第32話 謎のパーティ

 俺の可愛い奥さん達の勧めでダンジョンに行くことになった。商人のバンダさんから赤のダンジョンが踏破された話を聞いた時から、ウズウズしてたのだ。冒険者になったからにはダンジョン攻略は夢でもあるからね。


俺の気持ちを察してくれる良い奥さん達なのだ。


「シンさん、それで何処のダンジョンに行くつもりですか?」


「そうだな……どうせなら行った事のない所が良いかな。ペラスバナ神聖国家の青のダンジョンがいいな。エルフの国のすぐ南だから時空間も使えるし、久しぶりにドゴスにも会いたい」


「そうですね、ドゴスさんの様子も気になりますね」



そうと決まれば直ぐに出発だ。生活道具は全て時空間の中に揃っているので準備など必要はない。



「全員いるな」

「「「はい」」」   

「にゃ」


屋敷の庭に設置して有る時空間とエルフの国に設置してある時空間を繋げると東側に扉が現れた。


「よし、移動しよう」


「いつも思うけど、ホント便利よね」

「無敵ですよね」

「シン様は世界一の旦那様ですもの」


なんだかムズ痒いな。


時空間を移動するとエルフの国の青空が見える。今日も良い天気だ。



時空間の外に出て街道を進むと防壁が見えて来た。王都内に入ると活気も有り、行き交う人達は皆んな穏やかな顔をしている。



「平和ね」

「エルフの国は雰囲気が違うから特にそう感じるのよ」


「確かにな」

「でもいつもと様子が違いますね」

「そうか?」


そう言われれば露店の数もいつもより多い気もするが。


「リベリアの実を1袋頂こうか」

「毎度ありがとう御座います」


「いつもより露店の数が多いが何かあるのかい?」

「来週から精霊祭が始まるんですよ」

「あっ、なるほど。どうも」



「シンさん、知っているのです?」


「いや、知らん。後でオルフェリアさんに訊いてみようと思ってさ」


「シン様は変な所でカッコつけるから」


シンシアがいたずらっ子を見るような目で俺を見て笑っている。なんか気恥ずかしい、どうも今日は調子が狂うな。



城門に近づくと衛兵が直ぐにやって来た。無言でオルフェリアさんからもらった短刀を見せると、最敬礼されすぐに控えの間に案内された。



「良く来てくださいました」


5分と経たない内に入って来たのはオルフェリアさんだ。


「先ぶれも無く急に来て申し訳ない。青のダンジョンに行くことになったので寄らせてもらいました」


「シン殿なら構いませんよ。お知らせしなければならない事も有りますし」


「何です?」

「もうすぐドゴス殿が見えますからその時に」


なんだろうな?頭をひねって扉を見ていたらドゴスがひょっこり現れた。



「よう、シン。元気してたか?」

「ああ、お陰様でな」


「まずは紹介しよう。入っておいで」


ドゴスに言われて入って来たのは5人の女性、そのうちの1人はエミィさんだけど……。


「エミィは知っているな。右からルシル、レイカ、サラ、クリスで全員俺の奥さんだ」


「「「「はいぃ?」」」」


「いやぁ、エルフと人族では受胎率が悪いって言うんで全員と結婚する事になったんだが、そうしたら全員に子供ができたんだ」


「「「「はぁ~!」」」」


「俺って凄いだろ」

「そ、そうだな」


「シンも3人も可愛くて若い奥さんがいるんだ、頑張れよ」


「お、おう、任せとけ」



ドゴスのやつ、完全にエルフの手のひらで転がされているな。まぁ、本人が幸せなら良いけど。


この世界にとってターンツ血は重要だ。これでエルフの影響力は増すだろう。エルフもなかなか抜け目が無い。


ーー


オルフェリアさんに訊いたところ、精霊祭とは初代国王サティアスが森の精霊と契約した日を祝うお祭りだそうで14日間行われるそうだ。


うまくすれば帰りに見る事が出来るかもしれない。


一晩お城でお世話になって、青のダンジョンに向けて出発する。



「ドゴスさんデレデレでしたね」

「皆んな美人でしたもの」


そうそう、それにナイスバディだったしな。


「シン様も頑張るのですものね?」

「そ、その通り」


やはり、この旅はやりにくい。



エルフの国を出て2日後、馬車はペラスバナ神聖国家領に入った。


半日でダンジョン街、リヴァイアスに着く。この街はダンジョン街の中でも特に規模が大きい。


エリクサーを作る為に必要な青い宝石リザライトが出るからだ。


「今日は宿でゆっくりして、明日ギルドに顔を出してからダンジョンに行こう」


「「「はい」」」




ーー



翌日、早々にギルドに向かう。思った以上にギルド内は冒険者でいっぱいだった。


でもこのギルドは依頼を受ける所というより、ダンジョンで問題が起こった時の為と素材の買い取りが主な業務となっている。


俺がキョロキョロしてたのが気に食わなかったのか大男が近づいて来た。


「おう、おっさん」

「お、俺ですか?」


「そう、お前だ。小娘3人も連れてチャラチャラしやがって、邪魔なんだよ」


「あ~、ギルドでからまれるなんて何時ぶりだろう。あれは俺がまだ駆け出しの頃だったな。なんか新鮮な感じ」


「何を思い出に浸って訳の分からない事を言っていやがる。どけって言うんだよ」



気の短い奴だ。もう殴りかかって来た。


「おい、見ろよゴンザレスの奴、また弱そうなおっさん相手に息巻いてるぜ」


「小遣い稼ごうって言うんだろ。……待てよ、あのおっさん何処かで見たような、3人の可愛い娘連れ……あっ、思い出した。エルフの王都や城が襲われた時に襲った連中を蹴散らした奴らだ」


「えっ、まじか」

「バカ!ゴンザレス、止めろ!……あ~、遅かったか」



俺に向って来たパンチは当たらない。シンシアが男の腕に触れると男は中に舞い、今はシンシアの足で顔を踏まれている。


「私の愛おしい旦那様に何をするのです」


あ~、あの時もリマリスが、からんだ奴をやっつけたんだっけ。


最近、シンシアは執事のシルバーさんから体術を習っているのだが、だいぶ腕を上げたようだ。


シンシアに顔を踏みつけられた男は気を喪っていた。ギルドの様子を見に来ただけなので長居するつもりは無い。


外に出る為に振り返ると混んでいた筈のギルドは出入り口まで綺麗に通路が出来ていた。


「どうも、お騒がせしました」


俺達は何事も無かったように外に出て馬車乗り場に行く。




「シンさん、着きましたよ。さっきからニヤニヤしてどうしました?」


「ん、何でもないぞ」

「怪しいです」


甘酸っぱい昔の記憶を思い返していると定期馬車がダンジョンに着いたらしい。


街で宿をとりダンジョンに向かう。高くぶ厚い防壁をぬけるとまた小さな街があった。


この街でも生活は十分出来るくらい店が揃っている。ここでダンジョンに潜る為の物を調達するのだろう。


店を見ていると急に周りの冒険者達がざわめき出した。


「見ろ"蒼き狼"の奴らだ」


「たった3週間で最高到達階の記録を塗り替えた奴らだ」


俺達も気になって冒険者達が見ている方を向く。皆が噂しているパーティ"蒼き狼"は獣人のパーティだった。


虎、熊、狼族、ここまではなんの問題もないパーティなのだが、先頭に立っている仮面をつけた男が問題だった。


俺の鑑定では人狼だったからだ。


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