第30話 熱く長い1日が終って

 まさか攻撃されるとは思ってもいなかった。最初から時空間の中で魔道具を作動すれば良かったのだ。俺の痛恨のミスだ。


奴隷達の中に土魔法を使える者がいたのだろう。ファイアーボールの攻撃と同時に造っていた土台が崩れてきた。


咄嗟に時空間の台座を造り、すくいあげたのだがエルフの魔術師の半分は置き去りになってしまった。


奴隷達の集団が迫ってきている。


「ミイ、ライと2人で残ったエルフ達を頼む。俺もすぐ行く」


「にゃにゃ」



「「レダス!」」


「えっ?シスター、ドゴス、2人が知っている者がいるんですか?」


「彼が行方不明の神官よ」

「生きていたのか」


「あいつは俺の幼馴染みだ。とは言っても積極的に人付き合いをする奴ではなかったな。巫女の家系だと言っていたが」


「シンさん、不浄の門が少し大きくなっています」


「ああ、……くそっ!」


「シン殿、ここに居る者だけでも魔道具に魔力を入れましょう」


「私達もやります」

「俺もだ」


「頼む。残りの人達を何とか連れてくるから、踏ん張ってくれ」


「はい」「お任せを」



時空間の台座を固定してミイ達の加勢に行く。駆け登って来る奴隷達をミイとライがウィンドカッターで、腕と脚を切り落として行動不能にしている。


何とか助けてあげたいが、1000に近い人数を時空間に入れるのは無理だ。時空間20個の数制限もあるし俺の魔力にも限りがある。すまない皆、勘弁してくれ。


重い気持ちで奴隷達を時空間に入れては閉じていく。後には屍の山が次々と出来上がっていった。


ゼオノバ国王を殺し奴隷達を連れ去った手配中の男爵の姿は無かった。シスターとドゴスが言っていた神官だけは捕える事にする。


ーー


「シスター、そろそろ私達の魔力が……」

「俺もだ」

「こちらも後1/3位しか残ってない」


「皆、……後少しなのに、シン!早く!」




行方不明だった神官がエルフの魔術師達に攻撃を加えようとしている。



「やめろ!」


「くそ、何だお前は。何故いつも私の邪魔をする?」


「邪魔をしているのは貴様だレダス!今は問答している暇はない。この中で大人しくしていろ!」


レダスを時空間の中に閉じ込める。


「ミイ、ライ、よくやった」

「にゃ」「がうぁ」


「さあ皆さん、こっちに来て下さい。あそこまで一気に行きます」



「助かった。頼む」





「……もう、だめ」「シン様」「シン!」

「くっ」




「待たせたな!」

「シン!」「遅いぞ!」「シン殿」

「助かった」


不浄の門は20mまでになっていた。合流したエルフの魔術師達が交代する。魔力回復薬を皆に渡す。


「魔力が回復したら、全員で行くぞ」

「はい」「おう」



「シン様、行けます」「私達も」

「いいぜ」「お待たせしました」


「フルパワーで行きますわよ」

「よっしゃ、頼みます」



再び不浄の門との力比べが始まった。1分、2分……。



[ピシッ!]


「何の音?」「まさか」「嫌な感じ」


「おい、おい」「止めてくれ、神様、お願い」

「ナーシャ様」


皆の願いは虚しく魔道具は真っ二つに割れた。


「なんて事だ」「……」


気力も魔力も無くなった俺達は、真っ二つになった魔道具の周りに、うつむきしゃがみこんだ。


いや、シンシアだけが空を見ている。目だけで俺も空を見た。


不浄の門を指し示していた光の線が無い。


「お、おい、皆、見てみろ」

「糞、何だよ」



「シンシア、無いよな?」

「は、はい。消滅しています」


「マジか?」

「本当です。無いです、やったー!」


「シン、やったのですね」



「ええ、エルフの皆さんもありがとう御座います」


「ぎりぎりでしたね」


達成感を噛み締める様に、全員が暫く立とうとしなかった。


「俺は、もうこんな思いはしたくねぇ」



「そうはいかない。お前には大切な役目がある」

「何だ?」

「ターンツの血を残し繋げて行くことだ」


「へへん、それなら心配無いぜ」

「ん?」


「エミィちゃんと一緒に暮らす事になってるんだ」


「えっ?」


いつの間に。手が早いのは……ドゴス、お前の方か?




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「ドゴス、元気でな」


「ああ、シンのお陰で色んな経験をさせてもらったよ。たまには遊びに来てくれよ」


「分かった」


不浄の門が消滅した件は今回もエルフの国が各国へ連絡してくれる事になった。


セレブレイの霊脈枯渇の問題は、龍神様曰く龍の谷東部にも有ると言うので、そこから採る算段が整うまでの間、エルフの国の物を有償で使わせてもらう事となった。


奴隷達を使って俺達の邪魔をした神官だが、勇者とは繋がりは無かった。しかし、シスターに村の事を頼まれた時、メレの村にはいかなかったそうだ。お陰で命拾いしたのだろうか?いや、勇者と結託してもっと酷い事になっていたかもわからない。


と言うのも、俺達の邪魔をした理由は勇者と同じだったからだ。


巫女の家系だったレダスの祖先は、魔力量も多く真っ先に生け贄として選ばれたそうだ。残った家の者達は、子供達に怨み辛みを切々と幾度と無く聞かせていたらしい。それが何代も何代も続けば洗脳され、心も歪んでくる。


だがドゴスは違った。環境が変わって一歩間違えば、わからなかったが。


奴隷達とは、シスターに不浄の話を聞いた直後に偶然出会ったそうだ。そして驚いた事に、風のダンジョンから大聖堂に戻って来た時から、きちんと身なりを整えた奴隷達に俺達は見張られていたって事だ。


行く先々に奴隷達が現れたのも、獣王国で奴隷達を捕まえるのを失敗したのも俺達の行動が筒抜けだったからだ。


1つ気になるのは、ゼオノバ国王を殺したヴァランという商人が未だ見つかってない事だ。不浄の門が消滅した今、彼は正気に戻っているのだろうか?





        ☆☆☆☆☆



「あなた、食事の用意が出来ましたよ」

「えっ、今行く」



甲斐甲斐しくリサとレナは俺の世話をしてくれる。


「お風呂場でシンシアが待ってますよ」

「そうか」


2人に促され風呂場に行くとシンシアが裸で待っていた。


「お背中流します」


俺って3人と結婚したんだ。幸せだ。


「今日は、私がお情けを頂戴する日ですからね」

「お、おう」


手が滑ったふりして、オッパイを触る。柔らかい。


「あん、ダメ!あ・と・で」


これは夢ではない。今度は現実だ。不浄の門が消滅した後、いろんな国から御褒美をたくさん貰ってウルム村に戻り、教会の側に屋敷を建てたのだ。


もちろん、リサ、レナの国とシンシアのお屋敷に行って、長と伯爵にはちゃんと許しをもらったし、時空間も埋めて有るので、いつでも里帰りが出来ると言う寸法だ。


これでやっと俺も、ゆっくりのんびり人生を楽しむ事が出来そうだ。


ベッドでシンシアを抱きしめながら余韻を楽しんでいると、神棚に居る理の神ナーシャ様の像と目が合う。


ニコニコ微笑んでいるナーシャ様を観ていると、う~ん。


巻き込まれ体質の俺の事だ。なんだか、そうは問屋が卸さない人生なのだろうな、と言う気になってきた。









ー不浄の門編ー   終幕


次章は人狼編になります。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る