第7話 春の国
近付いてみるとその門の大きさは圧倒されるようなものだった。石造りの壁が見渡す限り続き、その途中いくつかの場所にこのような門があるらしい。門の左側には詰所のような小さなブースがあり、そこに男性が一人立っていた。
「あの、すみません。ここは何かの施設でしょうか?」
僕は恐る恐る尋ねた。かなりいかつい顔をした男性だが背丈はあまり高くなく、170㎝前後の僕と同じくらいだった。男性は僕とペロを睨むように見た後、突然にっこりと微笑んだ。
「ああ、ここは春の国への入り口だ。君たちは旅でもしてきたのかい?それにしては軽装だね」
「え、ええまあ。そんなところです。それで国に入るにはどうすれば・・・?」
「いやーもう全然入ってくれていいよ。今門を開けるから」
男性はにこやかに言うとそばにあった木製の大きなレバーを引いた。その瞬間閉じていた門がゆっくりと内側に向かって開き、その内部が露わになった。
その門は町・・・ではなく深い森に続いていた。
「春の国は森を抜けたところにあるから。すぐわかるはずさ、楽しんでー」
男性は終始にこやかに言うと、自分の仕事は終わったとばかりにそこにあった木製の椅子に腰かけた。
「こんなにゆるくて門の意味あるのかな・・・」
森へ向かって足を踏み出しながら僕は疑問を口にする。これが本当に『春の国』とやらに続いているなら、そこには町があり人が住んでいるはず。訪問者が厄介な人間かどうか少しはチェックしないのだろうか。
「まあ僕の夢だし。こんなもんなのかな」
「だからこれは現実だと言ってるじゃないか」
ペロが僕の独り言を聞きつける。さすが犬なだけあって耳が良い。
「あーそうだったね。失礼しました」
僕はペロを軽くあしらうと目の前にうっそうと広がる森を見つめた。その森はかなりの木が茂り、木々が太陽を覆い隠さんばかりだったが暗いとか怖いとかいう印象は受けない。それどころか木の梢から太陽の光が差し込み幻想的でさえあった。
「きれいだね。あの人はすぐにわかるっていってたけど本当かな」
森はかなり深そうだ。しかし、その明るさから僕は恐怖心は抱かずまるでピクニックみたいでワクワクしていた。三年前に視力を失ってから学校にもほぼ行かず、学校行事にも参加しなかった。遠足とか課外授業とか小学生の時は大好きだったのに。そんなことを考えながら進んでいくうちに奇妙なことに気付いた。
「動物が・・・いない?」
森と言えばリスやウサギ、鳥などがいるものだ。それもこんなに平和な森なら尚更。それなのに姿どころか声も聞こえない。森はシンと静まり返っていた。
「生き物がいないってことではなさそうだがな」
とペロが近くの草むらを指さす。そこには小さなダンゴムシがいた。
「虫はいるのに動物はいないのか・・・」
僕たちは疑問を抱きながらも平和な森の中を進んでいった。
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