逢坂の席にて

「祥くん!ちょっとお使いを頼みたいんだけどいい?」

「え?」

たまたま訪れた診察室で、ばったりと奏音さんに会ったわけだけど…

「一応ここでもさ、ある程度の生活必需品は揃うんだけどね賄いきれなかったり、飽きたりしたら別のものを取り入れたくって」

「な...なるほど」

「ってなわけで、これと、これ。持ってきな!買うものリストとかお金とかもその中だから」

「わかりました!」

手渡されたのは、肩掛け鞄と帽子。

カバンの中にはいつも奏音さんが持ってるタブレット端末のケースとがま財布、帽子が入っていた。

「その中にある入ってる帽子、食事以外の時はつけたままでいるようにね。」

「わ...かりました。」

「つけてる人の認識を妨げる効果あるからさ。あ、この拠点にかかってる力の下位互換みたいな感じね」

そういや、この建物って一度中に入った人じゃないと見つけにくい…とかそんなことを、前に琴さんの授業で言ってたっけ。

「もし、買い物中に帽子外しちゃうと...」

「面倒くさいことに巻き込まれるかもしれないわね」

「肝に銘じておきます。」

すると、後ろの扉が開いて師匠が入ってくる。

「奏音いるか?」

「あ〜いつものやつなら、その棚の上にあるの持っていって」

「おう。お?坊主、買い出しか?」

「は…はい!」

「てことはあの店に行くんだな?」

「あの店?」

「ちょっと訳ありの名店さ。3階にあるんだが、風景もいいぞ。おすすめのメニューはラーメン。それを食ってくるといい」

「なるほど。それは楽しみですね」

ラーメン…前に食べたのとどっちの方が美味しいかな…

「あと、その店はちょっと特殊でな。基本相席になるから気をつけるんだぞ。」

「なるほど?」

「まぁ久しぶりに都に行くんだ。楽しんでこいよ〜」

「はい」

「じゃあ気をつけて。遅くとも日が沈むぐらいには帰ってきなね」

「わかりました。いってきます!」

まだ少し硬い外用の靴に足を入れ、帽子を被り、鞄を肩にか脇に挟む様にして門をくぐる。


本調子に戻った身体を動かしたい気もするが、途中までは釘縞さんに借りたバイクに跨った。

便利なことに、折り畳むとかなりコンパクトになり、専用の鍵と留め具を使って地面に固定さえすれば置いたままどこへ行っても心配ない。

颯爽と駆け抜け、程よい重低音を出しながら風に向かって走り続ける。

走ってる時と違って、真っ直ぐ風にぶつかりながらひた走ること数十分。

初めてみるところまで出てきた。

バイクについてるマップを見る限りだとこのまま真っ直ぐ行くと森にぶつかり、左の奥には小さなビル群が。そしてさらに進むと大ビル群壁が見えてきて目的地の都まで着くらしい。

流石に都に住む人たちが利用するところにこれあると怪しまれそうだから、道中の森の中まででバイクを降り、そこに隠した。

それからは帽子を被りかなり遅めに走って都へと向かう。

かれこれ1、2時間ほど走ると大ビル群の方まで辿り着いた。

そして、都門の前に来ると衛兵が二人と謎の機械が一つ。

「あれが、監視ロボ…なのか?」

まあ、今の帽子をかぶってる限り何も言われないらしいので、取り敢えず進むことに。

案外、門は何もなく入ることができた。

それから奥へと進み、見慣れた商店街に向かった。

「えっと、買うものは…」

果実の種数種類(気になるやつ)、イチゴ、フェルト布2m、鉄塊5キロ、万能ケーブル10メートル、豆電球3個。あと、お釣りで好きなもの買ってきな!

…なるほど。で、どこに売ってるんだ?

わかるのイチゴしかねぇ。

…ま、ほっつき歩けば見つかるかな。

というわけで、商店街を片っ端から巡り、服屋でフェルト布、お花屋さんで種、3階の最後の店でようやく鉄塊5キロを手に入れた。


一方、本部では。

「あ、都の地図データ入れるの忘れちゃった」

「えぇ〜。大丈夫なの?それ」

「なら、陽くんが届けに行ってくれる?」

「ええぇ。データ送れば良くな〜い?」

「あ〜うん。それもそうか!」

「………圏外だ」

「まぁ…彼なら大丈夫でしょ。もうすでに全部集めてたりしてね」

「あぁ〜。それだといいんだけど…」

「ま、何かあったら、その時だ」

「そうね。まぁ、向こうが通信エリアに入ったら届くようにしておくか…」


お昼を回った頃、流石にお腹が鳴ってきた。

「さて、ボスの言ってた店…どこだ?」

タブレット端末を起動し、本体に付いていたデバイスを首とこめかみに装着。接続。

…起動。

『こんにちは!祥。』

「よろ…」

よろしくね

『了っ』

やっぱり心の声が駄々漏れしてるのにはちょっと慣れないというか…

ラーメン屋さんってこのあたりにある?

『うーんと。無いみたいですね』

「え?」

『あ、ラーメンを扱ってる店なら三件ありますね』

「あー。びっくりした。とりあえず、ガイドお願い」

『わかりました』

視覚サポート起動。焦点差分修正。適正確認。

『表示するから目を閉じといてください』

わかった

瞼の裏に、レナの姿が現れた。

数日前に手綱さんが開発した、より便利にするための機能。

制作の手伝いはしてたけど、完成した時の手綱さんの喜び様はすごかった…

『ふー。やっとこっちに来れた!』

やっぱり変わるの?目の中とデバイスだと

『うーん。こっちの方が情報処理が楽だからね。それに、デバイスにいると本部のデータ処理の山が…』

あーなるほど。

『あ、そうそう。ここら一体圏外だからさ、どこかの公園に出て、本部と通信しときたいんだけど』

わかった。だったら…

『?』

「城の裏にある庭園でも良い?」

『オッケーです!』

じゃあ行こうか

何回かしか来たことは無いけれど、今から行く庭園はちょっとした思い出があったから。

『どんな思い出ですか?』

「うわっ!」

聞こえてるのか!

『あー。聞こえてないでーす。』

いやね、ちょっとした出会いがあったんだよ。

『なるほど。その出会いとは!?』

今から2年前くらいだったかな。まだ、ここらへんを行き来して暮らしてた時にね、同い年ぐらいの女の子にそこの公園で会ったんだ。

『ほうほう。つまり初恋ですね?』

いや?違い…ますが?

ただ…その後あったような…そうじゃないような…

『…そう言うことにしておきますね。』

まぁ、そんなわけで、折角だし久しぶりにいってみたいかなーっていうか、見ておきたいっていうか、なんというか…

『そうでしたか。あ、あそこですか?』

そうそう

『何か変わったところはありましたか?』

うーん。花がちょっと変わったぐらいかな…

『そうでしたか。あ!本部からデータ来てました。少しデバイスに戻りますね。』

はーい

あぁぁ…なんか緊張した。

心の中が筒抜けってわかると、何も考えれなくなる。

『どうしました?』

いや、なんでも…ないよ?

そうじゃん。別に視覚にいなくても、ダダ漏れだったわ。

『祥!本部から買い物リスト含む7件のデータ来てました!』

おぉぉ!ちょっと遅い気もするけど…

他のデータもいけそう?

『あと、21秒です!』

りょーかい。じゃあ先にマップデータだけ見せてー

『はいな!』

ん?目の前に目的の店が…いや、何も無いが?

でも確かにマップ上では目の前にあることになっている。

ねぇレナ。目の前にビルなんてある?

『あと3秒待ってください!』

「ん」

先に目を閉じ、なんとなく耳を澄ませた。

途端、聞き覚えのある声が聞こえる。

一歩。たった一歩進んだ時だった。

体が一瞬ふわりと浮く。

「んっ?」

『確かにマップ上には建物が…ってええ?視界に入ってみたら何事!?』

目的の店みたいだ…

『ほうほう。なんででしょうかね。まぁ、結果オーライってやつですね!』

そう…なのか?

『はい!まぁ、目的地着いたみたいなんで省エネモードに切り替えますね。また必要があれば読んでください、』

わかった。サポートありがとね

首のデバイスはそのままで、こめかみのデバイスを戻し、タブレット端末に戻した。

普通に使い続けてると電池の消費がすごいことになるんだそうだ。

まぁ、電気も有限だし…

取り敢えず歩みを進めていくと、また一つ扉があった。

「よしっ!」

扉が少し重い音を出し、ゆっくりと開く。

「いらっしゃい。奥の席詰めて座ってくんな。」

「わ…わかりました。」

奥のテーブルを見ると、どこかで見たことある女性が一人。

縁のなかった制服を纏い、最近モニター越しにみた髪飾りをつけた女性。

でも、そこで見る前にも見たことある人。

「…ここ、空いているわよ」

「し…失礼します」

「いいわよ、そんな堅苦しい感じ」

「わ…わかった」

…やっぱりそうだ。

「ねぇ、私たち、どこかで会ったことなかった」

「多分…ある」

「だよね」

「うん」

「あそこの庭園で」

「花飾りを作った」

「懐かしいわね」

…でもそれだけじゃ無い。彼女は…

「次に会うのは戦場かしらね」

「え?」

「だってあなた、団員になったんでしょ?」

「なぜ...それを」

「その帽子と首につけてるデバイスを見たらすぐ分かるわよ」

「え?」

「まぁ、普通の人はそもそも団を知らないし、その帽子のおかげで記憶にも残りにくくなってるから」

「あー。それでこの帽子なんだ…」

「知らずに使ってたの!?」

「まぁ」

ふと、何かの圧を感じ横を向くと、入り口にいた店員らしき人が。

「注文。決まったかい?」

「私はラーメン」

「あ、僕もそれで」

「わかった」

にしても凄く屈強そうな店員だ…

「あ、君ここでは帽子外してても大丈夫だから。軍の人間も殆どがしりもしないわ」

「はい!わかりました!」

そういや、そんなこと言ってたな。

「あなた、少し変わってるって言われない?」

「いや…特に?」

「あー。そういやあの団変な人しかいなかったわね」

「よくご存知ですね」

「まぁ、一応王女だから」

やっぱり!前に山の中で見かけた時は、髪色とかしかよくわかんなかったけど…

「んん?じゃあ、どうして王女様はどうしてこんなところに?」

「まぁ、今色々とあってね…城の中でも結構居ずらいのよ」

「そ...そぅてすか」

「何か、歯切れが悪そうね」

「よくよく考えてみれば、一国の王女とラーメン食べるんだなぁって」

「まぁ、これからまた会うことになると思うわ」

「そうなの?」

「ええ…近いうちにね」

「ふむ…なるほど?」

ん?何やら香ばしい香りが…

「へい。おまち」

「おぉー来た来た!やっぱりここはラーメンに限るわねぇ」

「美味しそう…」

「冷めないうちにいただきましょ!」

「うん」

「いただきます!」

器からは一層美味しさを引き立てる匂いと、初めて見る形のお肉や色のついた卵、見たことない黒くて薄いものものっていた。

「うっまっ!」

王女様。厳密に言えば第二王女だけど…

そんな王族の姿をちらっと見ると、さっきとは打って変わってとろけきった顔になっていた。

「な…何?」

「美味しそうに食べてたもんで…つい」

「はいはい。早く食べないと麺伸びるわよ?」

「そうなんですか!? 伸びても美味しそうだけど…」

目の前で、豪勢に啜る王女。ああ、なんか伸びるのも勿体無い気がするっ!

一口。また一口と口の中に入れ、その味を楽しんだ。

「あれ…」

気ずくと、謎の黒い板…なんか湿ってふにゃふにゃだけど。

それしか残ってなかった。

「あなた、海苔は食べないの?」

「これ、海苔って言うんですか!」

食べれそうなので、恐る恐る口に入れてみると、前に体験した海と同じような香りとラーメンの旨味、そしてちょっと変わった食感が楽しめた。

「海苔って、最初見た時みたいにパリッとしているやつも美味しいのよ?おすすめは、海老名さんが作ってるやつだわ。多分ここのも、その店のを使っていると思うわ」

「やけに詳しいですね…」

「そりゃあ第二王女ですもの。」

「そう言うもの…ですか」

「ええ。まぁ王女…いや王族自体に意味なんてほとんどないけどね」

そうだった。この国について教わったときなんとなく、そう教えられたな。


…にしても、言われてみるとどこかすーちゃんに似ている。

髪色や雰囲気は違うけど、肌の色とか…目の色とか

「今度はどうしたの?顔まじまじと見られるとそれなりに恥ずかしいんだけど」

「い…いえ。知り合いにどことなく似ていて」

胸がドキンっとした。

「そ…そういえば」

いや、ここで戦争の話はまずいし…なんか…なんか話は

「おすすめのデザートってなんですかね」

何聞いてるんだぁああ。だめだ、これしか思いつかねぇ。

「…ワッフルかしら。ここのは格別だった記憶があるわ」

「そ…そうなんですね」

「ご注文は以上で?」

「はい。ってええ!?」

「あ、私はいつもの」

急に横にいかつい店員が現れ、注文をとられた。

「じゃあ、皿下げますんで」

そういって二人分の皿を下げて厨房に戻っていってしまった。

「やっぱりあなた、面白いわ」

「そう…ですか?」

「ええ。今度こっそり団に遊びに行こうかしら」

「はい!?」

「冗談よ冗談。ただでさえ姉様が自由組に入ろうとして大騒ぎだったってのに、同じような迷惑をかけるわけにはいかないわ。」

「そ…そうですか」

「でも、最近どこかの誰かさんが自由組を潰したとか?」

咲楽さんっ!!

「そ…そんな、そんなことが…あったんです…ね…」

「ワッフルお待ち。嬢ちゃんはいつものだ」

そう言って、机にはワッフルと呼ばれるお菓子と、お皿に盛られたデザートの山が置かれた。

「…ここの美味しすぎて困るのよ」

「たくさん食べますね」

「やけ食いよ。やけ食い」

「な…なるほど」

結局この後は何も話すことはなく、先に食べ終わった僕がそのまま外に出た。

…海苔買って帰ろう。


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