疑念

    Λ


 宗教国家都市の南東部、その市場で賑わいのある酒場での騒ぎが収まります。

 わたくしめはフィオナーレとともにその場を後にすると、がいました。

 いかにもな修道服を着た少女と背の高い青年。

 人通りから少し離れた場所で、少女は青年の服の埃を払って話をしています。


「あの二人はどんな関係なのでありますでしょうか?仲が良さそうに見えますが、とても気になります……!」


「関わるのはやめておきなさい。休戦状態とはいえ、ここはわたし達にとって敵国。しかもシスターなんて……嫌なことを思い出してしまうわ。」


 物陰から何気なく様子を窺うわたくしめに対して、冷めた言葉で返事をするフィオ。


 以前、王政国家都市西部の樹海を実地調査し、遭遇した宗教国家の一派との戦闘を連想します。

 異様に背の高いシスターに異形の怪物、五感を狂わせた恐ろしい力。


 まさか……あのシスターの少女も似たような能力を持っているのでありますか?

 それに、あの男性も何か只者ではない雰囲気を感じます。

 もう少し近くで話を聴こうとして……フィオに袖を掴まれました。


「もうっ!あなたはわたしの付き添いでここにいるんだからっ。大人しくわたしの後についてきなさい!」


 わたくしめは右腕を組まれて、グイグイと引っ張られていき。


「あぁあ……待ってほしいであります!――あ、でもフィオが強引にわたくしめをエスコートしてくれるのは嬉しいであります……ふへへ。」


 その直後、照れた(?)フィオに背中を何度も叩かれるのでした。


    ψ


 牧歌的な風景が広がる宗教国家都市の南東部からの帰り道。

 乗り合いの馬車の中でわたしは考える。


 なぜ、この国は王政国家都市と過去に何度も衝突しているのか。

 わたしは五年前に田舎から上京してきたばかりで、国の歴史のことは気にしてなかった。

 薬学や植物学を始めとした錬金術の勉強に明け暮れていたせいでもあるけれど。


 さきほど遠目で見た、わたしと同じくらいの年頃のシスターは真面目で優しそうな雰囲気だった。

 それとも、王政国家にくみるわたし達と対峙したら、森の砦で会ったシスターのように容赦なく戦いになるのか……

 両国の戦闘に巻き込まれた事で興味が湧いてきた。

 ※仲間、力を貸している

「フィオ、ぼんやりしてどうしたのでありますか?」


 ベルファミーユに顔を覗き込むように訊かれて、流れる景色を見ながら答える。


「さっきのシスターと男の二人組を考えていたわ。」


「あのシスターさん、わたくしめ達と歳が近そうで背も低いのに、すごく胸が大きかったでありますねぇ。もちろん、わたくしめはフィオのお胸が一番ですが!」


「違うわよっ!あの二人はわたし達の敵かもしれないってこと!」


 まったくもって的外れでどうでもいいことを大声で言われ、慌てて大げさな手振りで訂正する。

 そのあと、周りの視線に気づいて小声で話を続けた。


「……あなたこそ、あの二人を見て何も思わなかったの?王政国家の騎士団員として何か感じた?」


 ベルファミーユは首を傾げながら腕を組んで考える仕草をする。


「そうでありますねぇ。あのシスターの方はとても戦いには向いていないタイプで……男性の方は立ち姿からそれなり以上に闘い慣れしているとは思いました。一度、手合わせをお願いしたいですねぇ。」


 なんとものんきな物言いだった。

 彼女らしいとも言えるし、いざという時にしっかり動けるのは長所かもしれない。


「まあ、いいけど。とにかく、何か問題に巻き込まれないうちに帰るわよ。多少、割高だけど定期便の約束も取りつけられたから収穫は十分だわ。」


 王政国家都市中央部の自分の家に戻ったら、また研究と仕事に励まないといけない。

 その合間に、王立図書館にでも足を運んで、歴史や調べ物をしてもいいだろう。

 馬車に揺られ、あくびをしながら一眠りするのだった。

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天蓋孤独の狂想曲~カプリチオ 黒乃羽衣 @kurono-ui1014

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