第6話

追い込まれていく佳央理

 静かな部屋に剃刀の音だけが響いていた。

 じょり、じょり……。

 耳に届くその音に、顔を強ばらせたまま、唇青く佳央理はがたがた震えた。胸が、今にも破裂しそうだ。

(やめて)

 声にしたいが、言葉まで凍りついて声にならない。

 じょり、じょり、じょり、じょり……。

 何度も、何度も耳に届いた。佳央理は耐えた。懸命に耐えた。後ろ手にくくられた二つの手を力の限りに握りしめ、耐えるしかなかった。

 やがて……。

「さあ、終えたよ。きれいに拭き取ってあげるからじっとしているんだよ」

 佳央理は動けなかった。惣一と目が合わせられなかった。

 柔らかな布で泡をきれいに拭き取ると、つるつるの肌が現れ出た。惣一に「見てごらん」と言われた。

(そんなこと……)

 佳央理は、激しく頭を振って嫌がった。

「今はショックが勝って見る気持ちになれないか。そうだろうな」

 赤ちゃんのようなつるつるの肌を、惣一はしばし見つめた。

 声も、動く気配もしなくなったことを不審に感じた佳央理は、怖々、下を覗き見た。

「い、いや」

 佳央理は驚き、思わず声が出て、咄嗟に足を閉じようとした。けれど、脚を縛った縄が反発して許さなかった。

「み、見ないで」

 口にするのがやっとだった。

 やるせない。酷い、酷すぎる。どうしてこんな酷いことが平気でできるの?辱しめて、何が楽しいの?

 そんな佳央理の気持ちを察しようともしないで、一層、顔を佳央理の股間に近づけた。

「い、いやぁ」

 佳央理は、視線から逃げようと身もだえた。と、惣一が佳央理の股間に手を宛がった。親指が、割れ目を左右に開いた。佳央理は驚き、真っ赤になって哭いた。

「いやあ!」

「暴れるんじゃない」

 言われ、股に平手が飛んだ。

「あうっ」

 佳央理は痛みに負けた。諦めが涙になった。

「おや、どうしたことだ。ずいぶんと濡れているじゃないか」

 目を割れ目に凝らす惣一の指が触れた。

「あん」

 佳央理の身体がびくりと震えた。身をよじる。

「感じているんだな」

 くちゅくちゅ、音が鳴った。

「おお、溢れそうだ、聞こえるかい?」

 佳央理は、顔が真っ赤になった。

「身体が火照っているんじゃないのか」

「そ、そんなことは……ありません……ああ」

 身悶えた。

「縄を解いてください」

「奴隷となって生きると言うなら縄を解いてやろう。どうだね」

「……」

 何も言えなかった。

「まだ決心ができないか」

「……」

「そうやって意地を張っていても事は好転しないよ。元の暮らしに戻ることはできない。おまえを救ってくれる者などいやしない。何もない。今のおまえは、蟻地獄に落ちた蟻だよ。一人ではけして這い上がれない。私は、これまで何人も奴隷女を買ったが、皆、現状を受け止めて行ったよ。つらいだろうが諦めるんだな。婆やは、おまえに邪険にされてかなり怒ったようだ。このままでは済むまいよ。早く謝ることだな」

 佳央理は、心が折れそうだった。



 

  

 


 

 


 

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飼われて 川上雄二 @yuuji-dokusyo7

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