動き出した世界と、壊れかけの記憶

あれ…さっきまで…別のところにいた

「あ、今回は大丈夫そうね」

「え?何かありましたか…」

「急に部屋から出てきたと思ったら、叫んで、倒れたのよ」

「へ?…恥ずかしい姿を…みせた…ってこと…ですか」

「…すごく力強そうだったわ」

そう言いながら奏音さんが枷を外してくれた。

「あ、ちょっと、安静にしてなさい!」

立ちあがろうとしたら、すかさず止められてしまった。

「君、今の体調わかってる?」

「え?ちょっと火照っている感じがしますけど…」

「今体温が42℃なんだよ?」

「わぁ…」

「こうして会話できてるのが不思議なぐらいよ」

「そうだったんですね」

「さ、水飲んで寝るっ! 一応ミネお手製の薬も入っているから楽になるはずよ」

「あ…ありがとうございます」

あ〜。沁みる…

「ほんとっ、狐巳さんも言ってたけど。祥くんは苦労するわね」

「そう…ですか?苦労かけてる気しかしませんけど」

「そんなことないわ。君がここにきてからみんなの笑顔が増えたというか、前よりも楽しくなってるもの。」

「そうですか。よかったです」

「さ、寝な寝な。次起きた時に布団一式変えちゃうからね」

「は〜い。ありがとうございます」

再び眠りにつくと、全く夢を見ずに時が流れていった。

カーテンの隙間から陽の光がさしている…

「おはよう。祥くん」

「あ…奏音さん…。おはようございます」

「まぁ、もうお昼なんだけどね」

「ってことは丸一日ぐらい寝てましたか?」

「三日寝てたわ」

「嘘ですよね?」

「いえ。流石に起きなすぎて怖かったけど、デバイス使って健康確認しても問題なかったから…とりあえず、点滴だけしておいたの」

「そうだったんですか」

「ほんと、体は丈夫なのね…」

「え?」

「デバイスの精密チェックしたり、他の救護兵が診たりしたけど、驚くほど何もないんだもの」

「そう…でしょうか。でも、寝続けていたわけですし…」

「それについてだが…」

ボスが部屋の入り口にいた。

「お前、神に接触したんじゃないか?」

「神…そんな気がします」

「やはり。私の予想は当たっていたか。」

「え?」

「何。気にしなくて良い。お前さんが寝続けていたのは、その神という物質…あるいは生命体が干渉下からに過ぎん。だから、普通にしておれば良い」

「わ…わかりました。」

「それと、あまり神に関わるな」

「……」

「肝に銘じておくようにな。」

ボス…

それだけを言い残し、どこかへ行ってしまった。

「まぁ、神だかなんだか知らないけど、とりあえず安心したわ」

「…はい。あ、なんだか風呂に行きたいです」

「風呂かぁ…ちょっと、誰か呼んでくるから待っててちょうだい。流石に病み上がりの風呂は色々と怖いわ」

「わかりました。ありがとうございます。」

しばらくすると、神仇さんが来た。

「おう坊主。やーっと意識取り戻したのか?」

「はい。心配かけました…」

「なーに。今元気ならそれでいいっ!」

「ありがとうございます」

「で?風呂入りたいんだって?」

「はい。もう、汗だくだくで…」

「よし分かった。ほれ、立てるか?」

三日…四日ぶりに、

立とうとすると流石にふらついた。

「よっと」

「え?」

生まれて初めておんぶされてしまった。

「どうだ?この方が楽だろ?」

「いや…でも…」

「いいんだいいんだ。ちょっと面白そうだからやってるだけだ。」

「そう…ですか」

安心する背中…

いつもより少し高いだけの視界だったが、いざ見てみるといつもと全く異なるように見えた。

あ、あの看板曲がってたんだ〜とか、明かりここだけ違うんだな〜とか。

別にだから何だ?っていう感じだけど、いつもと違って見えるだけで、楽しくなってきた。

「そうそう。今日の風呂だがな…」

「待ってください!当てますからっ!」

「ほーう。じゃあ何だと思う?」

「えーっと…お茶湯ですか?」

「残念っ!」


汗まみれの服を脱ぎゆっくりと体を流した。

「わぁ………」

真っ赤っ!

「狐巳がどうしてもと言うんでな、真っ赤な風呂になったって訳だが…」

神仇さんが、桶で湯を掬う。

「よ〜く見てみぃ。」

なんか、キラキラしている…

「星屑の湯ってやつでな、少しアワアワしていて入ると気持ちいいんだ」

「おぉー」

ゆっくり足先から浸かる。体に纏わりついていた汗とか汚れがはじけていく感覚っ!

「気もちぃぃい〜」

「で、顔をつけてみ?」

言われた通りに湯船に顔をつける。

マナー悪い気がするけど、言われたんだから仕方ない。

恐る恐る顔を近づけると、パチパチとしている音が聞こえる。

うおっ!?

顔をつけた途端、目鼻にそのパチパチとした何かが触れてくすぐったい。

「どうだ?面白いだろ?」

「…ふ…ふぁい〜」

少しそのくすぐったさを楽しみ、顔を洗って風呂を出た。

食堂に行くと、まだ昼過ぎなのに豪勢なご飯が並んでいた。

「なんすか…やば」

つい感嘆の声が洩れる。

「復帰祝いだっ!これでも食って、早く元気になれよ!」

料理長…

「また、話し相手になってもらわないと困るでな。はよ、元気になるんじゃい!」

狐巳さんっ!?

「ほれほれ。これ、地元で有名な身体をあったまる料理だべ。食いいや〜」

「いやいや、なんで熱あった祥にあっためようとするもん食わせるねん。ここはアイスが一番じゃろ?」

みなさんっ!

たくさんの人が、色々と持ってきてくれた。

流石に全部は食べきれなかったけど、いつにも増してものすごい量を食べた。

それから、少し皆さんと遊んで久しぶりの自室に戻った。

あれ?綺麗になってる…

「陽くんがね…」

「琴さん…?」

「私は止めたんだよ?」

「んん!?この部屋に何かされてる!?」

「あ!戻ったんだね。良かった良かった〜

横にある机の上にはお菓子の山。

「まさかこれ…」

「全部で作りなの」

「嬉しいですけど…」

「ちなみにだけど、昨日と一昨日は作った分を私が食べる羽目になったわ」

「うわぁ〜食べ切れるかなぁ」

「本当に不器用なんだから…。陽くん!言いたいことあったんでしょ?私は邪魔だろうから出てくけど、しっかり伝えるのよ」

「う…うん」

扉の外に行ってしまった琴さん。

「やっぱり…琴さんには敵わないなぁ」

普段あまり見せない表情の陽さん。

「…ごめん。こうなる前に、僕が何かできてれば…」

全く、僕の先輩は…

「別に何ともないですよ! むしろ皆さんに心配されちゃって役得…みたいな?だから、気にしないでくださいよ」

「でも…僕が色々とやらせてたから…」

「そのことなんですけど…ボスのこと、少し分かった気がするんです。確かじゃないけれど、でもそれ以外あり得ないというか…」

「え?」

「ボスの奥さんも…神だったんじゃないかって。ボスの狙いはその神なんじゃないかってことです。」

「…そう…だよな」

「はい。あの時ははっきり言えなかったですけど、いまは違います。ボスの本当の狙いは神。だからか、僕が倒れたあとすぐに聞いてきたんです。”神と接触したか?”って」

「なるほど」

「で、やっと思い出してきたんですけど、熱の神様。そう名乗った存在に身体を乗っ取られてから、急激な体調の悪化があったんです」

「そうだったのか…。もうここまで分かれば…」

「僕は最後まで知りたい。過去を捨て去ろうとした時みたいに、その本質を解き明かしたい。そう思うんです!」

「いい…のか?また同じ間に合うかも知れないんだぞ?今度は死ぬかも知れないんだぞ?」

「大丈夫です!だって、そのために鍛えてますからっ!」

今は全然力出ないけど…

「…そうか…助かる」

「ええっ!どんと任せよっって感じです」

「ははは。そりゃ楽しみだ!」

結局お菓子全部残していったまま、出て行ってしまった。

それからまた数週間かけて、ゆっくり元の動きができるようにリハビリした。

次第にその時の記憶もはっきりと思い出してきて、メモ程度に書き留めておいた。

 神が人を求めている

 三割の神が、玉座を目指している

 神を消すことができるのは代命能力

けど、結局のところ目的が不鮮明すぎる。

ボスも神だった奥さんを求めているとして、何をしたいのか。

何をどうしたいのか。

なぜ、問題になっているのか。

曖昧にしか掴めない。

嫌な予感、不穏な香り、違和感。

そんな言葉よりももっと弱い。

それでいて謎めいた災厄の可能性。

また頭が熱くなったので、とりあえず筆を置いたが、まだピースが全然足りないのは確か…

結局、いつも通りの毎日を過ごすことしかやることはなかった。

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