手綱の挑戦
「そろそろ、デバイスにも新しい機能が欲しい」
整備室に呼ばれて向かうと、そんなことを告げられた。
「新しい機能とは?」
「具体的に言うと、デバイスの声に形を与えるということだ」
「それって…」
「あぁ。昔の本でよく描かれているようなやつだ。」
「はい?」
「これを見てほしい」
そう言って、壁に映し出された一枚の絵。
「…神絵」
「そうだ」
この家には資料室なる場所があり、そこでは世界各国の多種多様な本が置いてある。
一応デバイスからも読むことはできるが、ほとんどの団員は実物の本で読むことが多い。
特に人気なのは、この国の言葉で書かれたマンガというジャンルだ。
次いで、ライトノベル。ここではラノベと呼ばれることが多いそれらの本も人気が高い。
ただ、戦闘班の方はデバイスを使って読むことが多くあまり資料室には来ない。
そのわけとして、戦闘班にいる人は割と海外マンガを好む傾向があるらしく、原作だと読めないからだそうだ。
かくいう私は色々なものを読んでみたが、どれも面白いなぁと思ったので、取り敢えずこのままたくさんのジャンルを読みたい。
余談だが、ここの料理本についてる付箋は陽さんのものだとか…
で、先ほど出てきた”神絵”
マンガやライトノベルに多く、デバイス開発をしている人たちを中心に、デバイス本体の起動画面にしている人が多い。
その神絵の中に登場するキャラクターを、直接視界で動いているようにするのが今回の目的らしい。
「ついに…ついにやるんですね?」
「あぁ。適性がSの赤隥君がいるからな。色々と試しやすい環境になった上に、ようやっと頼んでいた品が届いたのだよ。
「おおお!」
整備室が湧き上がる。
「これだ」
手綱さんが一枚の紙を広げた。
そこには”神絵”と同じようなイラストが描かれていた。
キャラクターを前、横、後ろから見た感じと、服装や髪飾り、キャラクターカラーなどが横に添えられていた。
「まさに神っ!まさに至高っ!たまんねぇぜえぇええええ!」
そう言いながら、一人の整備士が涙を流しながら幸せそうな表情を浮かべていた。
他の整備士も舐めるように見回したり、拝んだり。
「データも送っておいた。これをもとに、ハ-ナビシステムに実装するぞっ!」
「おぉぉっ!」
こんな感じで始まったプロジェクト。
まずはイラストを立体的にし、衣装や髪を丁寧に落とし込む。
イラストでは表現しきれなかった顔の凹凸や髪の質感を拘りながら、数日かけて元となるイラストを3Dに描き出した。
次いで、その3Dが動いたときにより自然に、より現実に忠実に。
また、逆に現実ではあり得ないようなエフェクトを追加することで、さらにそのキャラクターを無限に表現していく。
僕はそれらの情報一つ一つがデバイスと身体との間で問題なく映し出されるか、また安定するかを試しつつ、気になるところをどんどん上げていった。
二週間ほどで、動きや互換性が整い、次にハ-ナビシステムの持つ膨大感情データと身体情報をもとに、自発的に動けるようにする工程に入った。
最初は顔と体の動きが一致しなかったり、嬉しいって言いながら眠っていたりとなかなか安定しなかったが、度重なる機械による自己学習と人による補正作業が功を奏し、かなり自然に動けるようになった。
そして次に、人と受け答えをしながら自然かつファンタジックに動けるように調整し、さらに情報を追加した。
ここまで十数人の団員が日夜協力して開発を行った。
そして作業開始から1ヶ月半。
とうとう実用レベルまで使えるようになった。
「できた…できたんだっ!」
モニター上で眠っている姿のイラストの女の子。
「これが、赤隥君のデバイス。レナっ!」
最初名前などは決めてなかったが、僕の相棒を魂としてどんどんと成長させていったため、レナの名前をそのまま宿し同期させた。
「さぁ、赤隥君。実際に付けて感想をくれないか?」
「はい。」
起動。超汎用自立型人工頭脳。レナ。
『お久しぶりです。祥っ!』
久しぶり。どんな感じ?
『そうですね。新しい気持ち…とでも言い表しましょうか。動きやすくなった…そんな感じですね。』
そう?何か違和感は?
『全て問題ありません』
そう言って微笑んだレナ。
「成功してますっ!」
「よかったぁぁあ!」
「違和感とかは?」
「ないそうです。全て問題ないと言って笑顔でしたよ」
「おお〜っ!」
「では次に情報処理のテストだ。準備はいいかい?」
いける?
『もちろんですっ』
「はいっ!」
まずはこれとこれ。あと、この施設のデータを送るからデバイスで処理して、赤隥君のほうでこっちの操作をしてみて!
マウスとキーボード。それと10数枚の紙を渡された。
「では…開始っ!」
『祥。全部処理していいのですね?』
ああ。今回は僕の方で操作するらしいから、どんどん処理終わったら指示して!
『承知っ!』
ビシっと敬礼し、すぐさま解き終えたデータをもとに視覚上に映し出された手順をもとにどんどん手元の機材で操作していく。
次々に指示が目に浮かび、打ち込むこと5分。
データ上で立体的なこの施設が完成した。
『これで最後ですね
「…終わりました!」
「おいおいおい5分って…まじかよ」
「圧倒的な差で新記録じゃねぇか!」
「すごいな。ほぼ理論値通りだ。」
仕組みはよく分からないが、データを処理するのと視覚に表示するだけで、実際的な操作を担わず、さらには処理できるスペースも広かなって…とにかく、今まで機械単体でやっていたよりも更に早く便利に行えるようになったらしい。
「最後の試験…いけるか?」
「ちょっと待ってくださいっ!」
ねぇレナ。僕はいける気がするんだけどどう?
『問題ありません。既に祥との接続は成功しています』
「いつでもいけます!」
「よしっ。じゃあそこのベットで横になってくれ」
「わかりました」
ベットで横たわると、周りから人が離れピピッという音が聞こえた。
「それじゃあ最終検査 完全同調機能 起動っ!」
次第に体の感覚が消えてゆく…
「あとでな」
「…はい」
全ての感覚が消え、レナと入れ替わるように意識下に自分が移った。
一応データ処理の流れやら、視覚の外を見ることはできるが、真っ白な空間に一人浮いていた。
ほんとに暇じゃん
『お話し相手になりましょうか?』
そう言って、目の前に自分と同じように存在するレナの姿が映った。
いや、最速で処理を終わらせてくれ。それまでゆっくりしてるからさ
『了』
目の前からレナが消え、そのまま眠るように思考を止めた。
『…祥っ!課題完了です。多少の受け答えを終わり次第、機能を切るんで準備しておいてください!』
準備?
『…気持ち…的なやつです。』
りょーかい
数秒経つと、次第に感覚が戻ってきて、最後に視覚がもとに戻った。
「おかえり」
ただい…
「ただいまです」
「内部空間はどうだった?」
ひ…
「暇でした」
「何か違和感は?」
し..
「しゃべる前に心の声が先行…したりしなかったり」
「治りそうか?」
「もう治りつつあります」
「なら良し。では、試験は大成功だっ!」
「よっしゃぁああっ!」
この日、整備室は歓喜に湧き上がった。
そして、今回作ったレナをもとに他の適性Sの人から順に導入していくんだそう。
でも、適性Sが陽さんと、釘縞さんだったとは…びっくりした。
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