師匠と少年

「これから見せるのは、可能性としての未来だ。ただ、起こる可能性がかなり高い」

「どういうことですか?」

「あまり、いい未来ではないんだ」

「それは…怖いですね」

「ずっと、これをみせていいもんか悩んだんじゃがの…」

「え?」

「私の能力は、未来をシュミレーションするというものでな。ことの始まりと終わりだけを、見通せるんだ」

「す…すごいですね」

俄には信じられない…

「それなりの代償を出せば、かなり先まで未来を描き出すことができる。でもな、未来とはとても繊細で不可解で、そして残酷なもの。だから未来について極力触れないようにして生きてきた」

「な…なるほど」

だんだん林がややこしくなってきた…えっと、つまり…

「未来を見せれるけど、色々とややこしくなるから普段は黙ってたってことですか?」

「ああそうじゃ。下手に干渉すると、最悪の未来しか辿り着けなくなるやもしれんでな」

「怖いんですね…」

「もっと厄介なのが、未来を見せたところで実際の時間の流れに戻ってきた時にあまり覚えていないのだよ」

「はい?」

「確かに今から未来を見せる。でも、その未来の記憶を取り戻すのはその未来がくるほんの少し前なんだ。それより前には、たとえ今確かにみた未来でも、絶対に思い出せない。そんなもんなんだ」

「わ…わかりました」

「覚悟は良いな。行くぞ」

え?ちょ…

瞼が重くなり、視界が真っ暗闇に落ちていった。



あれ?なんで僕…あそこで泣いているんだろう


「…師匠...嘘...ですよね?師匠?」

巨大な瓦礫が、鍛え抜かれた師匠の脇腹を抉る。

血が地面に染み、いつも師匠が肌身離さず持っていた手帳も血で汚れていた。


早く...早く...来て...

師匠の手帳を開けようにも、血がついて、うまくめくれない。

「そりゃ...だめだ。死に際の...俺なんかより、


日のこと…覚えているか?」

「…もちろん」

一方的にボコられたなぁ…

「まぁ、私は覚えていないがな」


「う…うん。あ…開けれたけど」

血が染まって、所々捲れないし、見えにくくなっている。

日記のようなそれは、団員全員の名前や特徴が。

僕と師匠が過ごした一年も、事細かに書かれていた。

「…これって…」


「ふっ…

あんまり…見るんじゃ…ねぇ…ぞ?」

「うん…わかった。わかったから…」

…まだ..ま


ちょっ…このっ」

力を入れても破れそうだし、べったりとくっついて、なかなか綺麗に剥がせなさ


「...強くあれ。鍛えて、鍛えて、抗い、強くなれ」

「そう書いてあります。」


「そうか。そうだったな。


そう言って突き上げた拳は、次第に


「....やっと落ちたか」

え?

後ろには、黒い帽子で、黒い服を纏ったボス

「...何...言ってるんですか?」





そこからいくばくかの時が流れ、目を覚ました。

その時僕は、拳を強く握り目元を熱くしていた。


断片的に崩れていった記憶。

セリフもはちゃめちゃで、あまりにも不鮮明だった。

だが師匠の身に何かがあったのだけは記憶に残っていた。

「まさか…少しでも記憶に残っておるのか?」

「…は…はい」

「嘘じゃっ…そんなはずは…いやでも…」

「師匠が…師匠が苦しんでました。」

「それは…本当か?」

「は…はい」

「何か、僕に訴えていたような…教えてくれたような…そんな気がします」

「そうか。きっと悪い夢でも見たのだな?

「え?でも、狐巳さんの能力で未来を…」

「いや…私が見せようとした未来はそんなんじゃ…いや。これ以上は言えない」

「え?どうしてですか!?」

すると突然ドアが開き、ボスが入ってきた。

突然頭を撫でられると、さっきまでの感情が嘘のように小さくなって消えた。

「狐巳さん。未来は変わりましたか?」

「…くそっ」

「はは。そうですか。それは残念だ」

なにを…話してるんだ?

「早々に受け入れておくことです。」

「あの…何が起きて今、撫でられているんですか?」

「いずれわかりますよ。赤隥団員」


何もわからないまま、自室に戻った。

結局何しにいったんだか…

というか、どうして狐巳さんは第二王女のものを欲したんだ?

それに…お話をしにいったはずの診察室で、いつの間にか狐巳さんもいなくなっていて、ボスに撫でられた記憶しか残ってないし…

さっきから頭が混乱する…

「あああぁあ」


怖い…。


寝よ。


そしてその日を境に、食堂の看板娘が姿を見せなくなった。



ー第一部 完ー

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ハモニカと筋肉 大市 ふたつ @Remone-xo

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