その後、僕はレーナさんと一緒にメインストリート沿いにある洋服屋さんや小物屋さん、化粧品屋さん、アクセサリー屋さんなどをハシゴした。


 ただ、実際に何かを買うということはほとんどなくて、商品を見ながら楽しく世間話をしたりお互いのことを話したりしている時間の方が主体だったと思う。だから荷物持ちとしての仕事も小さな紙袋をひとつ持つくらいだった。


 そして今は喫茶店というお菓子や飲み物を中心に提供するお店に入って、僕は甘い食べ物をご馳走になっている。ガラスの容器に雲のような甘い泡や果物が盛りつけられていてすごく美味しい。これはパフェというお菓子らしい。


 僕はこんなに甘いお菓子を食べたことがない。というか、食感も初めてで心地良くて夢中になって食べてしまっている。


 一方、レーナさんはニコニコしながらお茶を啜って、そんな僕をじーっと見つめている。


「……あの……どうかしましたか?」


「べ~つにっ♪ ただ、美味しそうに食べてるなぁって思って」


「は、はぁ、そうですか……」


「今日はアリガトね、アレス」


「いえ、僕の方こそありがとうございます。こんなに美味しいものをご馳走になっちゃって。荷物持ちの仕事もあってないようなものでしたし。しかもお小遣いまでいただけるなんて」


「いいのいいのっ。アレスと一緒にお店を見て回ってるだけで楽しくて、おかげで気が晴れたよ」


 その時のレーナさんはクスクスと笑っていたけど、瞳はどことなく寂しげだった。



 心に何か悩みのようなものを抱えている――そんな感じ。



 そして彼女は視線を逸らして物憂げな表情になると、そのまま沈黙してしまったのだった。


 僕は声をかけていいのかどうか、もし声をかけるとしたら何を言えばいいのか分からなくて、何も言葉が出てこなかった。レーナさんを気遣ってあげたいのに、何も出来ない自分が情けなくて、歯がゆくて、悔しかった。


 やがてレーナさんはポツリと呟く。


「私ね、子爵家のひとり娘なの。でね、昨日、私の政略――」


 そこまで言ったところで彼女は再び口を噤んでしまった。気が付くと瞳にはうっすらと涙が浮かび、体が小刻みに震えている。



 もしかしたら今までずっと気を張っていて、それがちょっとだけ緩んだのかな……。



 年上のお姉さんだけど、今の彼女はまるで幼子のような守ってあげたくなる弱さに包まれている。だから僕は意を決して口を開く。


「レーナさん、僕は剣も魔法も使えません。腕力もないし気弱だし、知識があるわけでもない。でも話を聞くだけなら出来ますよ?」


 その直後、レーナさんは小さく息を呑んだ。そのあと、指で目元を軽く拭いながら笑みを爆発させ、僕の頬をやや乱暴につねってくる。



 ちょっと痛いぃ……。



「年下のクセに生意気だぞっ、ふふっ。その気持ちだけで充分。お姉さんは強いんだ!」


 レーナさんに晴れやかでスッキリとした秋の空のような笑顔が戻っていた。


 そして喫茶店を出る時にはお小遣いとともに、彼女が前髪に付けていた髪留めも渡されたのだった。髪留めは今日の思い出として、とっておいてほしいとのことだ。



 ※アイテム『レーナの髪留め』を手に入れました。メモをしておくと今後、役に立つかもしれません。


 →30へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927859115438262/episodes/16816927859116870954

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