第34話 やらかした

 人狼が屋敷に入ったからと言ってゾルト公爵が関係しているとは限らない。日を改めて、確かめるべくミイに潜入してもらった。


潜入して判った事はゾルト公爵本人はここにはおらず王都にいて、息子のゲルベ子爵がここの統治を任されているらしい。


そして子爵夫妻には難病を抱えている一人息子がいる。

要はその息子の為に人狼のパーティを雇い、薬を探させているという事だ。


理由が判って、いささか拍子抜けした感じだ。


「じゃぁ、子爵が何か企んだり人狼達が手先になって何かしてるわけではないのです?」


「そうなるかな」

「でも犯人ではないとも言えません」

「もちろんだ。これからも注意は必要になる」


義父にも一応は話しておいた方が良いと思い一旦戻る事にした。


ーー


「そうか、そんな事があったのか。わざわざすまんな、こちらでも注意しておこう」


「お父様、お気をつけてくださいね」

「分かっている、心配するな。シン、娘を頼む」

「はい」


一晩伯爵のお屋敷でお世話になり、翌日は教会に顔を出しに行く。手詰まりの時の神父様頼みというわけだ。



「おや、随分早いお帰りだな?流石は世界の救世主、もう青のダンジョンを踏破したのかい」


「そんなわけないでしょ、大体そこまで自惚れてはいませんよ。そんな事よりちょっと聞いて欲しい事が……」



「記録からパーティの名前が消されている?確かに妙だな。……1番に考えられるのはパーティの名とメンバーの名を知られる事に不都合が有るという事だな」


「誰にとって?パーティメンバーの身内ですかね。でも公の記録を消す事ができるのであれば、ある程度の力がないと」


「700年前という事であれば公爵家、或いは王家といえるかもしれん。消されていたのはそこだけなのか?」


「えっ?」

「『えっ?』ではない。他の部分はどうだったのだ?」


しまった。全く意識してなかったぞ。


「さては気にしてなかったな?」

「面目ない。確認して来ます」


ーー


という訳で再びリヴァイアスのギルドに行く事になった。


ダンジョンの所に時空間を設置しておいたので、リヴァイアスの街を出た3日後にまた戻る事が出来た。


「なんだか前に来た時よりも、やたら兵士や騎士が多いですね」


「ホントです」

「……とにかくギルドに行こう」

「「「はい」」」


ギルド内も慌ただしかった。やはり何かあったのだ。入口付近にいた冒険者を掴まえて直ぐに確認する。


「公爵の御屋敷から、なにか大切な物が盗まれたんだ」

「それで犯人は捕まったのか?」


「いや、相手が悪かった。犯人は"蒼き狼"なんだ」

「解った、ありがとう」


くそっ!大失敗だ、やっちまった感が半端ない。


俺達の姿を見たらしく受付嬢からギルドマスター室に行くように言われた。


「君達も"蒼き狼"討伐隊に志願しに来てくれたのかい?」


「討伐隊が組まれるのですか?」


「ああ、子爵からの依頼料もかなり高額だ。こうなるとリーダーの人狼が君達の捜している人狼という線も出てきたのではないかな」


「ええ、確かに。それで盗まれた物は何です?」


「それは教えて頂けなかった」


「……そうですか。実はもう一度例の一覧が見たくて来たんですよ」


「あれがそんなに気になるのかね?」

「はい、かなり」

「解った、入室の許可を出しておこう」



ーー


資料室に入ると直ぐに宝物一覧を開いて、皆んなで一斉に覗き込む。


「有りましたよ、これそうじゃないですか?」


「注意深く見なければ判らないくらい、パーティ名より上手く消して有りますね」


「シンさん、そんなに落ち込まないでよ、これが判ってたとしても"蒼き狼"が公爵の御屋敷から盗みを働くなんて想像は出来ませんよ」


「そうですともシン様、元気出してください」

「そうは言ってもなぁ」


「教会に戻って神父様にお話ししましょう」

「そうだな」


ーー



「やはり他に消したところがあったか」

「はい、宝物の中の1つが消されていました」


「そうか……」


神父様が目を瞑り深く考え込む。


「シン、お前も薄々気がついているのだろう?」


「はい、こうなると自分のバカさ加減に腹が立って来ます」


「しかしな、ここまで来て初めて解る事だ気にするな」

「リサ達にも同じ事を言われましたが……」


「もう!2人だけで納得してないで説明してください」


「おお、すまんな。つまりな宝物の一覧から消された物と盗まれた物は同じ物なのではないか、と言う事だよ」


「あっ、そうか」


「そうしますと消したのは神父様が仰った公爵家か王家と言うことになりますね」


「そうなるね」

「700年前に何があったのでしょう?」


「……そうだね、ペラスバナは神聖国家だから信仰絡みかもしれないね」


「知る方法は無いのでしょうか?」


「う〜ん。……シンよ王都に行って来ないか?」

「王都、神殿ですか?」


「もし信仰絡みなら神殿が何か掴んでいたかもしれん。長老の神官の方々から話が訊けるよう手紙を書いてあげよう」


「ありがとう御座います」



神父様の手紙を持って次の朝、王都に移動。自分で言うのも何だが時空間は便利だ。普通ならひと月以上かかるからな。


先ぶれはしていないが、いつものようにメダリオンを見せたら控え室に通された。そしていつものようにシスターが入って来た。


「シン、会いたかったわ、元気?」

「はい、お陰様で」

「……その顔は遊びに来たわけではなさそうね」

「そうなんです。これを大司教様に」


「また、何かあったのね?」

「残念ながら」


「解ったわ、時間がかかるかもしれないから別室で寛いでいて頂戴」


「お願いします」


ーー


4時間が経った頃、大司教が部屋にやって来た。


「やぁ、シン君、久しぶりだね」

「はい、忙しいところをありがとう御座います」


この大司教は俺よりちょっと年が上だが大司教としてはかなり若い。凄く有能な人なのだろう。


気さくでざっくばらんで話し易いし、人望も厚いに違いない。


「段取りはしてある。隣の部屋に長老がいる、話を聴くと良い」


「ありがとう御座います」

「大きい話にならない事を祈っているよ」


俺もそう思うもうけど……。


「失礼いたします」

「来たか。700年前に何があったのか?じゃったな」


「はい、お話しをして頂ければと」


「神を信仰する上で禁忌とされているのはなんじゃと思う?」


話は長老の質問で始まった。

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