終章

終章

「さーて、ラスカくんがボクのことを愛したいと思っている事がわかったから、これからは愛の巣探しの旅に出ますかねー」

「…………は? 何を言っているんです? ラスカが愛したいと思ってくれているのは、私です」

「皆、独占欲が強いねぇ」

 クゥニたちがわいわい騒いでいる隣で、俺は穴を掘って埋まってしまいたい気持ちに囚われていた。泣き止んで冷静になったが、俺はさっき、かなり格好悪い言葉を吐いて、情けない態度を取ってしまっていた。羞恥心で死にたくなるが、死なないと決めた以上、生きなければならない。俺は気を取り直すように、大きく背伸びをした。

「えー、でも、実際ボク、どっかのラスカくんラブラブ一直線っ子より、かなりいい働きしたでしょー? ボクがいなかったら、ラスカくん、あの場でマジに死んでたと思うよー? まぁ、そんなのボクが許さないけどねー」

「…………本当に、何を言っているんです? あなたが何もしなくとも、ラスカはあの後私への愛に目覚めていましたよ。そして生きる活力に満ち溢れ、そのまま二人で愛を深めあったに決まっています」

「あー、お二人さん。ラスカが立ち直ろうとするのを、言葉で邪魔するのは止めてもらえるかな?」

「ありがとう、メラス。でも、いつまでもここに留まってるわけにはいかないから」

 丸まりそうになった背中をなんとか真っ直ぐ伸ばし、俺は大きく深呼吸をした。その後、ズゥゼンに向かって問いかける。

「ズゥゼン。ズゥニチェニの死体は、どうする? 墓でも作るか?」

「えー? そんなことしなくていいよー。犬かなんかが片付けてくれるでしょ」

「そんなもんか……」

 苦笑いを浮かべていると、メラスが俺に向かって問いかけた。

「それで、ラスカ。まずは、どこに行きます?」

「……どこまでも、一緒にいますよ。ラスカ」

 クゥニが、俺の手を握ってくれる。目の前には、親の仇の死体と、荒れ果てた山肌。そして俺が巻き込んだ、吸血鬼の骸たち。立っているのは、それを引き起こした、俺と、俺の血を飲んだ三人だけだ。

 

 この世界は、不条理で出来ている。

 弱いものは強いものに虐げられ、蹂躙され、朽ち果てていく。

 

 ならば今、立っている俺は、強いものなのだろうか? わからない。わからないことが、多すぎる。でも、今この時は、今からこの体を流れている血は、俺を愛してくれる人たちのために使おうと、そう決めた。

 クゥニの手を握り返すと、彼女も同じ力で握り返してくれる。それに勇気をもらい、俺は吸血鬼と人間たちが住まう混沌とした世界へ、新たな一歩を踏み出した。

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Smolder Blood, Sweet Smell それらは全て、復讐のために メグリくくる @megurikukuru

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