少しでもギルドへ登録できる可能性があるなら、僕はそれに賭けたい。



 僕自身に何の力もないことは誰よりも分かっているけど、万が一ということもある。最後まで諦めちゃいけないんだ。


 だから僕は勇気を出してその場にいる冒険者パーティの一つひとつに声をかけていき、仲間にしてくれないか問いかける。


 ただ、どこの馬の骨とも分からなくて、見るからに戦力外な僕に興味を持ってくれる人なんて誰もいない。近寄るだけで煙たがって、シッシと野良犬を追い払うかのような手振りをされることもある。


 たまに会話に応じてくれたとしても、僕に戦う力がないことを知ると断られるというのが続いたのだった。


 そしてほとんどのパーティに声をかけ終え、もはやこれまでかと思いかけていたその時のことだった。


「雑用係で良ければパーティに加えてやってもいいぞ」


 僕のパーティ入りを承諾してくれたのは、二十代くらいでレザーの鎧を身につけた戦士風のお兄さんだった。


 彼は無造作に長く伸ばした黒い髪をバンダナで留め、目付きは鋭く冷たい感じ。また、露出した腕や足の筋肉は小麦色に焼けて隆々としている。そしてテーブル席にひとりでいて、瓶に入った琥珀色のお酒をラッパ飲みしていたのだった。


「雑用係で構いません! 僕を仲間にしてください!」


「それじゃ、パーティのリーダーに紹介するから一緒に来てくれるか?」


「あっ、はいっ!」


 その後、僕たちはギルドを出て、メインストリートから何本か路地を入った先へと移動した。


 そこは住宅が密集して迷路のようになっていて、道にはゴミが散乱していたり血痕のような汚れがあちこちに付いていたり、あるいは汚物や吐瀉物なんかが放置してあったりして、あまり衛生的な感じはしない。


 また、残飯が腐敗したような臭いも漂っていて、長くいると気分が悪くなってくる。これだけ建物が入り組んでいると、空気の流れは悪そうだもんなぁ……。


 そして周囲にはあまり人の気配がなく、その中を僕たちは沈黙したままゆっくり歩いていく。


「あのぉ、どこまで行くんですか?」


 沈黙に耐えかね、僕は前を歩くお兄さんに問いかけた。


 すると彼は立ち止まり、わずかな間をおいてからこちらへ振り返る。直後、目にも留まらぬ速さで僕の後ろに回り込み、両腕で首と顔を締め付けられてしまったのだった。


 強い腕の力で拘束され、身動きが取れない。何が起きたのか分からず、僕は目を白黒させる。




 ……というか、呼吸は出来るのに体全体が苦しくて目の前が霞んでいく。


 力も……抜け……て……。







 意識を取り戻した時、僕はボロ布一枚を着て馬車らしき乗り物の荷台に座らされていた。


 幌で囲われているから外の景色は分からない。ヒヅメの音と車輪が回る音、砂利が転がる音だけが響いている。また、全体が上下左右に揺れ、お尻がその衝撃で痛い。


 そして僕の足首には鉄球の付いた足かせ、両手首はロープで拘束されている。


「こ……れは……?」


 周りには僕と同じ格好をした同年代の男の子や女の子が何人かいて、その多くが死んだ魚のような目をしていた。まるで心が壊れてしまっているかのような印象。辛うじて瞳に意思の光が残っている子もひたすら啜り泣くばかりで、とてもじゃないけど見ていられない。


 どうやら僕はギルドにいた男に騙され、奴隷として売られる運命になってしまったらしい。なるほど、雑用係というのはこういう意味だったのか……。



 は……はは……は……。



 思いがけず僕にも仲間が出来た。周りにたくさんいる。



 もうすぐ僕も痛みや悲しみ、苦しみ、そのほか全ての感情がみんなと同じように消えることだろう。




 そう考えると、この運命も悪くないのかもしれない……。



 BAD END 2-1

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る