人狼 編

第31話 吸血鬼の死

 不浄の門が消え去って半年が経つ。行方不明だったレダス神官に操られていた奴隷達は少人数だが助ける事が出来、前に助けた奴隷達と合流して、ウルム村の南に住居や畑を造り始めている。


妨害を重ねていたレダス神官は死罪となった。メレ一族のレダスが死ねばターンツの血筋が残るか心配だが、ドゴスがエルフのエミィちゃんと一緒に住むらので大丈夫だろう。エルフは寿命も長いしね。


気になるのはレダスが処刑される時に言った言葉だ。


「私が死んでも私達の怨念は必ずこの世界を滅ぼす。覚悟するがいい」と言ったそうだ。


皆は気にしすぎだと言ったが、"私達"が引っかかる。

言葉のアヤだと良いが………。



神父様はここの教会に戻って来た。俺はというとリサ、レナ、シンシアとスローライフってやつを楽しんでいる。


今日はシンシアの実家に行くことになっているので女性陣は、おめかしの真っ最中だ。



「シンさん、用意が出来ました」

「そうか、じゃあ行くか」



時空間の中に入って、伯爵の屋敷の庭に埋めてある時空間と繋げる。東側の壁に扉が現れたので皆で隣の時空間へ移動すると、いつものガジュの樹がみえた。




「ようこそお越し下さいました。シン様」

「お世話になります」



執事のシルバーが出迎えてくれる。


「シルバー、元気そうね」


「はい。シンシアお嬢様も、お元気そうでなによりで御座います」





「待っていたぞ」


扉を開けると満面の笑みの伯爵がいたが……。



吸血鬼である伯爵は普段から青白い顔色なのだが、今日は一段と青白くみえる。


義父様おとうさま、顔色が悪いようですが、心配事でも?」



些か照れくさいが、伯爵が嬉しそうな顔をするのでこう呼ぶ事にしている。



「うむ、後で話そう。さあさあ、皆んな食事の用意が出来ている」



「楽しみです」




この日の為に食材を手配してくれたのだろう、山海の珍味が揃っている。



特にガモウという樹の側に生えるガモウフンゴというキノコは、香りと言い食感と言い実に良いし、マーレという海の生物の内蔵を干したボッタルガはガジュの実で作った辛口の白ワインによく合う。



どっちも女性陣にはウケてないみたいだが。まあ、大人の味って言うやつだ。しかし、伯爵の心配事が気になるな。



シンシアに会ったので伯爵も元気になった様に見える。楽しい食事が終わり、場所を移動して高級なハーブティーをご馳走になる。




香りのいいハーブティーを飲みながら伯爵の顔を見ると目が合う、伯爵は軽く頷いて話し始めた。




「シンにだけ話そうと思っていたのだが、皆も知っておいた方が良いだろう。先日、吸血鬼の真祖の中でも格式の高いコルピーレ家の当主が殺されたのだ」



「えっ、そんなに簡単に殺されるような人ではないでしょう」



「その通りだ。我がブロウット家より数段格が上なのだからな。しかしバラバラにされ、心臓が無かったそうだ」



「心臓が無い……」


漠然とした不安が押し寄せて来る。


「誰が殺ったか判っているのですか?」


「ハッキリとはしていないがワーウルフの毛が落ちていたそうだ」



ワーウルフ……。俺は出会した事は無いが、それは普段は人の姿をしているが狼の顔を持つ人狼に変身する。一見、獣人の様だが一線を画する存在だ。



遥か昔、何らかの呪いによって人族がワーウルフになったと言われているが……。



「我ら吸血鬼は古来よりワーウルフを下僕として扱って来た。その恨みではないかと考える仲間もいるのだが……」



「そうなんですか?聞いたことが無いですけど」


「だいぶ前からそういう風潮は無くなっていたからな、今では知られていないのであろう。吸血鬼も正面切ってこの世界の者達と争う気も無く、表に出ず上手くやっていく事にしたのだ、ワーウルフも我らより解放されひっそりと生きているものと思っていたのだがな」



「そうなんですね」


「シン、シンシアを頼むぞ」

「はい。義父様おとうさまも気をつけてください」

「うむ」






ーー




「伯爵は息災だったかね?」

「ええ、元気でした。ただ心配事も有るようで」


「どうした?」

「それが……」






「そうか、高位の吸血鬼がバラバラに……しかしワーウルフにそんな事が出来るだろうか?私は心臓が無くなっている事の方が恐ろしく感じる」



神父様の言う通りだ。俺もそう思う。


「俺もそっちの方が嫌な感じがします」

「いちおうシスターに伝えておくとしよう」

「そうですね」



「シンさん、バンダさんが来ましたよ」

「分かった、今行く。神父様、行って来ます」


「ん」




この村に定期的に来てくれる商人のバンダさんに、各地の情報を聞くのが楽しみの1つになっている。




「やぁ、バンダさん。どう?景気は」

「良いですよ、絶好調」



「へぇ~、どうして?」



「ゼオノバ王国は遷都する事になりましてね」


「王都を移転するのか。新体制にするんで惨劇が有った忌まわしい場所を嫌ったな」



「ええ、それで物や人手が必要で各方面の景気がいいんですよ」



「で、何処に?」

「南のバトゥの街と周辺の村を統合して造るそうです」



「ふ~ん」



「そうそう、ダイオン帝国の赤のダンジョンが攻略されましたよ」



「ほんとか?どんな奴?何回層有った?お宝は?」



「おっと、流石は冒険者、食いつきがいいですね。ルオウパって人がリーダーで4人組のパーティで、地下80階だったそうです。お宝については何も教えてくれなかったみたいですね」



「そうか」



情報料の代りに馬車に積んであった食材を全部買い取る。



「毎度ありがとう御座います」


「おう、またな」




ーーーー



「シン様」「「シンさん」」

「ん、何だ?」



「もう良いんじゃない?」

「何が?」


「お尻がムズムズしてますよ」


「そうですよ。そろそろ休みは終わりにして、前から言っていたダンジョンに行ったら」


「お前達……いいのか?」

「もちろん私達も一緒ですよ」


「よっしゃ、行くか」

「「「はい」」」




休養は十分に取ったし、いっちょうやったるか。

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