第33話 ジレンマ
"蒼き狼"のリーダーが人狼と判った今、直ぐにでも後をつけたい衝動にかられる。義父のブロウット家より格上であるコルピーレ家の当主を殺した犯人と決まったわけでもないのだが……。
しかし、今は俺1人ではない。可愛い俺の嫁さん達が一緒にいる。下手にちょっかいを出して目を付けられては困る。
特にシンシアは吸血鬼の縁者なので非常に危険だ。
「今日は宿に戻ろう」
「シン様、何か有るのですね?」
「話は宿に戻ってからだ」
「「解りました」」
と言って、このまま帰るのも癪だ。
「ミイ、ちょっと頼まれてくれるか?」
「にゃ」
ーー
「"蒼き狼"のリーダーが人狼だったのですね」
「そういう事だ」
「コルピーレの当主を殺した人狼ですか?」
「それは判らん。お前が犯人か?とは訊けないしな」
「直ぐに居なくなるかもしれませんよ」
「確かにな。しかし、人狼は表にはあまり出て来ないものだが仮面を付け、ダンジョンの到達の記録更新までして目立つ事をしているんだ、直ぐに居なくなる可能性は低いと思う」
「そうか、このダンジョンにどうしても欲しい手に入れたい物が有るんだ」
「その通りだ。そうは言っても大体のいる場所は把握しておきたいと思ってはいる」
不浄の門のお蔭で多くのギルドマスターと顔見知りなれた。話を通しておけば、あの人狼が何処に行ってもある程度は情報は得られるだろう。
「それでミイを置いてきたのね」
ミイにはダンジョンの入口に造った時空間で人狼を見張ってもらっている。出て来たら根城を調べてもらいたいからだ。
一旦ダンジョンに潜れば何日も出て来ない事も有るので宿に造った時空間で合流する予定だ。
「でも人狼が手に入れたい物って何ですかね?」
「単純に考えればリザライトだが……」
「他に何があるか調べた方が良さそうですね」
「そうだな」
ミイから送られて来る映像を確認する。人狼達が出て来る気配はないのでミイは用意しておいたコジュケイ鳥のもも肉食べ始めたようだ。
お腹が膨れたからと言って寝ちゃダメだぞ、ミイ。
「ダンジョンの方は動きが無いようなので、ギルドで調べてからミイと合流しよう」
「そうですね」
「了解です」
「はい」
ギルド内は相変わらず混雑していたが俺達が入って行くとすぅ~っと通路が出来た。
「なんか凄いですね」
「シンシアのお蔭ですね」
「そんな、人聞き悪いですわレナさん」
「い、いらっしゃいませ本日はどのようなご要件でしょう?」
受付嬢まで顔が引きつっている。シンシア恐るべし。
「資料室に行きたいのだが」
「畏まりました。しばらくお待ちください」
受付嬢は手続きしにを行ったのか奥に行ってしまったが、直ぐに戻って来た。
「資料室にご案内する前にギルドマスターがお会いしたいそうです」
「解った、会おう」
「ありがとう御座います。では、こちらへ」
受付嬢に促され2階のギルドマスター室に入る。
「わざわざ済まないね、この世界を救った立役者に是非会ってみたくてね」
俺達の事は調べたらしいな、それなら話は早い。
「そんな大層なものではないですよ」
「謙遜しないでほしい、心からそう思っているのだから」
「ありがとう御座います」
「ここへはやはりダンジョン攻略かね?」
「そのつもりだったのですが」
「だった?」
「ええ、あまり先入観を持たずに聞いて欲しいのですが……」
ーー
「つまり君の友人が人狼に殺されて、たまたまこのダンジョン街で人狼を見つけたと」
「ええ、犯人と決まったわけではありませんが、今後"蒼き狼"の移動情報が欲しいのです」
「ふ〜む、……移動情報程度なら協力しょう」
「ありがとう御座います」
「それで資料室で何を調べたいのかね?」
「ここのダンジョンに出てくるドロップ品の種類とかを知りたいのですが」
「なるほど、ここのダンジョンは700年前に1度クリアされているんだが、その時の宝物庫にあった物の一覧なんかどうかね?」
「良いですね」
「では、案内させよう」
ーー
資料室に案内されてからミイの様子を見ると人狼に動きが有ったらしく、後を追っている。合流は出来ないのでそっちはミイに任せて俺達は資料を調べることにした。
700年前にダンジョンを踏破したのはSSクラスのパーティだった。
「ん?」
「どうしました?シンさん」
「踏破したパーティの名前と面子の名が載ってないんだ」
「ホントですね。……でもこれ消した跡じゃない?」
「あっ、本当だ」
「でも、何ででしょうか?」
「見当がつかんな」
最下階のボスはレッドドラゴンだった。宝物の中で特に目新しい物は無かった。強いて言えば"リザレクトの雫"ぐらいか。
帰りがけにギルドマスターになぜパーティの名が消されているのか訊いてみたが理由は判らないらしい。
仕方ないので皆で宿に帰りミイの動向を見る事にした。
「ミイちゃんの方はどんな感じです?」
「ちょっと待ってな、どれどれ」
ミイが追っている馬車はこの街に戻って来たようだ。その馬車は俺達が泊まっている宿がある通りをぬけ、貴族の住宅地へと進んで行き、そしてかなり大きく立派な屋敷の前で止まった。
「良し、ミイそこまでだ。戻っておいで」
「にゃう」
「誰の御屋敷でしょう?」
「下の酒場でそれとなく訊いてみるか」
程よく酔った連中にエールを奢ったらご機嫌で喋ってくれた。
「ああ、あそこか?あそこはゾルト公爵の御屋敷さ」
公爵?王族の可能性もあるのか。だとすると、なかなかの大物のようだ。
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