エピローグ

 赤い男はどっかりと赤いソファに座り湯呑を傾けお茶を啜ると、向かい側に座っている右腕と左腕に話しかけた。


 「妹ちゃんに感謝するんだよ。僕は冥福を祈られない遺体には協力できないんだから」


 でも腕を折っちゃったのは悪かったなあ、と到底悪いとは思って無さそうな晴れやかな顔で笑い飛ばす。

 そして思いついたようにテレビを付けると、ニュースで真野一也が捕まったという報道がされていた。精神疾患で入院し、結局本庄優の両腕は見つからないままだそうだ。


 「右腕きみの依頼は左腕かたわれを取り戻す事だけど、ついでに本体の恨みも晴らせてよかったじゃないか。え?どうでもいい?薄情だなあ。本体あってこその君達だろうに。まあ腕はそういう子が多いからね」


 やっぱり両腕は揃っていないとねえ、と男は大きく頷いた。両腕は心なしか嬉しそうに寄り添いぴょんぴょんと跳ねている。

 するとその時、コンコンと扉を叩く音がした。

 おや、と嬉しそうに笑い、るんるんとスキップをして扉を開けた。そこにいたのは白くほっそりとした右腕だった。肌艶も良く、おそらく女子高生だろう。

 男はまじまじと右腕を見ると、ふうん、と笑った。


 「ようこそ。今度の右腕も饒舌そうだ」


 男は右腕を招き入れた。そしてまた右腕の求めるものを探し続けるのだ。

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探偵の饒舌な右腕 蒼衣ユイ @sahen

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