1
1
ドラゴンと別れたあと、僕はひたすらシアの城下町へ向けて移動を続けた。竜水晶の力のおかげで空腹や喉の渇きといった問題は解消され、歩くことだけに集中できたのはありがたい。
また、大きな不安材料だったモンスターとの遭遇もなぜか全くなく、それは野宿して寝ている時も同じ。これに関しては原因が分からない。
もちろん、戦わずに済んでいるのは喜ばしいことだけどね。そもそも戦闘になったら僕に勝ち目なんかないし。
いずれにしても、ひとりぼっちになってから約四日かかって、僕は無事にシアの城下町へ到着したのだった。
◆
町を取り囲むように佇む巨大な壁――。
見上げていると首が痛くなってくる高さで、それがどこまでも続いている。しかも一つひとつのレンガが整然と積み重ねられている様は圧巻で、どれだけの時間と労力がかかっているのか想像もつかない。
トンモロ村でも石を積み重ねて作った壁が段々畑などで見られるけど、積み方も形もバラバラで、見た目は綺麗じゃないからなぁ。それだってひとつ作るのに最低でも一か月はかかる。
さすが僕の住む地域で最大の規模を誇る城塞都市といったところか。
「それにしても、すごい人の数だなぁ。トンモロ村の何倍も人がいる……」
僕は町の賑やかさに圧倒され、目を丸くしながらついつい周囲を見回してしまっていた。
ここには綺麗な石造りの家が数え切れないほど建っていて、道はタイルのような石で舗装されている。村にあったような木造のボロ小屋や砂利道なんかは見られない。
もっとも、町の中をくまなく探せば、そういう場所もあるかもだけど……。
そこをたくさんの人が行き交っているのだ。好奇心が刺激されないわけがない。
老若男女を問わないのはもちろん、格好も様々。生活感の溢れた普段着を着ている人や制服を着こなして剣や鎧などを装備している兵隊、くたびれた感じの服を着た旅人、多くの荷物を馬に乗せて移動している商人、ローブを着こんだ魔術師――とにかくバラエティーに富んでいる。
さらに目鼻立ちや肌の色、体格などから多数の人種がいるであろうと容易に想像がつく。
僕のことも、みんなには『どこからかやってきた田舎者』って見えているんだろうな。
「いらっしゃい、いらっしゃーい! 採れたての野菜や果物が今日は大安売りだよー!」
幅広いメインストリートには市場が出て、あちこちから威勢のいい声が飛び交っている。そこでは商人や客たちがごったがえし、お祭りでもやっているのかというくらいの活気だ。
しかも取引されているのは食べ物や衣服、身の回りの小道具、工芸品、武具など、大抵のものは揃っている感じ。トンモロ村にあったよろず屋とは質も量も比べものにならない。
「……ん? この匂いはっ!?」
その時、どこからか香辛料や焦げ、羊肉が焼けた時の独特のいい香りが漂ってくる。おそらく市場のどこかに、焼いた羊肉を売る屋台が出ているのだろう。僕の口の中では勝手に唾液が溢れ出てくる。
でもそれは当然だ。だってトンモロ村では羊肉なんて新年を迎えた時とか村で誰かの赤ちゃんが生まれた時とか、何かのお祝い事がない限り食べられないご馳走だったから。
それが普通に売られているのだから、やっぱり町ってすごいッ!
「あ……食事……か……」
そういえば、僕は傭兵たちに置き去りにされてから食事をしていなかった。竜水晶のおかげで飢えと渇きがないからすっかり忘れてたけど。
ちなみに空腹と食欲は似て非なるもの。お腹が空かないからといって、美味しいものを食べたいという気持ちが消えたわけじゃない。羊肉の匂いを嗅いで唾液が溢れてきたのがなによりの証拠だ。
ただ、何かを買って食べようにも今の僕は1ルバーも持っていない。このままじゃ、宿に泊まってふかふかのベッドで眠ることも出来ない。やっぱり旅をするにはある程度のおカネがないとなぁ……。
――では、どうやっておカネを手に入れようかな?
●道具屋で持ち物の何かを売る……→8へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927859115438262/episodes/16816927859116108327
●冒険者ギルドで仕事を探す……→24へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927859115438262/episodes/16816927859116650460
●メインストリートで物乞いをする……→18へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927859115438262/episodes/16816927859116455299
●町を徘徊して、落ちているおカネを探す……→16へ
https://kakuyomu.jp/works/16816927859115438262/episodes/16816927859116410653
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます