第35話 神の揺り籠
神を信仰する上で禁忌とは?って……また難しい質問を俺にしたもんだ。パッと頭に浮かんだのは死者を蘇らせる事だ。アンデットなんかは忌み嫌われる物の代表格だからな。
「死者を蘇らせることですかね?」
「この世界にはリザレクトやリジェネレーションなどの魔法が有るではないか。神殿でも使っておるしネクロマンサーのスキルも有る」
「あっ、そうか」
「ふふ、小難しい話は止めて話を進めようかの」
「助かります」
「限られた者以外は他言無用なのは心得ておるな?」
「もちろんです」
「消されたパーティの名は"全ては我らのもの"と言った」
「随分と不遜なパーティ名ですね」
「まぁ、語り継がれて来た話で本当の事かは判らんがな。パーティは4人で、そいつらは地位と才能に恵まれていたらしい」
「それじゃ天狗にもなりますね」
「そしてその4人に共通していたのは錬金術のスキルが突出していたことじゃ。この世界のトップ4と言っていいほどにな」
「凄いですね」
「そうじゃな。"全ては我らのもの"のダンジョン攻略は順調に進み最下階のボス、レッドドラゴンを倒した。そこで或る魔道具を手に入れる」
「それが宝物一覧から消された物」
「そうじゃ」
「それは?」
「神の揺り籠」
「神の揺り籠……どんな力が有るのです?」
「残念じゃが語り継がれているのはここまでじゃ、後は想像するしかない」
「……つまり話は最初に戻るのですね。神を信仰する上で禁忌とは何か?」
「そうじゃ」
何だ?このモヤモヤする感じは。不浄の門とは全く違う、この嫌な感じは?それでいて根底では繋がっているような……あ〜、もうイライラする。
「禁忌とは何か?を教えて頂く訳にはいかないのですか?」
「答えがそれとは限らん。考え方の1つを言ったまでじゃからな。まぁ、そうっだったとしも捉え方は多々有る。儂、個人として言うなら神と同じ力を欲することかのう。問題はやはり"神の揺り籠"は何か?と言う事じゃ」
「そうですね」
長老に御礼を言って隣の部屋に戻ると大司教とシスターが残っていた。
「どうかな?お役に立てたかな?」
「ありがとう御座います。近づくヒントは頂いたと思います」
「それは良かった。何か有れば直ぐに来るのだぞ」
「もちろんです」
大司教の眼差しはいつになく真剣だった。大司教も何かを感じとっているのだろう。
俺のスキルを知っているシスターは神父様に会いたいと思ったらしく、大司教に懇願して3日間の休みを見事にもぎ取った。
ーー
「なるほど、神を信仰する上での禁忌か、長老も上手い事を言う」
「それで考えてみたんですが"全ては我らのもの"の誰かが王家か公爵家の子孫で"神の揺り籠"を使ってやろうとした事がペラスバナ神聖国家にとって禁忌だったと言う事かと思うんです」
「それでその事実を抹消したと言うわけか。筋は通っているな。そして今、人狼が"神の揺り籠"を使ってそれをしようとしている」
「そうです」
「そんな事は絶対にさせてはダメよシン。直ぐにその人狼を捕まえなさい」
「シスター、簡単に言ってくれますね」
「シンなら出来るわよ、ねぇ皆んな」
「「「もちろん」」」
ホントに女性軍はお気楽だな。
その後の人狼の行方だが、ちょっとした情報でさえ金貨がもらえると言う事で、各ギルドの冒険者達が血眼になって捜し回ったが何も出て来なかった。"神の揺り籠"を盗んだ日から忽然と姿を消してしまったのだ。
こうなると俺達がリヴァイアスの街を離れた2日間は痛い。
悔やんでいる俺を皆は慰めてくれるが……。かと言って何もしないわけには行かないので、人狼の隠れ里を探る事にした。
誰に訊けば良い?
ーー
「残念だがワーウルフの隠れ里なるものの場所は判らないのだ。すまん」
「そうですか。仕方ありませんね」
その後エルフの国にも行ってみたがやはり知る者はいなかった。
完全にて詰まりだな。
「シン様、龍神様に訊ねてみてはどうでしょう?」
「まだその手があったか。良し行こう」
ーーーー
これでダメなら今度こそお手上げだ。
「シンさん、また大声で呼びますか?」
「いや、腹も減ったし飯にしょう。用意してくれ」
「あっ、なるほど」
俺の考えが解ったリサ達が食事の支度を始めた。直ぐに肉の焼ける匂いが辺り一面に広がっていく。
「食前酒はガバ酒で良いな。ミノタウロスの霜降り肉が焼けるまで皆で一杯やろう」
「「「賛成」」」
「か〜、やっぱり美味い」
「ホントに」
『これこれ、待たんか、ワシを放っておいて何をしているのだ。早くその酒をよこさんか』
「お久しぶりです龍神様」
『うむ、お主も元気そうで何よりだな』
「実はそうでもないんですよ」
『なんじゃ、自慢のイチモツが役にでも立たなくなったか?』
「そっちの方は元気なのでお構いなく」
『なんじゃ、つまらん』
「冗談はさておき、お訊きしたい事がありまして」
『ほう、言うてみい』
「人狼の隠れ里の場所を知りたいのです」
『人狼……奴らは静かに暮らしている筈じゃが?』
「実は……」
ーー
『……そうか、できればそっとしておいて欲しいのだがな、仕方あるまい。だがな奴らは決して悪い者ではない、そこは見誤らないで欲しい』
「肝に命じます」
『人狼の里はサルバレルカ山の南の森の中じゃ』
マジか、不浄の門が有った山の傍じゃないかよ。
「あ、ありがとう御座います」
『頼むぞ』
次の目標は決まったが、何か因縁を感じるのは俺だけか?
リッチにレベルを吸い取られた俺は、レベル0・スキル無し・年齢減少で冒険者失格~ 裏技でユニークスキル時空間創造を得たのは良いが、俺の巻き込まれ体質は変わらない 主水 @321155ma
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