第6話「故に勝を知るに五あり。而て戦う可きと而て戦う可からざるとを知る者は勝つ。衆寡の用を知る者は勝つ。上下の欲を同じうする者は勝つ。虞を以て不虞を待つ者は勝つ。」

・故に勝を知るに五あり。而て戦う可きと而て戦う可からざるとを知る者は勝つ。衆寡の用を知る者は勝つ。上下の欲を同じうする者は勝つ。虞を以て不虞を待つ者は勝つ。将の能にして君の御せざる者は勝つ。此の五者は勝を知るの道なり。故に曰く、彼を知り己を知らば、百戦して殆うからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。謀攻篇第三・五~戦うべき時が来た~


 僕は予約していた日時に、モガミ法律事務所を訪れた。事務所はビジネス街の法律事務所が多く入っている8階にあった。事務所の受け付けで電話を取って、予約のカカケケだと告げると、すぐに案内の女性が来て、会議室に通してくれた。暑い時期だったので、ペットボトルのお茶をくれたのが嬉しかった。

暫くするとK弁護士が入って来たので、僕は機嫌良く挨拶した。

「K先生ご無沙汰しております。」

「ご無沙汰しております。」

「以前は大変お世話になりました。」

「いえいえ、私はもっと取れると思っていたんですが…」

「イヤ、一時間の無料法律相談を受けて、あの金額をもらえるなら、僕は悪い話じゃなかったですよ。」

「そうですか、ありがとうございます。で、早速ですが今日は…」

僕は説明もそこそこに、K弁護士に資料を一式手渡した。コロナ対策でプラスチックの衝立越しなのが3年前とは違った。

K弁護士は無言で、一通り僕の作成した状況説明書と、会話の書き起こしを読むと、流石弁護士、直ぐに状況を理解して、顔を上げるなり「このお三方に話しを振られたのは非常に良かったと思います。」と言った。僕も気を良くして「三年前よりは良くできているでしょ?これも以前先生に勉強させて頂いた賜物です。」

「そうですね。これは相手方も対抗が難しいと思います。どうされますか?私を代理人として委任契約して下されば、時効を停止させる

為に直ぐに内容証明の発送の作業に取り掛かりますが…」

「勿論、先生を全面的に信頼していますので、宜しくお願いします。」

「着手金が税込みで1万1千円掛かりますが宜しいですか?」

「え?3年前は着手金5万円でしたけど、1万円で良いんですか?」ラッキー!僕はすぐにお金を支払った。

「はい。ではすぐにご用意いたしますので…」

K弁護士が会議室の外に声を掛けると、驚いたことに、健康のお世話(株)を相手方とした、K弁護士を代理人として委任する委任契約書と着手金の領収書が既に作成されていて、すぐに僕の前に並べられた。K弁護士は契約書の内容を詳細に説明してくれた。3年前とほぼ同じ内容だったが、これは弁護士に説明義務があるらしい。契約書2通の何カ所にも押印しながら(各ページと2通の契約書にそれぞれ割り印が必要なのだ)、「こういう所はまだ、ハンコは廃止されてないんだなー」なんて考えていた。

僕に領収書と委任契約書1通を渡しながら、K弁護士は言った「それでは早速内容証明を相手方に発送する作業に取り掛かります。お話しに進展がありましたら、またご連絡差し上げますので。」

「ハイ!宜しくお願いします!」僕は、K弁護士にお願いすると意気揚々とモガミ法律事務所車を後にした。

車を運転して家路に付く車中、内容証明を見て驚く、健康のお世話(株)の連中の顔を想像していた。


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