デパ地下の寿司
その日はいつもの居酒屋で、特に真新しいことはない近況報告のような会であった。挨拶代わりの仕事の愚痴はいつものことで、これを蓄えて出版社に売り込もうという冗談までセットである。
ところが、その日の小山さんは珍しい話をした。
「デパ地下の寿司を食ったことあるか?」
そうえばあまり食べたことがない。九州の祖母宅に行ったとき、最寄りの駅で買って貰った記憶があるぐらいだ。
「上の階の飲食店じゃなくてですか?」
「そうそう、地下のほうや」
「大阪ではあまりないですね」
私と小山さんも寿司屋にはあまり行かない。嫌いではないが特別な食べ物という意識が強い。焼肉よりもハードルが高いように感じている。そのくせ、海鮮が出るお店では割と寿司を頼んだりもしている。
「この間、大阪に出てきたオカンと会うて、夕飯に買ってくれたんや。これが思いの外、面白くてなぁ」
人である以上、この人にも親はいたんだなと思い、親の話が出てきたことに思わず微笑んでしまう。
「それが寿司にワサビがついてないんや。セルフの時代やで」
「ワサビの小袋では無く、ダイレクトについているほうですか?」
「せやせや、それで驚いた。食べれん人は、もうワサビ抜きの寿司を探したり、わざわざ取ったりせんでええねん。欲しい人だけつける時代やな。考えたら、そのほうが効率ええわな」
わずかな変化を面白く思う。
しかし、我々がスーパーで寿司を買わないだけで、どこもかしこもそうなっているのかもしれない。
「また買うのが楽しくなってきたわ」
そんな変化一つでリピーターが生まれるなら、企業もそれほど楽なことはないだろう。そんな話をしたものだから、二軒目は海鮮が出るお店にした。
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