第18話 天野さんのマスクの下

俺と天野さんはショッピングモールの帰り、海岸線沿いを歩いていた。

時刻は四時ぐらい、日は傾いては来ているがまだ明るい。

「ねぇねぇ緑川君」

天野さんは俺の名前を呼ぶとこちらを向き

「ちょっと遊んでかない?」

と砂浜を指さした。


俺は天野さんは道路から砂浜へと繋がる階段を下ると、一緒に砂浜を歩いて海へと向かう。向かう速度は小走りだ。

天野さんは波打ち際までたどり着くと、そこで屈み

「ねぇ緑川君」

俺の名前を呼んだ。俺は屈んだ天野さんを覗き込もうとしたとき、天野さんは手を皿のようにして海水を持っていた。

そしてその手を俺に向けて海水を俺にぶつける。予定だったはずなのだがその海水は俺に届くことなく、天野さんの顔に遮られることとなった。

俺と天野さんは三秒間ほど目をぱちぱちさせると、天野さんの耳は急速に赤くなっていった。

天野さんは一度こちらを向き、そしてもう一度手を皿にして海水をすくい俺に海水をかける。

俺はまだ状況が把握できてなく、容赦なく俺の顔に海水がぶっかけられる。

「これでおあいこだ」

「いやおあいこもなにも天野さんが自滅しただけじゃん」

俺がそう言うと天野さんは「いや、違うから」とこちらを向き言い訳をしてくる。

その顔についているマスクは海水に濡れて若干透けている。

マスクは天野さんの顔に張り付いている。薄くピンクの唇が見えている。

やっぱりマスクの下も可愛かった。

俺は満足し、透けていることを教える。

「天野さんマスク透けてるよ」

俺がそう言うと天野さんは慌ててマスクを両手で隠し俺とは逆の方向へと向く。

「ちょっと待って」と言うと天野さんは肩にぶらさげてあった鞄のチャックを開け、そこからマスクを一枚取り出し今つけているマスクと取り換える。

「よし」と小さく呟くと天野さんはこちらを向き直る。

「今のは見なかったこととして忘れて」

天野さんはそう言うと波打ち際から少し離れた。

「砂で立派な城を作ったほうが勝利ってゲームしよ」

「言っとくけど俺小学生の時城の天才って呼ばれてたからな」

「それただ安土城とかの城の名前が詳しかっただけじゃん」

「杉山城って城好きだよ」

「いや聞いてないから」

俺たちは雑談を交わしながら着々と砂の城の建築を進めていく。

そして三十分後、日がだいぶ傾いて太陽の夕日が海に反射している。

そして二人ができていた城は二つとも愚作だった。

天野さんのはそもそもただの丸い砂の塊と化していて、俺のは一通り形はできているが窓とか屋根の作り方がわからず、結局砂の塊と化していた。

「引き分けとしといてあげるよ」

天野さんは視線を泳がせながら言う。いやこれ思った以上に城が作れなかったパターンだな。

「まぁ十点と三十点くらいの差だな」

「私が三十点か」

「お前が十点だよ」

俺たちはその砂の塊を一通り崩して帰ることにした。天野さんは少し名残惜しそうに壊していた。そこまでの作品だったかと思ってしまったがこれは口に出さないで置いた。

俺は家に帰宅すると天野さんのマスクが透けたことを思い出した。

そして

「やっぱかわいかったな」

と小さく呟いた。

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マスクの下も可愛い @kekumie

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