Evols Daughter

川崎双一

Evols Daughter

普段は性別不詳のカウンセラーとして心を病んだ人を治し、たまに完治した元患者を自殺に見せかけて殺害したり機嫌の悪い時はやりやすそうな相手を隠れて殺し死体に逆さまのハートを彫り込む。当地の都市伝説では「エボル」と呼ばれている人物の正体である逆様 愛 はとても困っていた。

イラついていた「彼女」は夕暮れの街で偶然肩がぶつかった1人の若者をつけ回したのち何故か都合よく彼が入っていったひとけの無い路地裏で絞め殺したあと、いつものようにその体にナイフで逆さまのハートマークを刻んでいた。しかし偶然その路地裏に住んでいたストリートチルドレンの少女にその一部始終を目撃されてしまったのだ。路地裏に放置されたゴミの山かと思ったそれは少女の家のようだった。その開口部からこちらを伺う視線と「彼女」の視線がぶつかった時「彼女」はこう思った

「その少女を放置すれば通報されるかもしれない」

「彼女」は少女も手にかけようとした。だが、それは彼女の『自分が楽しくない殺しはしない』という信条に反するものでもあった。さらに、痩せ細った少女を殺害するのは簡単でもその遺体を自分の「作品」と一緒に置いておきたくないという思いもあった。

そんな思いを一旦脇にのけ、やってから考えようと「彼女」は少女に歩み寄った。しかし少女は全く逃げる素振りを見せないどころか座り込んで俯いていた。

「あら、逃げないのかしら?」

「...あのひとをころしたの?」

「見て分からないかしら?見てたでしょ?一部始終」

「わたしの...おきゃくさんだったの...」

「彼女」はそこで全てを察した。肩がぶつかったのに脇目も振らず歩いていった男、何故か辺鄙な路地裏に入り込んだこと、入る前に周りをうかがっていたこと。なぜ少女がこんなところにいるのかということ。

「どうせ、わたしがころしたっていわれるから」

「わたしはいなくなっても、だれもかなしまない」

「だからおねがい。わたしも らくにして」

「.........(ため息)」

「彼女」はしゃがみこみ、少女の頭に手を置いて目を見据えてこう告げる

「嫌よ」

「私は人殺しよ。もう何人手にかけてきたかも分からない。」

「でもね、やって楽しくない殺しはやらない主義なの」

「あなた、幸せ?」

「…………わ…」

「いや、言わなくていいわ。あんなこと言う子供が幸せなら少年兵だって幸せよ」

「そんな子供を摘んだって、その死体をどうしようって悩むのは私なのよ。現にさっきも悩んでたわ」

「だからといってこのままにしておいたらあなたはいよいよ困り果てるでしょうね」

「疑われるのはあなただし、何を言っても取り合ってもらえないでしょうから」

「私は殺人以外で人を不幸にすることを良しとしないのよ」

「だから...あなた、私の子供にならない?」

「...ぇ?」

「私だって人を殺してご飯を食べてる訳じゃないの。本業は心の病気を治すカウンセラーよ」

「今日の事を誰にも言わないって約束してくれるなら、私はあなたの親としてあなたを保護して育てるわ」

「こんな路地裏でこんな奴らの相手をしなくても、ご飯も、暖かい家も用意できる」

「なんで……わたしを……?」

「なんでって...そりゃ私がそうしたいと思うからよ」

「私はあなたを幸せにしたいの。ええ、もちろん私の自分勝手よ。私の生きがいは人を幸せにすることなの」

「あなたが私の素性を誰にも明かさなければ、私はあなたを幸せにするし、危害からも守る」

「色々なことを教えられるし、ちゃんとした将来も保証する」

「さて、返事を聞こうかしら?」

「…………わたしは……幸せになりたい……。」

「なりたいです!」

「うん、いい返事ね。じゃあまず、ここから離れましょ?」

「人が来ない今のうちに、なるべく目立たないように」

「ところで、あなた名前は?」

「……ない...わからない...」

「みんな……すきによぶから……」

「じゃあ、今からあなたは『ラビ』よ」

「『逆様 ラビ』いい名前でしょ?」

「……うん」

いつしか日も暮れ、帰る者や遊び歩く者の増えてきた街を、2つの影が手を繋いで歩いていった。ここはアメリカ、カリフォルニア州サンディエゴ。この2人にこれからどんなことが待ち受けるのか…それは褐色の神も知らないだろう


To be continued……?




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