鼓動が加速してやばい

都から帰って数日後、最初で最後のマジな相談があると言って、狐巳さんに呼び出された。

…今度はどんな赤いものがあるのやら。


「遅いぞっ!」

「す…すいません。来る途中でミネさんに連行されて…」

「それは…災難だったな」

「はい。危うく、外でボーリングのピンになるところでしたよ」

「ほんとに災難じゃなっ!!」

あはは…

「ゴホンッ。それで、今日呼び出したわけなんじゃが…その前に一つお使いを頼まれてはくれんか?」

「…いいですけど?」

「そこで、お主の気になる相手に会うじゃろうから、なんでもいいからその者の持ち物の一つを持ってきてくれ」

「ええっ!?」

「なに、髪の毛でもよい」

「そんな…むしろそっちの方が難しい…」

ってか気になる人?

「大丈夫じゃ。なんとかなる…多分」

「多分!?…やるだけやりますけど…あまり期待しないでくださいね」

まぁ、なんやかんやできればいいや。

「大丈夫じゃ大丈夫じゃ。ほんとに何とかなるはずじゃから」

「ええぇ…」

「では、この場所を探せぃ。今日明日が好ましいの」

そう言って渡された紙には、詳細に描かれた建物があった。

「ここは?」

「私もよくわからん。そこにお前が行けとなっているんじゃ。デバイスなりなんなり使えばすぐに辿り着けるじゃろうて」

レナ。どこかわかる?

『少々お待ちください』

「どっかで見覚えが…」

「まぁ、お前さんに関わる場所だからな」

『見つけました!』

本当か!どの辺にあるんだ?

「都の中心からやや離れた広場…以前、昼食を食べたところの近くですね」

ってことは、気になる相手って…

「どうした。気になる人でも思い浮かんだのか?」

「はい…。なんか、納得しました」

絶対物もらうとかできない相手じゃん…

「とにかく、今日明日にでもそこへ行って、ものもらってくるのだっ!あと、お土産も買ってこい」

「わ…わかりました。お金は…どうすれば?」

「…ゴチで頼む」

「…はい。じゃあ今度スコーン多めにください」

「よかろう。そろそろ陽助ともお菓子対決しようと思ってたのでな。その時の審査員にしてやる」

「わ…わーい!」

そうして、前と同じように都へとひた走った。

「帽子よしっ。バッテリー残量よし。」

そうして、今月2度目の都入りをした。

日が高いうちに目的を達成できればいいけど…

前に通った道を使い、城の横を抜け広場に出た。

「やっぱ、ここは落ち着くなぁ」

目的地まで急ごうかと思ったが、ついつい日向ぼっこしてしまった。


「ヤッベェ…」

お昼も食べてないのに日が傾いてきてしまった。

そういえばここの近くに…

って、お金もそんなに持ってないんだった。

あの時のお釣りそのままあげるって言われたから、それ持ってきたけど…

ラーメン一杯買うにも足りないし。

「王女様がそうそういるわけ…」

「どうしたの?」

「うええええええええ!?」

体を起こし、声のする方を見るとつい先日一緒にご飯を食べた第二王女が。

その時と違って、畏まっているというか…軍服に近い格好をしていた。

「あ…あの…どうして…こんなとこに?」

「抜け出してきちゃった」

「わ〜。なんで?!」

ってか、どんだけ王女に逃げられてんだよ…

「ちょっと父の様子が変でね」

「な…なるほど」

「ここでずっといるのもアレだし、どっか行こうよ」

「いいですけど…」

「あと、上着貸して欲しいんだけどいいかい?」

「いいですけど…」

今日は団服じゃなくって、前に釘縞さんからもらったライダージャケットなるものを着てたわけで…

「流石に少し大きいわね」

「かっこかわいい…」

「え?」

「いえ…なんでも…ないです」

心の声が漏れやすい件について…

「まぁ私もこれで目立たないでしょう! さ、行きましょ」


めっちゃ目立った。

隣でかなりいかつい衣装を着ている王女似の美少女と、ジャージを着ている僕。

いろんな人の目に留まったことは言うまでもない。

慌てて路地裏を駆け巡り、人気のないところに出た。

「結構…目立っちゃったわね」

「あれ…わざとじゃなかったんですか?」

「え?」

「いえ。なんでもないです…」

ここ…もしかして。

カバンから紙を取り出し、少し顔を上げた。

「やっぱり…」

「なに?それ」

「先輩がここに行けって言ってたもんで」

「ここなんもないわよ?」

「ですよね」

「不思議なことを言う先輩ね」

言えないですよ。気になる人から何かもらってこいって言われてるだなんて…

「あ、一つあったわ!」

「え?」

「ちょっとそこのベンチで待ってて」

そう言って、向かいの家に入って行った王女様。

なにがあるのかな…

「あ…」

少しすると、袋を持って出てきた。

「ここの手作り飴ちゃん、すっごい美味しくってね。よくお母さまが買ってきてくれたのよ」

んんん!?つまり今のお姫様も…

「私のお城脱出経路とかこの辺の店とか教えてくれたのもお母さまなのよ」

「な…なるほど。母親のおかげというかなんというかですね」

「ええ。あ、レモンはお好き?」

「あの酸っぱいやつですか?」

「そうそう。酸っぱいの苦手だった?」

「いえ。あんまり食べたことないですが、酸っぱいのは好きですね」

「ならよかったわ。ここの飴、れもん味とりんご味しかないからさ」

「なるほど。何かこだわりがあるんですかね?」

「さぁ?ま、食べましょ」

そう言って袋から飴を取り出し、一つ僕にくれた。

「この模様すごいわよね。いただきまーす」

言われてみればすごいカラフルな飴だな…

「いただきます」

口に入れるとすぐに雨が溶けだし、レモンの酸っぱさと飴本来の甘さが絡まりあって最高のコントラストを楽しませてくれる。

「はっ…よだれが…」

ついつい口元が緩んでしまった。

「ね?美味しいでしょ?」

「こんなに美味しい飴、初めて」

「そう?ならもう一個あげるわ」

「おお〜。それじゃあいただきま…」

待って!?これ持ち帰ればミッションクリアでは…

隣で美味しそうに2個目の飴を食べる王女様。

口の中ですでに溶けきった飴。

……食べるしかないっ!!

「うまぁぁぁぁあ!」

さっきの酸っぱさと甘さの組み合わせとは打って変わって、りんごの蜜の甘さとほのかな香りが飴から溶けでてきて、舐めれば舐めるほどそのリンゴの深みが増している。

「ねね、どっちの方が好き?」

「う〜ん…悩ましい」

「ちなみに私は両方好きよ」

「…僕もどっちも好きです」

なんなら、同時にどっちも口に入れてみたい。

「あのさ!」

飴を舐め終わり、次どうしようかとなと悩んでいると、顔をぐっとこちらに近づけてきた王女。

「今日は、あのヘンテコな機械つけてないの?」

「持ってきてはいますけど…」

「アレって、つけるとどんな感じなの?」

「どうって言われましても…」

「私も使える?」

「ま…まぁ試してみる程度なら」

「一回だけ、一回だけさ!…ね?」

「あの…使うには身体データを読み込む必要が…あるんですけど」

頼むから、断ってくれぇええ。

脳と接続する時に、デバイス側に身体情報を逐一読み込まないと使えない仕様になっているとかで…

「別に、構わないわ」

「あの、変態的な言い方すると…その…」

「別にみられるわけじゃないんだから、構わないわっ!」

うそん。

仮のアカウントを作り、レナに頼んで全てのデータを暗号化した上で身体データを読み込んだ。

暗号化すると、すぐに使いたい時に出せなかったり、データが嵩むけどこればっかしはしないわけにはいかない。

「もういいの?」

「はい。今回はレナっていう僕の相棒が話しかけてくると思うので…何かいうことがあったら心で念じるように言ってみてください」

「わかった!」

目の前で王女が目を閉じ、なにやら頷いたり、ちょっと声を漏らしたりしながら時が流れていった。

「面白かったわ!」

「そうですか。会話とかできましたか?」

「ええ。あなたのこと、色々教えてもらったわ」

「なんで?」

「いや、少し気になって…」

「まぁ、いいですけど…」

別に隠すようなこと…ない…いや、あるわ。

「あ、そうだ。適正はなんでしたか?」

「確かSって言ってたわ。どういうことかしら…」

うっそぉおおん。

入団した時、かなりすごいって言われてたSに内心うれしかったのがなっか薄れるじゃん、

「さ…かなり適正あるってやつですね」

「え?ほんと!?」

「はい。一応今のところSあればデバイス使ってできないことないですね」

「そこまで言われると、普通に欲しいというか国にないのが惜しいわね」

「え?ないんですか?」

待って、これかしちゃダメだった気が…

「心配しなくても別に付けたことを誰かに言うつもりは毛頭ないわ。普通に前見た時からつけてみたかっただけだもの」

「そ…そうですか」

「あ、これ返しておくわね」

小型デバイスをを外し、ライダージャケットを脱いで僕に渡した。

「あ、もうこんな時間!?流石に色々と言われちゃうわね…!」

「そうですか…」

「今日会ったのは本当にびっくりだったけど、また会うことになるはずよ」

「え?」

「今日は楽しかった。いつか一緒にもっと他の所、言ってみたいわ。それじゃあ」

最後は相手に流される感じでパッと分かれた。

……あ、狐巳さんのお使い、どうしよ

飴買って帰るか。


有金で飴を買えるだけ買って、家に帰った。

とりあえず今日のことを報告しようと食堂に向かい狐巳さんに会った。

「ふむ。目的は達成したようじゃな!」

「いえ…それが…」

「んん?」

「第二王女に会うには会ったんですけど…」

「ほれ、後ろ向かんかい」

「はい?」

「せ・な・か!みせてみ?」

「は…はい」

恐る恐る後ろを向いた。

幸い食堂にはまだ誰もきてなかった。

「ほれ。目的達成しとるではないか」

「え!?」

狐巳さんの方を向くと、うっすらと見える銀髪が。

「ほんとに髪の毛だったんですね」

「だから言ったじゃろう?あとはお土産じゃが…ふむ。これはなかなか」

「っていつの間に!?」

買ってきた飴玉を鷲掴みにし、りんご味を一つ取り出して舐めていた。

「さて、本題について今すぐにでも話したい所じゃが、先に風呂と飯を済ませい。んで、奏音の診療室に来い。話はそれからにしようかの」

「わ…わかりました」

一度、荷物を置きに自室に戻る。

なんだか、夜も長くなりそうなので師匠からもらったダボダボのパーカーを持って風呂に向かった。

食事を済ませて、いつもの診療室に向かう。

中に入ると奏音さんの姿はなく、狐巳さんが回転椅子の上に座って回っていた。

「よくきたな。早速だが、寝てもらう」

はい?

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