第57話 エピローグ
謙信との戦に勝利した十日後の昼。信長は、家康と十兵衛、半蔵を招き、三河との同盟祝いとして、甘味会という催しを開いていた。
残暑が過ぎ去り、気持ちの良い風の訪れを感じはじめる九月。信長が七歳のときに植えた柿が、ようやく実をつけたのだ。
清州城の縁側に座り、信長、利家、慶次、秀吉、可成、一益、恒興、信盛、長秀、家康、十兵衛、半蔵らは、柿、栗、ハチミツ、団子を食べながら茶を飲み、二国の同盟を祝った。
「尾張を統一したことで、俺の経済政策もいい感じに広がっているし、順風満帆だな」
信長の言葉に、長秀が返事を返す。
「尾張領内、警察力のために必要な関所をのぞき、全関所の撤廃が完了。例外的に残した関所も積み荷や通行人の身分の検査のみで、通行税は一切とっていませんよ」
恒興も、ぐっと握り拳を作って笑う。
「全尾張領内で徴兵を廃止。志願兵を募って、新しく五〇〇人の兵士を確保したぜ」
信盛も嬉しそうに、ニカリと笑った。
「三万の軍勢に勝って義元を討ち取った武功のおかげで、楽市楽座を受け入れる町は着々と増えているぜ。流石の寺社勢力も、いまのアニキには逆らえないみたいだな」
一益は真面目な顔で説明を引き継ぐ。
「おかげで尾張は自由商売の国として知られ、全国から商人が集まって経済が活性化して物と情報も全国から集まっているでござるよ。情報収集が楽でござる。にんにん」
利家は、すっかり板についたソロバン術で、戦費の計算する。
「それらの政策に反対した豪族公家は、昨日までに全部滅ぼし終わったしね。おかげでノブの直轄領が増える増える♪」
信長の隣で収支報告書を読んでいた慶次が、明るい声をかけてくる。
「魔王様、税収が右肩上がりですよ。魔王様の経済政策、大成功です」
「にぃにぃすごーい」
家康に褒められて、信長は得意げだ。
「当たり前だろ。何せ魔王だからな」
勝家の慌てた声がしたのは、信長が偉そうに胸を張ったときだった。
「大変です信長様! 急報です!」
「どうした勝姉?」
勝家は息を切らせながら、
「美濃の斎藤義龍が病死しました! 跡はその息子、龍興が継ぐようです!」
勝家の報告に、その場の全員が驚き立ち上がった。
「そうか。確か龍興は無能な武将だったはず。倒し甲斐は減るけど、ちょうどいい」
信長はニヤリと笑って、みんなに告げる。
「これから、対美濃戦のために考えた俺の作戦を発動させる。尾張全土の力を結集する。ここからは総力戦だ!」
信長の宣言に、仲間たちは大きく頷いた。
◆
空色の世界で、観測者は、水面に映る信長を眺めながら、嫣然と笑っていた。
「良いな。信長も、謙信も、千度の人生にはなかった観測結果を出している。これが、奴らの言う一〇〇一度目の正直か」
しかし、その顔はすぐに厳しいものに変わり、恐ろしい程に冷たい微笑を浮かべる。
「だが気を付けるがいい。私の寵愛を受けるのは、お前らだけではないのだからな」
観測者は、足元の水面に、別な人物の顔を映し出した。
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作品解説した通りここまでです。
人気があったら本格投稿したいです。
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