今の僕ではギルドに冒険者としての登録をすることが出来ないと分かり、ドッと疲れが出た。


 そういえば、町に着いてからずっと歩きっぱなしだった。受付のお姉さんの話だとここで休憩するのは自由らしいから、少し休ませてもらうことにしよう。


 というわけで、僕は近くの空いているテーブルに行って椅子に腰をかける。久しぶりに座ることが出来て、足がちょっとだけ楽になる。


「――あ、軽食を提供している売店もあるんだ」


 よく見てみると、フロアの隅には受付とは別のカウンターがあって、そこでは飲食物が提供されていた。


 それはセルフサービスになっていて、購入した飲食物をテーブルに運ぶのも食べ終わって食器を返却台へ片付けるのも、自分でやる必要があるらしい。


 ただ、中にはテーブルの上に使用済みの食器類を置きっぱなしにしてギルドを出ていく人も結構いるみたい。みんなの共有スペースだという意識があまりないのかも。


「汚らしいなぁ、もう……」


 僕は別に過度なきれい好きというわけではないけど、そのままにしておくのもしのびない。だから放置された食器類を片付けることにする。


 さらに売店で布巾を借りて、テーブルの上を一つひとつ拭いていく。


 やっぱり綺麗な方がみんな気持ちよくフリースペースを使えるし、売店のお姉さんだって助かるはずだもんね。




 その後、小一時間ほどでフリースペース内のテーブルは全て綺麗になり、僕はあらためて椅子に座って休憩をするのだった。


 するとその時、売店のお姉さんがやってきてグラスに入ったジュースを僕の前に差し出してくる。


「お疲れ様。食器の片付けをしてくれて助かったよ。このジュース、サービスね。それともし良かったら、掃除や食器洗いなんかを手伝ってくれないかな? もちろん、お駄賃は出すよっ♪」


「え? あ、分かりました! ぜひやらせてください!」


 どうやら売店のお姉さんは僕の働きを高く評価してくれたみたいだ。しかもお手伝いをすればお駄賃もくれるという。当然、僕はふたつ返事で引き受ける。


 こうして図らずも僕は仕事にありつき、少ないながらもおカネを手にすることが出来た。そして仕事が終わったあと、お姉さんから『時間があったら明日以降も手伝いに来てほしい』と誘われたのだった。


 これでしばらくは食いつなげるかも……。


 →30へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859115438262/episodes/16816927859116870954

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