第8話 再会

しばらく歩くと突然開けた場所に出た。まるでそこだけスプーンですくい取られたように百メートル四方ほど茶色の地面が露出している。そしてその中程には見上げんばかりに大きな木が生えていた。かなり大きな木でその幹は自分が三人集まってやっと腕が回るほどに太い。

「あれ?何だか見覚えがあるような・・・」

僕は思わず呟く。前に木を見て全く同じことを思ったような気がする。

「おい、誰かいるぞ」

ペロが鋭い声を出す。その木の太い枝に誰かがいるのが見えた。僕は思わず木に駆け寄る。

「君は・・・!」

そこには少年と思われる人物が座っていた。なんて事のない長袖シャツにジーンズを履いていて、足元には個性的な蛍光ピンクのスニーカー。そのピンクはまるで光っているようで目にも鮮やかだ。そして顔には畑で見かけるような白い袋。

僕はこの子を知ってる。こんな個性的な見た目忘れるはずがない。

「君は夢で見た子?」

やっぱりこれはあの夢の続きなんだ。この不思議な場所の全てが夢なんだ。

僕はそう思い、安堵すると同時に夢が覚めた時の現実を思い悲しさも覚えた。

「これは夢じゃないよ」

高くもなく低くもない声が聞こえた。

「君は夢と信じたいのかな?また盲目に戻りたい?元からそうなるはずじゃなかったのにね」

少年はくくくと笑い声をあげた。まだ十三、四歳だと思われるのにずいぶん邪悪な笑い方をする。

「どういう意味だ。確かに僕は何の前触れもなく視力を失ったけど・・・」

そこでハッと気付く。

「君、何か知っているのか?僕の目のことを」

「さあね。今の君が知ってどうなるわけでもない」

少年はそういうと危なげもなく枝の上で立ち上がった。

「いずれわかることさ。それまでのんきに観光でもしていきな。ここは君みたいな奴にぴったりの場所だから」

「どういう意味だ!」

僕が少年に近付こうと一歩踏み出した瞬間。

ざあっ。ものすごい突風が吹き、葉っぱが舞い散る。そしてその葉っぱはまるで意思を持つかのように僕たちに向かって襲い掛かってきた。

「くそ!」

ペロが僕の前に立ち必死に守ろうとしてくれる。

「せいぜい犬にでも守られてるんだな」

少年の笑い交じりの声が聞こえ、気付くと葉っぱの嵐は止んでいた。

僕は慌てて木を見上げたがそこにはもう誰もいなかった。

「何だったんだあいつは。琉華、お前知っているのか?」

ペロは傷だらけの顔で心配そうに問いかけてきた。

「夢で見たんだけど誰なのかわからない。僕も混乱してるんだ。それよりペロ大丈夫なの?痛くない?」

「こんな傷どうってことない。犬時代なら人間にも気付かれない程度のかすり傷だ」

「でも君は今人間だから」

僕はポケットに入っていたハンカチで彼の血のにじむ傷をそっと拭く。

「ありがとう琉華。君が飼い主で私は嬉しい」

ペロはそう言って優しい笑みを浮かべる。

「大げさだなー」

何だか照れ臭くなり僕はうつむく。それにしてもさっきの少年は誰なのだろう。まるで僕の目が見えなくなった原因を知っているみたいだった。警察や医者でさえ突き止められなかったその理由。

「次に会ったら逃がさない。」

僕はそうつぶやき、ペロと共に春の国への道をまた歩み始めた。

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夢の続き 金木犀 @bubureader

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