頃、K弁護士から相手方から回答の文書が届いたとメールがあった。早速内容を確認すると、代表取締役名で以下の様なことが書かれていた。

① 残業代は、変形労働時間制を採用している為、発生していない。

② 事業所や支社の社員に確認したところ、カカケケ氏は、確かに会社が準備している食事を召し上がることは稀で、ご自身で持ち込まれたものを召し上がっておられたとのことでした。食事に関しては、会社から提供した食事をほとんど召し上がっていないという事実がございます。会社のルールからは逸脱いたしますが、給与から食事代として控除しておりました、 1 5 0 , 4 8 0円は返還させて頂きたく考えております。

③ 慰謝料については、カカケケ氏は事件発生当日に休んでい為、発生しないものと考える。

④ 残業時間を休憩時間0分で計算されておられますが、カカケケ氏は勤務時間中に職場内の倉庫で仕事に関係の無い書物を読んでおられた為、そのシフトの他の社員から業務に支障が出ているとの申し出があり、シフトを変更せざるを得なくなった事実もございました。従って、カカケケ氏から記録や資料のご提示がないまま、休憩時間を0分とするのは会社として認めがたく、ご検討をお願いいたします。


まぁ、③までのことはK弁護士に任せておけば良いのだが、僕は④の内容にカチンときた。同時に、どうせこんな直ぐにバレる様な下らない嘘を付くのは、キクチマネージャーに違いないと思った。フルタチーフなら嘘をつくにしても、気が小さいから、シフトを変更しなければならなかった、と迄は話しを盛らないと思ったからだ。それにしても、弁護士相手に下らない嘘をつくなんて本当に度し難い。


・五間倶に起こって其の道を知ること莫し、是れを神紀と謂う。用間篇第十三・二


だが、僕もこういう時の為に相手方の内部に迄情報網を敷き詰めてある。その日の内に、一緒に働いていた社員、パート従業員、既に退職していた人を含めて一緒に仕事した同僚全員に電話かLINEをして、お互いの近況を報告し合う会話の中に、さりげなく「何かな、会社が今頃になってこんな言いがかり付けて来てん」と言って話しを振り、僕が仕事中に倉庫でサボって本を読んでいた事などないこと、又その為に業務に支障を来たしてシフトを変更しなければならななかった事実など無い事を証言してもらった。内容証明の件は黙っていたが、勿論、全員が僕に有利な証言をしてくれた。又従業員の殆どは、事件に対する会社の対応とマツダ支社長仕業に憤慨し、僕と同時期に退職届を会社に提出していたが、全員が他ならぬ、トシマ課長から慰留されたこともこの時知った。


そして早速、その音声ファイルはLINEのスクリーンショットを添付して、K弁護士に以下の通りメールを送信した。

「先日メール頂いた、相手方対案に於きまして松井支社長が、私が勤務時間中に、倉庫で仕事に関係の無い読書をしてサボっていたから、業務に支障が出た事実があると主張している件に関しまして、私も少々カチンと来ましたので、その様な主張は事実無根である旨の、当時の複数人の同僚(当時一緒に勤務していた、ほとんどの同僚です)の証言を得ておきましたので、その音声データとLINEのスクリーンショットを送付いたします。音声データに付きましては、何せ相手がおばさん連中なので話が長いので、まだしておりませんが必要であれば書き起こします。

ついでに、代表取締役に対して、ご親切にも私の主張を論理的に説明する文書も書いておきました。宜しくお取り計らい下さいませ。」とメールした。


そして添付した文書は以下の通りだ。


「健康のお世話(株)代表取締役 タカハシ殿

拝啓、時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

今回、三年にも渡ってご縁のあった御社と、この様な事態になったこと、私も大変残念に思っております。


さて先日、貴殿名の文書を拝見して驚きましたが「休憩時間0分

間で計算されておられますが、勤務時間中に職場内の倉庫で仕事に関係ない書物を読んでおられたため、そのシフトの他の社員から業務に支障が出ているとの申し出があり、シフトを変更せざるを得なくなった事実もございました。」などと言う嘘が何処から出てきたのでしょうか?(恐らくフルタチーフかキクチマネージャーあたりでしょ?)私が三年間にも渡って、就業時間中に全く休憩も取れずに業務を強いられたことは、フルタチーフ、ヘンミ労働組合役員、トシマ課長のお三方共がお認めになられ、且つ謝罪もされている会話の記録があり、K弁護士にも提出しております。その様な虚偽の主張は今の内に撤回して謝罪された方が宜しいかと思いますがどうされますか?


・トシマ課長は、カカケケは軽率な発言をするから、職場の人間関係を損なっていると仰いましたが、私は決してその様なことは無いと思います。私はりんご荘事業所の従業員の皆と、今でもちゃんと良好な人間関係を保っておりますから、その様な(私が勤務中にサボって読書していたななどという)ことは全くの虚偽であることを、当時の同僚もほぼ全員が証言してくれておりますし、その記録もK弁護士に提出しております。

 

・所で、次亜塩素酸の混入事件から、もうそろそろ3カ月経ちますから、私は復た同じ事件が起きるのではないかと危惧しております。今度は本当に人命が失われるのではないかと大変心配しております、そうなれば現在りんご荘事業所で働いている、私が今でも懇意にしている元同僚に、復たその罪が着せられるのではないかと思うと不安でたまりません。ついては次の休日にでも労働基準監督と警察署に行くつもりでおりますが、どうされますか?


・私の退職の原因が仕事のストレスに起因するものであることに関しては、フルタチーフもトシマ課長も会話の中で認めておられますし(やっぱり記録してます)、それを裏付ける医師の診断書も御社へ提出しておりまよね。(本人控えも河合弁護士に提出しております。)どうされますか?


・私は三年間、これも勤務記録を調べれば分かる事ですが、働かせて頂いている以上は、会社・事業所の為にと思って、毎日一時間以上早く出勤し、休憩も取らず業務に勤しんで参りました。今回、御社にあの様な根も葉も無い虚偽の申し立てをされたことは、誠に心外であり残念でなりません。せめてその主張は今の内に撤回して謝罪して頂きたいです。

まぁ、どちらでも構いませんが、私は、次亜塩素酸混入事件に関して御社にして対して申し上げたこともそうですが、御社とはは三年位以上に渡って、良好な雇用関係にあった間柄でもあったことですから、衷心より申し上げる次第です。

敬具


すると3日後に、K弁護士からメールの内容と今後の方針について相談したいので、事務所に来て欲しいと連絡があった。










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