春のコーヒー

 その日は小山さんと古書店巡りをしていた。向こうがついてこいというので、暇だったから、何か面白いものでもないかと誘いに乗ってみたのだ。休日にゴロゴロするより、外出したほうが腹に余計なものもつきにくいだろうという算段も入れている。

「思ったより、入荷してへんかったな」

 小山さんは残念そうに唸った。

 数冊の本は買っているけれど、

「しゃあなしやで」

 ということらしい。

「まあ、それなりに歩いて疲れたやろ。喫茶店入ろや。付き合ってくれたお礼に奢るわ」

 私は頷き、地元民しか入らないような古びた喫茶店に入った。

 大阪には住宅街の角などによくある、古びていて、でも看板はしっかりと出ている感じの店だ。

 メニューを見ながら私はどうするか迷った。

 外は春めいて暖かくなってきている。

 ホットコーヒーを飲めば汗をかきそうで、アイスコーヒーを飲めば身震いしそうな気がした。

「どっちにする?」

 小山さんがコーヒーを飲む前提で聞いてくる。

「この時期、どちらにするか迷いますよねぇ」

「確かになぁ。微妙な気温やもんな。ある意味ギャンブルや」

 結局、私はホットを小山さんがアイスを頼んだ。

「暑いですね」

「今日はアイスのほうが正解やったな」

 古書店巡りは数週間空けてまた行こうという話になった。

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大阪たれ 上住断靱 @Uwazumi

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